赤色」カテゴリーアーカイブ

染色・草木染めにおける茜(あかね)。茜染に用いた茜の薬用効果や歴史について

あかね(学名:Rubia argyi)は、アカネ科アカネ属のつる性多年生植物で、日本においては、赤色を染めたものの最初の染料と一つと考えられています。

あかねは、根っこが赤い色をしており、根っこの煎汁せんじゅうによって染色された赤い色合いは、古来「赤根」と呼ばれていたのです。

あかねは、植物名と染色名が同じであり、例えば「むらさき」と「紫草むらさき」、「べに」と「紅花」、「きはだいろ」と「黄檗きはだ」など、非常に古くから染色と関係性があったこと名前からもわかります。
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染色・草木染めにおける紅花。薬用効果や歴史について

紅花べにばな(学名:Carthamus tinctorius)は、キク科ベニバナ属で花弁かべんを植物染料にします。

秋に種をまいて、冬を越して春になってから開花、結実してから枯れる越年草えつねんそう(二年草)として生育したり、寒い地域では一年草として春早い時期に種をまく場合もあります。

紅色の染料としての用途のみならず、食用油の原料としても栽培されています。

紅花,Carthamus tinctorius 050709b

紅花,Carthamus tinctorius,Pseudoanas, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

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桜染め,アルミ媒染

染色・草木染めにおける桜(さくら)

桜は、古くから人々に親しまれてきました。

7世紀後半から8世紀後半(奈良時代末期)にかけてに成立したとされる日本に現存する最古の和歌集である『万葉集まんようしゅう』には、4,500首以上歌が集められていますが、桜を詠んだ歌が非常に多く、「桜の花」、「桜花」、「山桜」、「山桜花」などとあり、40首が収められています。

ただ、桜が染色に用いられるようになったのは近年になってからと考えられます。

江戸時代には「桜鼠さくらねずみ」など色名がありますが、桜自体を使用したわけではなく、桜色がかった鼠色ねずみのことを指していると考えられます。 続きを読む

染色・草木染めにおけるバラ

ヨーロッパの花の中でも、古くから観賞用として人々に愛され、美術や工芸の模様におけるモチーフとされてきたのがバラ(薔薇)です。

日本においても古くからバラが栽培されていたとされ、バラを描いた美術や工芸品も残っています。

バラ(薔薇),Rosa 'Karneol Rose' Rupprecht Radke 1964

バラ(薔薇),Geolina163, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons,Link

平安時代には、中国からコウシンバラ(庚申薔薇こうしんばら)が渡来していたと考えられており、「古今和歌集」や「枕草子」、「伊勢物語」や「源氏物語」などから、バラが観賞されていたことがわかります。

関連記事:デザインにおけるバラ(薔薇)

歴史的には、紅花べにばなのように花を染料にして染めことは行われてきましたが、バラの花びらを使った染色というのは、ほとんど行われなかったと考えられます。

一般的には花びらは染まりにくく、たとえ染まったとしてもすぐに色あせてしまうものとされてきました.

ただ、花びらを使用した染色において、バラの花が活用されることがあります。 続きを読む

染色・草木染めにおけるチューリップ

花を染料にして染める行為は、古くからおこなわれてきました。

特に有名なのが紅花べにばなで、赤系の色を染めるのに重要なものとされてきました。

紅花以外にも、杜若かきつばたや、はぎ露草つゆくさなどの花りであったり、槐花かいかえんじゅ)、金銀花きんぎんか(すいかずら)、向日葵ひまわりなども染料とされていました。

紅花染めが色の移ろいが激しい染料として、数々の歌にも読まれているように、一般的には花びらは染まりにくく、たとえ染まったとしてもすぐに色あせてしまうものとされてきました。 続きを読む

ラック(紫鉱)、染め色

染色・草木染めにおけるラック(紫鉱)。ラック(紫鉱)の染色方法について

正倉院薬物しょうそういんやくぶつに記された正倉院宝物しょうそういんほうもつの中には、ラック(紫鉱しこう)が残されており、染色に使用されていた可能性もあります。

ラック(紫鉱しこう)は、紫梗しこう紫鉚しきょうなどとも書き、江戸時代には花没薬はなもつやくとして薬用の他、染色にも利用されてきました。 続きを読む

蘇芳色(すおういろ)黒みを帯びた赤色

染色・草木染めにおける蘇芳(すおう)。蘇芳(すおう)の染色におけるポイントについて

蘇芳すおう(学名Caesalpinia sappan)はインドやマレーシアなどの熱帯地域に自生しているマメ科ジャケツイバラカ亜科の植物です。

蘇芳すおうは成長すると樹高が5~10メートルになり、幹にはトゲが多く、葉は鳥の羽が並んでいるような形の羽状複葉うじょうふくようで、5月から6月ごろに円錐花序えんすいかじょを出し、黄色い花を咲かせます。

