ハーブとは、主に熱帯地方に産し、葉や茎、花などが人々の生活に役立つ、香りのある植物の総称です。
料理やお茶、薬や香りなどに使用され、染色においてもハーブが活用されてきました。
目次
染色におけるハーブ(herbs)
ハーブという概念が広いため、草木染めとハーブ染めを区別することは難しいですが、技術的な違いはほとんどありません。
従来、草木染めとして日本で取り入れられて染料植物は、比較的によく使用されるものは限定されていますが、ハーブとして世界各国で自生しているものを染めることで、同時に香りを楽しみながら染色を行える点が魅力的です。
中世期になると、イギリスなどのヨーロッパでは、染色用のハーブの栽培が盛んに行われ、赤、青、黄色の染料を調合したり、媒染剤を使用することによって、さまざまな色を表現していました。
1856年、ラベンダー色の合成染料が開発され、すぐにアニリン系の化学染料が生産されるようになり、天然染料は衰退していきました。
ハーブ染めの大まかな流れとしては、①染液の抽出②染色③媒染となります。
採取したハーブを染液として抽出する際は、花びらの場合は1回煮出すだけで良いですが、樹皮、木材、実、葉などは2回〜数回煮出し、煮出した全ての煎汁をあわせて使用します。
染色後、媒染することによって、染め付きを良くし、発色を助け、堅牢度を高める効果があります。
関連記事:染色・草木染めにおける堅牢度。染色堅牢度を高める方法
媒染剤を変えることによって、同じ染料で染めても発色を変化させることができます。
媒染剤としては、アルミニウム、銅、クロム、鉄、錫などの金属塩が用いられます。
染料に使用できるハーブの種類
どの植物も染色に使用しようとすればできますが、ハーブで染色に使用できるものとして、以下のようなものが挙げれます。
カモミール(Chamomile)
カモミール(学名:Matricaria chamomilla)は、ヨーロッパ原産のキク科の耐寒性一年草で、高さが60cmほどに成長します。
花を採取してお茶として飲まれたり、ヨーロッパでは薬草としても活用されてきました。
染め色は、アルミやクロム、銅媒染の順で染め上がりの黄色に渋みがかかっていきます。
鉄媒染では、グレーに染まります。
クチナシ(Gardenia)
クチナシ(学名:Gardenia jasminoides)は、アカネ科の常緑低木で、高さが1m〜3mに成長します。
香りの良い花として、庭木や切花として知られ、花の香りは、花冠に含まれる精油によるものです。
果実は、晩秋になると熟して紅黄色になり、10月〜11月ごろに採取し、陰干ししたものが生薬の「山梔子」となります。
カロチノイド色素を含み、黄色の着色料として古くから布地や食料の染料として使われてきました。
クチナシの染め色は、基本的には明るい黄色となり、アルミ媒染では鮮やかな山吹色となります。
クロム媒染では、ややくすんだ黄色、銅媒染で緑がかった黄土色、鉄媒染では深みの増した黄土色に染まります。
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クローブ(Clove)
クローブ(学名:Syzygium aromaticum)は、フトモモ科で、スパイスの中でも最もポピュラーなものの一つです。
日本では、チョウジ(丁字)の名前でも知られています。
開花期のつぼみを乾燥したものが、さまざまな用途に使用されます。
香辛料として、料理や酒類はもとより、生薬として消化機能促進や駆風に使用されます。
化粧用として香水や防虫香として用いられたり、丁子油は、刀剣などのサビ防止用にも使われました。
染め色は、茶色系で、アルミ媒染で白味がかったセピア色、クロム焙煎でココア色、銅媒染で黄味のある栗色、鉄媒染で渋い黒茶に染まります。
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シャクヤク(Parony)
