古代の染色技法。絞り染めの纐纈(こうけち)、板締めの夾纈(きょうけち)、ろうけつ染めの臈纈(ろうけち)の三纈(さんけち)とは?


歴史の教科書のなかで、三纈(さんけち)という言葉を一度は目にしたことがあるかもしれません。

漢字で書くと非常に難しいですが、三纈(さんけち)とは、三種類の染色技法に関するものです。

    • 絞り染めの纐纈(こうけち)
    • 板締めの夾纈(きょうけち)
    • ろうけつ染めの臈纈(ろうけち)

「上代の三纈」と称して、以上の三種類の染色技法が、奈良時代には(710〜794)今の中国からすでに伝わっていました。世界文化遺産にも指定され、多数の美術工芸品を収蔵していた正倉院に、三纈(さんけち)の技術を示す品々が、現在も保管されています。

正倉院は、宮内庁が管理しており、宮内庁のホームページに詳しい内容が記載されています。

参照:正倉院について

奈良・平安時代の中央・地方の官庁や大寺には,重要物品を納める正倉が設けられていました。そしてこの正倉が幾棟も集まっている一廓が正倉院と呼ばれたのです。しかし,あちこちに置かれた正倉は,歳月の経過とともにいつしか亡んでしまい,わずかに東大寺正倉院内の正倉一棟だけが往時のまま今日まで残ったのです。これがすなわち,正倉院宝庫です。

昔は、「正倉院」と呼ばれる重要物品を納める建物がたくさんあり、一棟だけ今に残ったのが、いわゆる私たちが呼ぶ「正倉院」なのです。

三纈(さんけち)の技法は、連綿と受け継がれる

三纈(さんけち)の技術は、今に連綿と受け継がれています。

それぞれの技術は、昔とはまったく同じではないと思いますが、その技術の根幹は変わっていません。

纐纈(こうけち)=絞り染め

纐纈(こうけち)は、今でいう「絞り染め」です。

生地を糸や紐でしばったり、生地を縫ったりすることで、その部分が染まるのを防ぐ(防染)の技法です。

染めもの体験を一度でもしたことがある人はよく理解できると思いますが、絞り染めは一番手軽にできる技法です。

技法が簡単なだけに文様も素朴なものが多く、支配者の専有物が主体の正倉院裂(しょうそういんぎれ)の中では重用はされていませんが、民衆の間ではかなり愛用されていたのではないかと考えられます。

夾纈(きょうけち)=板締め

夾纈(きょうけち)は今でいう「板締め」です。

その名の通り、板のあいだに生地をきつく挟み込むことで、その部分を防染する技法です。

正倉院にある裂の中でも遺例が多く、多彩で大型の文様を量産できる特徴があり、華麗な唐花文(からはなもん)の流行に大きな役割を果たしました。

型紙を使う友禅染めや、浴衣や手ぬぐいを染めている注染(ちゅうせん)などでは、現代でも夾纈の技法が取り入れられていたりします。

臈纈(ろうけち)=ろうけつ染め

臈纈(ろうけち)は、今でいう「ろうけつ染め」です。

溶かした蝋(ろう)を防染剤として生地に塗り、ろうを塗った部分だけが染まらずに模様となる技法です。中国や日本のみならず、世界中でこの技法が古くから使われてきました。

日本では、筆を使って蝋を塗るのが一般的だったようですが、インドでは木版、インドネシアのチャップと呼ばれる銅板や手描き用のチャンチンなど、使われる道具はさまざまです。

正倉院に保存されている臈纈の遺品は、「押臈纈(おうろうけち)」と称される版型法によるものが圧倒的に多いです。

技法上、色の数に制約があったため夾纈ほど流行しなかったですが、版型の押印角度を変えるなどした面白みのある作例がよくみられるようです。

蜜蝋(みつろう)は、古代に薬用として輸入され、高価なものであったためか、平安時代以降に臈纈は、みられなくなっています。

明治時代に入り、ウルシ科のハゼノキからつくられた木蝋(もくろう)による「ろうけつ染め」が再び登場したのです。

「ろうけち」と「ろうけつ」は、ともに蝋による防染という面では同じですが、表現上に大きな違いがあると、前田雨城氏が著書『日本古代の色彩と染』の中で以下のように指摘しています。

「ロウケツ」は蝋のひびわれに入った染料の着色模様の美しさが主眼であるが、「ろうけち」は、蝋のひびわれ模様のできているものが失格品とされている。

防染のため高価な蜜蝋を用いたのであるから、このことは当然で、現在残されている「ろうけち」に「ロウケツ」のような、ひびわれ模様のあるものもあるが、これなど失格品のため愛用されず取残されたものといえよう。

意識してひびわれを作りこれに美を求める「ロウケツ」と、意識してひびわれを作らないようにして、その防染部に造形の美を求めた「ろうけち」には、その染め方に多少の相違があるのは当然ながら、その作意の場が一部分に過ぎないので、「ロウケツ」の要領でその大部分を行なってもよい。

蝋のひびわれを肯定的に許容するのか、それともしないのか、その着眼点に違いがあるという視点は興味深いです。

正倉院保存の三纈の内訳

夾纈(板締め)は、約100種、臈纈(ろうけつ染め)は約60種、纐纈(絞り染め)は約20種あるそうです。

内訳をみると、当時は板締めが代表的な模様をつける技法であったのではないかと考えられますが、一方でろうけつ染めのハギレもたくさんあるようなので、どれが一番使用されていたとは断定できないかと思います。

三纈(さんけち)の技術は、現代でももちろん使われており、世界中でも類をみないほどその技術が発展していたのです。

ちなみに、奈良正倉院には藍で染めた紐が現存しており、この紐は天平勝宝4年(752年)の東大寺大仏開眼供養の際に使われたとの記録が残っていることから、日本における藍染の歴史の古さをうかがうことができます。

参考文献:『正倉院裂 京都書院美術双書―日本の染織『月刊 染織α (アルファ) 1986年06月号 No.63』


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