支子(梔子)で染めた色合いの一例

染色・草木染めにおける支子(くちなし)。支子(梔子)の染色方法や薬用効果について


支子くちなし(学名 Gardenia jasminoides)は、あかね科クチナシ属の常緑の低木で、現在は支子くちなしではなく、梔子くちなしの字を当てる場合が多いです。

古くから、支子くちなしの果実が染色や薬用に使用されてきました。

本記事では、以下、支子くちなしと表記します。

支子くちなしは、庭園の樹木として植えられ、葉は2枚の葉がつく対生たいせい、もしくは3枚の葉が輪生りんせいします。

6月〜7月頃に葉腋ようえき(葉の付け根)から花柄を出し、白い六片に裂けた筒状花とうじょうかをつけ、2〜3日で黄色く変色しますが、良い香りがします。

支子(梔子),Cape Jasmine (Gardenia jasminoides)

支子(梔子),Gardenia jasminoides,Mokkie, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons,Link

果実は、頂部に咢片がくへんが残り、熟すと黄赤きあか色になります。

染色・草木染めにおける支子(くちなし)

支子くちなしは、媒染を必要とせず、直接染料としても使用されてきました。

ただ、古くは布や糸を精錬するために木灰から取った灰汁がよく使用されていたため、灰の成分が染色を助ける役割を果たしていたと考えられます。

関連記事:草木染め・染色における灰汁の効用と作り方。木灰から生まれる灰汁の成分は何か?

また、支子くちなしは熱が加わらないと水洗いで簡単に色が流れてしまうため、昔から煮染をしていたと考えられます。

支子(梔子)で染めた色合いの一例

支子(梔子)で染めた色合いの一例

支子くちなしが染色に使用されていたことは、平安時代にまとめられた三代格式さんだいきゃくしきの一つである『延喜式えんぎしき』や『源氏物語』や『紫式部日記』など、さまざまな文献などからわかります。

延喜式えんぎしき』の縫殿寮ぬいどのつかさ雑染用度条に、支子くちなしについて以下のような記述があります。

「黄丹綾一疋いっぴき。紅花大十きん八両。支子くちなし一斗二升。酢一斗。むいかす五升。わら四囲。まき一百八十きん。(以下略)」
支子くちなし一疋いっぴき。紅花大十二両。支子くちなし一斗。薪さんじゅうきん(以下略)」
支子くちなし一疋いっぴき支子くちなし一斗。薪さんじゅうきん(以下略)」
支子くちなし一疋いっぴき支子くちなし二升。紅花小三両。酢一合。わら半囲。薪さんじゅうきん(以下略)」

江戸中期に貝原益軒かいばらえきけんによって描かれた、当時の家庭百科事典ともいわれる『万宝鄙事記ばんぽうひじき』宝永二刊(1705)にも支子くちなしの染めについて記載されています。

梔子くちなし染の法 梔子くちなし皮も実も細かく刻み。一夜水にひたし。よくもみて後、布嚢ぬのぶくろにてし、かすを去り。その汁をはくに浸け、一夜置く。あけの日絞りあげ、のりをつけ、きぬの裏を日おもてにして干す。日によく乾さずれば、梅雨のうちに色変ずる也。」『万宝鄙事記ばんぽうひじき

支子(梔子)の染色方法について

支子くちなしの果肉には、黄色の色素であるクロシン(crocin)が含まれます。

支子(梔子)の実,Gardenia jasminoides fruit 001

支子(梔子)の実,Gardenia jasminoides fruit,Naokijp, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons,Link

クロシン(crocin)は、伝統薬として使われてきたクチナシ果実やサフランに含まれているカロテノイド色素です。

支子くちなしの実は生のまますぐに染色に用いると、赤味のある濃い色が染められます。

乾燥して保存された実とは、色合いに違いが出てきます。

支子くちなしの実を使用し、媒染せずに煮染すると以下のような流れになります。

支子くちなしの実400gを6リットルの水に入れて熱し、沸騰してから20分間熱煎して煎汁せんじゅうをとる

②1回煎汁せんじゅうをとった実をつき潰してから、さらに4回まで煎汁せんじゅうをとり、全てを混ぜて染液とする

③染液を熱して、1kgの絹糸を浸して、20分間煮染する

④染液が冷えるまで染め液に浸しておく

⑤しっかり絞ってから、天日の元で乾燥させる

⑥染液を再び熱して、乾燥させた染め糸を浸して、20分間煮染する

⑦染液が冷えるまで染め液に浸しておき、その後、しっかり絞ってから、天日の元で乾燥させる

⑧さらに染め重ねる場合は、4回まで煎汁せんじゅうをとった支子くちなしから、同じように8回目まで煎汁せんじゅうをとる

⑨5〜8回目の煎汁せんじゅうに染め糸を浸して20分間煮染し、染液が冷えるまで染め液に浸しておく

⑩しっかり水洗いしてから、天日の元で乾燥させる

支子(くちなし)の薬用効果

支子くちなしは、中国最古の薬物学(本草学)書であり、個々の生薬の薬効について述べている『神農本草経しんのうほんぞうきょう』に「巵子くちなし」として、記載されています。

生薬名は、山梔子サンシシです。

ゲニポシド(geniposide)(イリドイド配糖体)やクロシン(crocin)などの成分を含み、漢方処方用薬として、消炎、止血、利胆、解熱、鎮静などの効果があり、また、精神面などの心を落ち着ける効果(心煩しんぱんを治す)があるとされます。

【参考文献】『月刊染織α1985年No.55』


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