ものづくり」カテゴリーアーカイブ

板締め染め(plate resist dyeing)。染色技法における板締め(いたじめ)について

板締めは、布地に両面から板を当てて、きつく両側から固定することで防染し、模様を染める技法です。

日本で古くから行われてきた染色技法を表す言葉に、絞り染めの纐纈こうけち、ろうけつ染めの臈纈ろうけち、そして板締めの夾纈きょうけちがあります。

上記の三種類の技法は、「三纈さんけち」という言葉でまとめて表されます。 続きを読む

「だれが作ったか?」という物語の大切さ。ものづくりにおける「作家性(さっかせい)」について

2022年11月にOpenAIによって公開された人工知能チャットボットであるChatGPTは、世界中からの関心を集めました。

それからというものの画像生成AIや動画生成AI、音楽生成AIなど、さまざまな分野での人工知能の発達が目まぐるしく、日々進化しています。

良質なコンテンツが安価で、無限につくられてしまうAIが発達した社会においては、本体の内容(コンテンツ)に付随する付加情報がより大事になってくるとされています。 続きを読む

糸目糊(いとめのり)とは?友禅染めの工程における糸目糊置きについて

糸目糊いとめのりとは、友禅染めの一工程である「糸目糊置き」に使用する防染糊ぼうせんのりも言います。

友禅染め(ゆうぜんぞめ)では、青花液あおばなえきで下絵を描いた後に、筒描つつがきによって模様(文様)を描き、ある色と他の色との境目を糊で線描きすることがあります。

色をすときに染料のにじみを防ぐために、青花で描いた下絵にそって、糸のように細い防染糊を置くのです。

この色と色の境目を防染する糊を「糸目糊いとめのり」といい、糸目糊を使用して糸目糊置きが行われます。 続きを読む

一陳糊(一珍糊)を使用した一陳染め(いっちんぞめ)の技法。 一陳染めの語源や歴史について

一陳いっちん(一珍)とは、江戸時代から伝わる糊防染のりぼうせんの一つです。

一陳糊(一珍糊)を使用した一陳染め(いっちんぞめ)は、手描き友禅に用いられる糸目糊いとめのりとも、板場友禅に用いる写しの色糊とも、また長板中型や紅型、その他の型染めに用いる防染糊とも違う、特徴的な糊を使う技法です。

貞享じょうきょう4年(1687年)刊の『雛かた』(源氏ひながた)の下巻に、一陳(一珍)についての記載があります。

これについて、後藤捷一ごとうしょういち氏は、「一珍糊いっちんのりを使って模様を染めること。一珍糊とは小麦粉と消石灰の混合物を布海苔ふのりで練り合わせたもので、この糊で型付けし乾燥した後、色差しを行ない、乾燥後布の両耳を斜に引いて糊をかき落とすもので、一名き落し糊ともいい、水洗いが不要である」と指摘しています。 続きを読む

染織におけるタペストリー(Tapestry)の特徴について

タペストリーは、模様(文様)に応じて緯糸を下絵にしたがって織り上げた綴織つづれおりの一種です。

綴織つづれおりは、織りたい図柄の下絵を、つづれ機に張った経糸の下にあてがいながら、平織の組織で経糸に地緯糸じぬきいと絵緯糸えぬきいとを織り込み、図柄を織り表していきます。

タペストリーは、古代ローマ時代から建築や宮殿を飾ったといわれ、中世以後、フランスのフランドルを中心として発達していきました。 続きを読む

バティック(ジャワ更紗)とは?バティックの歴史と制作工程について

バティック(Batik)とは、ろうを使って防染ぼうせんするろうけつ染め(臈纈染ろうけつぞめ)によって模様が染められた布地の全般を表し、2009年にはインドネシアのバティックがユネスコの無形文化遺産に登録されています。

インドネシアのジャワ島で作られるバティックは有名で、ジャワ更紗とも呼ばれます。

バティック(Batik)という言葉の由来は、インドネシアのジャワ語で「書くこと」を意味する「アンバー(amba)」と「点を打つ」を意味する「ティティック(titik)」を組み合わせたもので、「点を描くこと」を意味していました。

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埼玉県川越 喜多院所蔵 『職人尽絵屏風』「型置師」

武蔵国(武州)におけるものづくりの歴史。江戸時代の埼玉県域において有名だった地場生産物(工芸品)について

武蔵国むさしのくには、現在の埼玉県と東京都、神奈川県の一部でした。

江戸時代において、武蔵国のうち、「将軍のお膝元」である江戸城及び江戸市中は御府内ごふないと称されていました。

現在の埼玉県域は、江戸時代以降、独自の個性を活かした歩み方をするのではなく、すべてが江戸や東京という大都市との間に、密接な繋がりを持って今日に至っています。

江戸時代は、御用職人ごようしょくにん(幕府や諸藩、武家屋敷に召し抱えられた職人)や町職人、足軽や下級武士が内職として、城下町でいろいろな手工業の仕事をしていました。

武州ぶしゅうにおけるものづくりの形成を考える場合、江戸やその他の城下町形成期における職人の存在、享保きょうほう期(1716年〜1736年)以降の江戸を取り巻く経済圏の中で培われた地場生産物の職人、明治維新になってから士族しぞく(旧武家)が職人となったものなどが挙げられます。 続きを読む

米糊(こめのり)とは?

米糊こめのりとは、米から作った捺染なっせん、または仕上げ用の糊で、使用する米の種類には粳米うるちまい糯米もちごめがあります。

粳米うるちまいを使ったうるちのりは、残った米飯を煮て作った糊液で、浴衣の仕上げに用いると生地が硬く、ハリのある風合いになります。

また、粳米うるちまい長時間水にさらして一部を分解させ、潰して煮あげたものを姫糊ひめのりといい、型紙を使用する捺染なっせんや織物の仕上げに用いられます。

糯米もちごめは粉末にして水とこねて蒸すか、煮るかして糊にします。

米ぬかや食塩を加えて筒描きや型紙の捺染用の糊としたり、友禅板の敷糊しきのりにも用いられます。

防染糊として使用し、捺染して乾燥すれば、引き染め程度の湿潤や摩擦に耐えます。

水中に30分ほどつけておけば、簡単に糊は洗い流すことができます。

布の触感をやわらかくし、光沢感を与えるための砧打ち(きぬたうち)

砧打ち(きぬたうち)とは、布を木槌きづちで打って感触を柔らかくし、光沢感を出すために行われます。

古くから、絹や麻布の仕上げにきぬた打ちが行われました。

布の触感をやわらかくし、光沢感を与えるための砧打ち(きぬたうち)

布を織るときには張力がかけられ、洗ったりのり付けしたりとさまざまな要素によって、布を構成する糸は細く固まって粗硬そこうな感じになります。

平らな板や石の上などに置いた布を木槌きづちで丁寧に叩いていくことによって、糸はほぐれて布目がつまるとともに柔らかくなり、光沢感も次第に表れてきます。

打布機なども作られましたが、それでもきぬた打ちには時間がかかるため、柔軟剤で仕上げなど後加工の技術の発達によってほとんど行われなくなります。

きぬた打ちは、むかし女性が夜の仕事として行い、その響く音に風情を感じて歌に詠まれます。

室町時代に成立し、世阿弥ぜあみ作といわれる能楽作品に「砧(きぬた)」という演目があり、この作品では、女主人公がきぬたを打つことが情念の表現となっています。

Youtubeには、「砧(きぬた)」の演目がアップロードされているので、興味がある方はご覧になってください。