シャクヤク(学名:Paeonia lactiflora Pallas)は、キンポウゲ科の多年草で、中国では古くから仏花として使用されていました。
5〜6月ごろに茎頂に1個の大きく美しい花を咲かせます。
シャクヤクが中国からヨーロッパに渡ったのは19世紀初めて、イギリスやベルギーなどでは園芸用として広まりました。
シャクヤクの根には、アスパラギンが含まれ、鎮痛や通経に効果があるとされます。
シャクヤクの赤い花を乾燥させて染料とし、アルミ媒染ではやや赤みを帯びた鼠色、鉄媒染では紫味を帯びたグレーに染まります。
セージ(Sage)
セージ(学名:Salvia officinalis)は、ヨーロッパ原産のシソ科の多年草で、高さ30cm〜70cmに成長します。
葉には精油分が含まれ、強壮作用、消毒・殺菌効果、防腐効果があり、家庭薬として多くの家庭の庭先に植えられました。
セージの葉の部分は染料としても使用され、染液を煮ると強い香りが広がり、ハーブ染めの醍醐味があります。
グリーン系の美しい色に仕上がりますが、銅媒染では落ち着きのある緑に染まります。
タイム(Thyme)
タイム(学名:Thymus vulgaris)は、ヨーロッパ原産の常緑の小低木で、高さが10cm〜30cmほどに成長します。
初夏に淡紅色〜白の小花をつけ、全草(植物の全部の部分)を乾燥させたものは、香料として調味料に用いられます。
古代ギリシャの人々は、タイムの香りを勇気と気品の象徴として愛用していたとされます。
タイムを染色に用いる場合、アルミ媒染でベージュ、クロム媒染でやや緑がかり、銅媒染で茶味を帯び、銅媒染でレンガ色に近い茶色に染まります。
ハイビスカス(Hibiscus)
ハイビスカス(学名:Hibiscus rosa-sinensis)は、広く熱帯地方で栽培され、高さが2m〜5mほどに成長します。
夏から秋にかけて開花し、その美しい姿は園芸用にも広く親しまれています。
乾燥した花に熱湯を注ぐと、鮮やかな紅色の酸味のあるハイビスカスティーになります。
染料としても、乾燥した花を使用し、煮出した染液は鮮やかな紅色をしていますが、染め色は茶系統になります。
アルミ媒染で薄くて明るい感じの白茶色となり、クロム・銅、鉄媒染で渋みのある茶色に染まります。
ビロードモウズイカ(Mullein)
ビロードモウズイカ(バーバスカム)(学名:Verbascum thapsus)は、北アフリカ原産の多年草で、高さが50cm〜150cmほどに成長します。
7月〜8月ごろに、黄色い花が咲き、花の浸出液は、髪の毛をつややかにするリンスとしての効果があります。
染料としては花の部分を使用し、アルミ媒染でやや灰色みを帯びた黄色(アイボリー)、銅媒染で淡い緑色、鉄媒染では茶色系に染まります。
ペパーミント(Peppermint)
ペパーミント(学名:Mentha spicata)は、地中海が原産のシソ科ハッカ属の多年草で、茎は30cm〜90cmほどに成長し、花は穂状で8月〜9月に開花します。
全草(植物の全部の部分)からメントールを含んだ精油が得られ、この精油には香味があり、お菓子や歯磨きなどの香料として、また、健胃や駆風薬などに対する薬として用いられていました。
清涼感のある香りは、ミントティーとして飲料にされ、室内香や香水などにも幅広く使われています。
染料としては、アルミ媒染でベージュ、クロム媒染・銅媒染では黄味がかった緑色、鉄媒染ではシルバーグレー(銀色と灰色を合わせたような色)に染まります。
ホップ(Hop)
ホップ(学名:Humulus lupulus)は、ヨーロッパ原産でビールの苦味料として知られ、雌雄異株の多年草で高さ8mほどにも成長します。
いわゆるホップと呼ばれるものは、雌花が実を結んだ時に包が成長し、内部に球果を形成した状態のものを指し、樹脂成分や精油分、タンニンなどの成分が含まれています。
ホップ腺(包や子房に付く粒状の腺)は、芳香性健胃薬としてや、鎮静や利尿薬としても使われていました。