蘇芳(すおう)Caesalpinia sappan1

蘇芳(すおう),Caesalpinia sappan,Vinayaraj, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons,Link

蘇芳すおうは、その芯材しんざいに含まれるブラジリン(brazilin)という天然赤色色素が染料として使われてきました。 続きを読む

染色・草木染めにおける赤芽槲(久木)

赤芽槲アカメガシワ久木ひさぎ)は、トウダイグサ科のアカメガシワ属で、学名はMallotus japonicusです。

赤芽槲アカメガシワ久木ひさぎ)は、新芽が赤いことから名付けられたもので、樹皮じゅひ灰褐色はいかっしょくで若枝が赤褐色せっかっしょくをしています。

赤芽槲(久木),Mallotus japonicus

赤芽槲(久木),Mallotus japonicus,Kirisame, CC BY-SA 3.0<https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons,Link

日本においては、本州から沖縄まで生育し、台湾や中国の山野にも分布しており、成長すると10mを超える大木になます。

久木ひさぎや、ひさぎ比佐岐ひさぎとも書かれ、これらは赤芽槲アカメガシワの古名として知られています。

ホオノキカシワの葉っぱと同じように、大きな葉っぱに食物を盛る習慣があったと考えられています。

5月〜6月ごろに小さくて黄色い花が咲き、その後に実を付け、10月ごろに成熟し、種子は焦茶色こげちゃいろをしています。 続きを読む

日本における化粧の歴史とその色彩。古典的な赤化粧から、白粉を使った白化粧について

化粧の原型は、顔や身体への彩色さいしょくと言われています。

体に色を塗っているアフリカの部族を映像で見たことがある人もいると思いますが、古くは部族や階級間の差別化や、色がもたらす呪術じゅじゅつ的な目的のために彩色さいしょくが行われていたと考えられているのです。

Karo Woman at Korcho. (in explore) - Flickr - Rod Waddington

Rod Waddington from Kergunyah, Australia, CC BY-SA 2.0 , via Wikimedia Commons,Link

染料や顔料がんりょうの使用目的について、上村六郎(著)『東方染色文化の研究』には、まず薬用効果が前提としてあり、そこから色を獲得してきた目的について3点挙げています。 続きを読む

酸化鉄から作る絵具、花赤と有馬温泉で染める湯染木綿

江戸時代に作り出された絵具えのぐに、「花赤はなあか」というものがありました。

今では有馬の辻絵具店だけでしか、製造されていない花赤はなあかですが、作り方は大変興味深いものです。

江戸時代に作り出された絵具である花赤

花赤はなあかは、酸化鉄を水につけ、毎日その上澄み液を捨てるという作業を繰り返すこと約10年かけてできます。

花赤はなあかについては、下記の記事が良くまとまっています。

参照:人間国宝の愛した「花赤」という絵具

酸化鉄で色を染める

有馬ありまでは、湯染木綿という名前で、温泉の湯を利用して木綿布を染めたものが土産として売られていました。

有馬の湯染木綿

温泉で染めるのは、有馬温泉だけの産物ではなく、赤い湯といわれる赤褐色せっかっしょくに濁った酸化鉄を含む温泉であればどこでも染められるものです。

群馬県の伊香保いかほ温泉などでも、大正10年(1921年)頃まで、温泉で染めた浴衣や手拭いなどが売られていたようです。

湯染木綿の発祥がいつなのかは不明ですが、明治15年(1882年)の『湯山町輸出入物品概表』には、「湯染木綿15反15円」とあり、この頃には有馬(湯山町とは、有馬の旧地名)において湯染木綿が作られていたのがわかります。

湯染木綿が有馬土産として作られていたのは、昭和初期までとされています。

かえでの葉っぱを使用し、たたき染めで模様を表現したりもしていたようです。

【参考文献】『月刊染織α 1983年No.31』