日本において、月を題材にした模様(文様)は「月象文」として、古くから活用されてきました。
月の姿が変化していく様子は、季節ごとの情趣(風情)を表し、「花鳥風月」として好んで詩歌にも詠まれてきました。
工芸品や染織品など、月を模様(文様)に取り入れた優れた作品が数多く作られてきました。
デザインにおける月象文(げっしょうもん)
染織品において、月象文が用いられた最古の遺品としては、奈良県の中宮寺が所蔵する「天寿国繍帳(天寿国曼荼羅繡帳)」があります。
飛鳥時代(7世紀)の染織工芸品とされる「天寿国繍帳」には、「薬壺を前にした兎文様」が描かれていますが、これは中国の伝説に由来する月の象徴として用いられていると考えられます。

天寿国繍帳(てんじゅこくしゅうちょう),左上に兎が描かれている,TOKYODO, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

天寿国繍帳(てんじゅこくしゅうちょう),兎,Tokyo National Museum, Public domain, via Wikimedia Commons,Link
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安土桃山時代に作られたとされる「辻が花」の裂には、日象と三日月が描かれたり、江戸時代の狂言装束には、友禅染で秋月文が描かれた肩衣などの遺品があります。
月は、紋章にも活用され、満月や半月、三日月、朧月(ほのかにかすんだ月)などがデザインされたものや、月と植物や器物などを他のデザインと組み合わせたものがあります。
月兎文(げっともん)
中国の前漢の武帝の頃、淮南王であった劉安(紀元前179年〜紀元前122年)が学者を集めて編集させた思想書である『准南子』には、月と兎の伝説が記載されています。
蟾蜍(ヒキガエルを意味する)にされる常娥(中国神話に登場する人物)の物語で、月の世界には一匹の兎が不老不死の仙薬を挽き続け、大きな桂の木があるとしています。
この伝説が、日本にも伝わり、「月兎文」として月と兎がセットで描かれることがありました。
日本では月と兎は餅搗き、十五夜の月、満月は「もち月」に通じるとされ、また、餅は最も大切な食物で霊力があるものとされることから、中国の薬挽きの兎と対照的にされていました。