ホップによる染色は、アルミ媒染でサーモンピンクがかった薄茶色、クロム・銅媒染で茶味が増し、鉄媒染でグレーに染まります。
ポピー(Opium poppy)
ポピー(学名:Papaver somniferum)は、ヨーロッパの地中海沿岸地方が原産とされ、日本へは中国から渡来しました。
2年生草木で高さは1.5mほどに成長し、初夏に開花します。
ポピーの種類によっては、果実のケシに含まれる乳液からアヘンが取れますが、染色には深紅色の花弁を乾燥させて染料として使用します。
アルミ媒染では薄いセピア色(茶色に近い色)、クロム・銅媒染で緑味を帯びた茶色、鉄媒染では、赤みが残ったような黒みがかったセピア色に染まります。
マリーゴールド(Marigold)
マリーゴールド(学名:Tagetes)は、キク科でマンジュギク属の一年草で、広く園芸種として栽培されています。
草高は、15cm〜30cmに成長し、夏に分枝し、4cm〜8cmの頭状花をつけます。
西洋では乾燥した舌状花をエキス状にして、外傷に対する消毒薬として使用されていました。
錫媒染で花の色に近い色合いを染められ、酢酸アルミの媒染で黄色、クロム媒染でベージュ、酢酸銅の媒染で金茶色、鉄媒染で海松色を染めることができます。
関連記事:染色・草木染めにおけるマリーゴールド
矢車菊(Cornflower)
矢車菊(学名:Centaurea cyanus)キク科でヨーロッパの東南部が原産地とされ、ドイツの国花として知られています。
6月〜7月に紫色の多数の花をつけ、花を染料として使用します。
アルミ媒染でベージュ、鉄媒染でやわらかなグレーを染められます。
ヤロウ(Yarrow)
ヤロウ(学名:Achillea millefolium L.)は、北米やヨーロッパに自生する多年草で、夏に白色から薄紅色の小さな頭状花をつけます。
薬用としては、健胃、発汗、催経(月経が不順のとき、月経を促すこと)の効果があり、精油には消炎作用があります。
花の部分を染料として用い、ヤロウは銅媒染でクリアな緑色が出ます。
クロム媒染では黄色味が強く、鉄媒染では黒が強くなります。
ラベンダー(lavender)
ラベンダー(学名:Lavandula angustifolia)は、地中海沿岸が原産とされるシソ科の植物で、伝統的にハーブとして古代エジプト、ギリシャ、ローマ、アラビア、ヨーロッパなどで薬や調理に利用されてきました。
ラベンダーという名前は、ラテン語で「洗う」という意味の「ラワーレ(lavare)」という語からきており、洗濯や入浴に使用していたという歴史があります。
民間薬としては花を乾燥させて、入浴剤としてリウマチの治療に用いられ、麻を洗濯する際に香りづけと殺菌を兼ねて使われました。
ラベンダーの香りには、精神安定や偏頭痛に効果があるともされます。
ラベンダーの花を染色に使用する場合は、生のままか、乾燥したドライフラワーのどちらも活用できますが、染まりあがりの色合いはどちらを使用するかによって変わってきます。
ラベンダーの採取する時期や染色時の媒染剤よっても染まり具合は変化していきますが、緑やベージュ系に染まります。
関連記事:染色・草木染めにおけるラベンダー
レモングラス(Lemongrass)
レモングラス(学名:Cymbopogon citratus)は、インド原産で熱帯から亜熱帯地域で栽培されるイネ科の多年草で、葉はススキににており、高さ50cm〜60cmほどに成長します。
葉や茎を蒸留するとレモングラス油が採れ、主成分のシトラールは、合成香料の原料として食用や香料に使用されます。
葉はお茶にも使われ、レモングラスという名の通り、レモンの風味があります。
染色には、クロム媒染で黄土色、銅媒染でオリーブグリーン、鉄媒染で茶色に染まります。
ローズ(Rose)
バラは世界各国で栽培され、品種改良がされてきましたが、香料用としては、ブルガリアに産するダマスクローズ、フランスのキャベッジローズがよく知られています。
ローマ人は、バラを花の冠にしたり、香水、芳香浴や二日酔いの薬にと広く利用していました。
バラの花びらは、乾燥させて染色に用いられ、花の種類や媒染剤によって色合いが変わってきます。
関連記事:染色・草木染めにおけるバラ(薔薇)
ローズマリー(rosemary)
ローズマリー(学名:Rosmarinus officinalis L.)は、地中海沿岸に自生している常緑低木で、高さ1m〜2mほどに成長します。
清涼感のある香りは、古来、魔力を防ぐ力があるとされ、小枝を使って魔除けとしたり、燻香としてたいたり、防虫香として使われました。
クロム媒染で黄味を帯びた緑、銅媒染で深みが増し、鉄媒染でグレーがかった深緑に染まります。
サフラワー(Safflower)
サフラワー(学名:Carthamus tinctorius)は、古代エジプト時代から用いられてきた歴史あるハーブの一種として知られています。
花に含まれる色素としては、水に溶けにくい紅色色素であるカルタミン(carthamin)と、水に溶ける黄色色素であるサフラワーイエロー(saffloryellow)を含みます。
日本では「紅花」として古くから知られ、花は薬用や染料に使用され、種子からは食用油を採ることができます。
生薬としては、婦人病や血行障害の治療や更年期障害にも広く用いられてきました。
種子に含まれる脂肪脂(主にリノール酸)は、コレステロール代謝を正常化することから動脈硬化予防の製剤も作られています。
紅染は、灰汁などのアルカリによって抽出された紅色素に、酸を加えて紅を発色させ、布や糸に染め付けます。
摘み取った花は、紅餅や花餅と呼ばれるものに加工されるのも紅花染めの特徴的なところです。
関連記事:染色・草木染めにおける紅花。薬用効果や歴史について
ラクスパー(Larkspur)
ラクスパー(学名:Delphinium ajacis)は、ヨーロッパ原産の一年草で、高さは1mほどに成長します。
5月ごろに花を総状につけ、色は紅色、青、紫、ピンクなどさまざまで、乾燥しても鮮やかな色が残ります。
染料としては、花の部分を乾燥させて使い、銅媒染を用いると緑系の色合いを染められます。
レモンバーム(Lemon balm)
レモンバーム(学名:Melissa officinalis L.)は、シソ科の多年草で、古くから「長寿のハーブ」として知られいます。
葉は乾燥させて精油を採り、香料としたりハーブティーとして飲まれます。
レモンバームという名前の通り、レモンのような香りがし、調味料やリキュールの香味用にも使われます。
染料としては、葉の部分を使用し、アルミ媒染でクリームベージュ、銅・鉄媒染で薄茶色が染まります。
シナモン(Cinnamon)
シナモン(学名:Cinnamomum verum)は、インドシナや中国雲南に自生するクスノキ科の常緑高木です。
世界最古のスパイスともいわれ、紀元前4000年ごろからエジプトでミイラの防腐剤として使われています。
根皮を「肉桂皮」、幹・枝の皮を「桂辛」、葉を「桂葉」と呼びます。
根皮、幹皮、葉には精油分を含み、香料として使用され、特に桂皮は粉末にして菓子や料理用の香味料として用いられています。
香辛料としてのシナモンは樹皮をはがし、乾燥させたものです。
シナモンの染め色は、アルミ媒染で肌色、銅でやや緑味を帯びたグレー、鉄媒染ではうすい鼠色になります。
レモンバーべナ(Lemon verbena)
レモンバーべナ(学名:Lippia citriodora)は、南米原産の落葉低木で、葉はレモンに似た香りがします。
古代ペルシャの時代から、魔術、医療、調理などに使用され、リキュールの香味付けにも使われています。
葉の部分を染料として使用し、アルミ媒染でレモンイエロー、銅媒染では緑味を帯びた薄い茶色、鉄媒染で薄茶色に染まります。
マジョラム(Marjoram)
マジョラム(学名:Origanum majorana)は、インドから西アジアにかけて原産するシソ科の草本状小低木で、茎は60cmほど成長します。
古代ギリシャでは、花嫁がマジョラムで作った冠を頭につけたといわれています。
葉に精油分を含み、健胃、駆風(腸管内にたまったガスを排出させる作用)に用いられてきました。
風味はタイムに似ており、甘く、食用にも使用されます。
葉を染料として使用し、アルミ媒染でカラシ色(やや鈍い黄色)、銅媒染で黄味の入った茶色、鉄媒染でやや黒の混じった茶色に染まります。
サザンウッド(Southernwood)
サザンウッド(学名:Artemisia abrotanum)は、ヨーロッパ原産で高さ1mほどに成長するキク科の植物です。
乾燥させた葉を袋につめて、防虫香として虫除けに使われていました。
葉を染色に用い、アルミ媒染でうすい黄色、銅媒染では黄土色、鉄媒染では白味のある茶色に染まります。
オレガノ(Oregano)
オレガノ(学名:Origanum vulgare)は、ヨーロッパ南部原産で、高さ30cm〜60cmに成長します。
オレガノは特徴的な風味があり、イタリアでは薬味によく用いられ、刺激のある香りは皮の臭いを消すためにも使用されました。
染料としては、アルミ媒染では黄土色、銅媒染で赤味のある茶色、鉄媒染で黒味を帯びた黄土色に染まります。
月桂樹(Laurel)
月桂樹(学名:Laurus nobilis)は、南ヨーロッパ原産の常緑高木で日本でも広く栽培されています。
ギリシャ・ローマ時代には、英知と栄光のシンボルとして競技の勝者に月桂樹で作った冠をかぶせました。
葉はローリエといい、香料やソースの原料に使用され、フランス料理や地中海料理には欠かせない薬味です。
果実は、秋に黒紫色の小さな実は、月桂実という生薬で健胃薬や発汗薬として使用されました。
葉を染料に使用し、アルミ媒染でクリーム色、銅媒染で灰緑(灰色と薄い緑の中間色)、鉄媒染でベージュに染まります。
ユーカリ(Eucalyptus)
ユーカリ(学名:Eucalyptus)は、オーストラリアに自生し、地中海沿岸やアメリカなどで栽培される常緑の大樹です。
成長すると60m〜100mほどにも成長します。
白味を帯びた青緑に葉は、特有の香りがあります。
染色に使用し、アルミ媒染で白の混じったベージュ、銅媒染でベージュ、鉄媒染で赤味の入ったグレーになります。
ゼニアオイ(Mallow)
ゼニアオイ(学名:Malva mauritiana)は、アオイ科の多年草で高さ50cm~150cmほどに成長し、 日本へはヨーロッパから中国経由で江戸時代渡来しました。
夏に濃紫の五弁花を咲かせ、染色には花の部分を使用します。
アルミ媒染で明るい白グレー、銅媒染で緑味を帯びたグレー、鉄媒染でグレーに染まります。
ホワイトオーク(white oak)
ホワイトオーク(学名:Quercus alba)は、北半球の温帯から暖帯に広く分布している落葉高木で、樹皮に多量のタンニンを含むため、タンニン剤や染料としても活用されてきました。
樹皮を煮出して染料としアルミ系の媒染ではうすいピンクがかった肌色になり、鉄媒染では紫味を帯びグレーに染まります。
ムギワラギク(Strawflower)
ムギワラギク(学名:Helichrysum bracteatum)は、キク科の多年草で高さが80cm〜1mほどに成長します。
直径3センチほどの頭状花をつけ、ドライフラワーにも使用されます。
染色には、花の部分が使用され、アルミ媒染でくすんだ黄色、銅媒染で黄土色、鉄媒染で黒味のあるベージュに染まります。
レッドクローバー(ムラサキツメクサ)(Red Clover)
レッドクローバー(ムラサキツメクサ)(学名:Trifolium pratense)は、マメ科で茎は30cm〜60cmほどに成長します。
ヨーロッパ原産で、茎の上部の葉脈あたりから円形の花が咲きます。
花を染色に使用すると、淡いベージュ系の色合いになり、アルミ媒染で黄色、銅媒染で黄土色、鉄媒染でベージュに染まります。
ハーブの歴史
植物染料による染色は、中国においては紀元前3000年前にはすでに技術が確立されていました。
中国最古の薬物書に、『神農本草書』があります。
「神農」とは、4000年~5000年前の古代中国の神で、身近な草木の薬効を調べるために自らの体を使って草根木皮を舐めて、何度も毒にあたっては薬草の力でよみがえったといわれています。
こうして発見した薬によって多くの民衆が救われ、神農は薬祖神として祀られるようになりました。
インドでは、紀元前2500年前に、西洋アカネや藍の染色が行われています。
同じ頃、エジプトでは媒染の技術が用いられ、紅花で赤や黄色、藍やホソバタイセイを用いた青色の染色も行われていたとされます。
紀元前2800年ごろには、古代エジプトのパピルスに薬草の使用法が記録されており、ハーブから油を搾ったりして、香油にし、塗り薬や軟膏を作っていました。
クミン、クローブ、シナモン、マジョラム、アニスなど、地中海沿岸や東南アジアで採れる800種にものぼるハーブが使われてきました。
ハーブに関する知識は古代エジプトへと受け継がれ、「薬学の父」として名高い、ヒポクラテスによって薬用効果が研究され、400種に及ぶハーブの治療法がまとめられました。
その後、紀元前1世紀ごろの古代ローマでは、ギリシャ人の医師であったディオスコリデスによって600種のハーブの薬効についてまとめた『De Materia Medhica』があり、ホソバタイセイ、モクセイソウ、西洋アカネを主要な植物染料として挙げています。
また、同じ時代に、植物学者のプリニウスによって『Natural History』が著されました。
やがて、ローマ帝国は、ヨーロッパ全域に領土を拡大し、ローマ人移住者とともにハーブもその分布が広がっていきました。
ローマの将軍たちは、戦いが終わると月桂樹の冠をかぶり、兵士たち手に小枝を持って行進しました。
お風呂好きのローマ人たちは、ハーブを入れたお風呂も楽しんでいたとされます。
ディル、ローズマリー、パセリ、ミント、セージ、タイムなど地中海原産とされるハーブは、ローマ帝国以来栽培されていると考えらえれています。
古代ローマ人がブリテン諸島(イングランド、スコットランド、ウェールズ)にもたらしたハーブは、キリスト教の設立とともに、修道僧たちによって本格的に栽培されるようになり、やがて城の庭園でも、一般家庭の庭先でもハーブが栽培されるようになっていきます。
エリザベス王朝時代になると、ハーブは衣類の香りづけに使われたり、床にまいたり、防臭剤として使われるようにもなります。
エリザベス女王の香料好きは、特に有名でした。
1597年に、ジョンジェラルドによって、本草学書『ハーバル』が出版されます。
1640年には、パーキンソンが、1653年にはカルペパーがそれぞれ本草学書を著わし、これら3冊が当時のイギリスでは人気でした。
17世紀になると、イギリスの植民地政策の結果として、スパイス類の入手が容易になり、ローズマリーやラベンダーが特に人にはにでしたが、食用以外にも薬用、香料、防臭剤として活用されました。
新大陸の発見とともに、植民が始まり、本草学書とともにハーブの種も海を渡っていきます。
1569年には、ニコラス・モナルデスによって新大陸で初の本草学書が著されました。
18世紀になると、新大陸ではシューカーズと呼ばれる自給自足の生活をする宗教団体が現れ、彼らはニューヨークにハーブガーデンを造り、ハーブの栽培・販売を行い、人々にハーブに対する人気にを広めました。
近代化学工業によって、栽培に時間と手間がかかり、コストの高いハーブ産業は次第に衰退していきましたが、2度の世界大戦によって薬として、また貧しい食事のビタミン類の補給のために役立つハーブが重要視されるようになり、普及していきました。
現代では、農園と家庭レベルの両方で広く栽培されており、世界中で活用されています。
【参考文献】
- 『月刊染織α1987年4月No.73』
- 『月刊染織α1988年1月No.82』