染色・草木染めにおける紅花。染色方法の一例について


紅花べにばな(学名:Carthamus tinctorius)は、キク科ベニバナ属です。

秋に種をまいて、冬を越して春になってから開花、結実してから枯れる越年草えつねんそう(二年草)として生育したり、寒い地域では一年草として春早い時期に種をまく場合もあります。

紅色の染料としての用途のみならず、食用油の原料としても栽培されています。

原産地は、中央アジアやエジプト、メソポタミア地方あたりではないかとされていますが、はっきりはしていません。

日本においては、山形県が比較的有名な生産地として知られています。

染料としての花の収穫

茎の高さは約1メートルぐらいになり、緑色の葉っぱにはトゲがあります。6月〜7月ごろ、枝先には多数の黄色い花びらが集まって筒状になっている花(管状花かんじょうか)が咲きます。

Carthamus tinctorius 050709b

紅花,Pseudoanas, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

日が経つと花は赤色に変化していき、赤色に変わりはじめた頃を見計らって花を摘み取ります。

摘み取った花は、水で洗って黄色味を洗い流します。水洗いは、染色の際に黄色味が強くなるのを防ぐために行います。

花をわらでできたむしろの上に3センチくらいの厚さに広げて、その上からまたむしろを被せて一晩放置します。

時間が経つと花が発酵し、黄色だった花も赤い花に変化してきます。

花を臼に入れて挽き、粘りが出てきた時に3センチぐらいの大きさの小さいお煎餅のように形づくり、天日干しして乾かします。

しっかり乾燥したものは、紅餅べにもち花餅はなもちと呼ばれ、保管することができます。

紅花の歴史

紅花が日本に渡来したのは、飛鳥時代頃(592年〜710年)と考えられています。

7世紀後半から8世紀後半にかけて編集された、現存する日本最古の歌集である万葉集には、”紅染べにぞめ”の歌が多く収録されています。ただ、紅花そのものを詠んだものが一首もないのです。

紅花で染めたものをくれないともいいますが、くれないの元になったのはくれのあい・・・・・で、くれの藍で中国から渡来した藍(紅)という意味だとされます。

藍と紅は、もともとは「染料」を表す同義語だったとされ、平安時代に藍と紅の二種の藍(染料)・・で染めた色を二藍ふたあいという色名で表現したのも、そのように考えると理解ができます。

紅花の色の美しさは、古代から人々を魅了してきましたが、特に平安時代の貴族達の紅への執着は王朝文学などから見てとれます。

時は流れ、江戸時代になってからも紅染の着物は、人々にとってあこがれの色だったのです。

紅花で薄色を染める場合は色落ちしやすいので、紅花で染める場合は、できる限り何回も染め重ねて堅牢度を高くしていくことが基本となります。

赤に染める茜染あかねぞめで染められたものと比較しても、紅花は堅牢度がよくないので、薄色はさけ、できるだけ濃い色にするのが大切なポイントです。

紅花の染色は、冬の寒い時期に行うのが良いとされており、染める季節(外部環境)によって色合いに差が現れてきます。

紅の染め方

べには、古代から中世にかけては、くれない・・・・と読んでいます。

濃い色から薄い色まで、色の名称がさまざまあり、濃紅こきくれないくれない薄紅うすくれない朱華はねず退紅あらぞめ鴇色ときいろと濃度と共に名前も変わっていきます。

色味としては、すべて黄色味が少し混ざった赤色です。

紅染めの一例

まず、紅餅べにもち(花餅)もしくは、紅花1kgを16リットルの冷水に2時間ほど浸し、浸したものを麻袋に入れてしっかり絞ります。

ふたたび16リットルの冷水に浸して2時間ほど置き、しっかり絞って、抽出された黄色い液体を染めるために使用します。

水につけている時間と、絞る回数は、抽出する原料にあった適切な方法で行うことが大切です。

摘み取った紅花をそのまま乾燥させたものを乱花らんかと言いますが、例えば、中国産の乱花を染める場合は、絞る回数を多くする等、使う原料にあった工夫が必要です。

Carthamus tinctorius、Safflower、紅花P5026694

乾燥した紅花,松岡明芳, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link

液をさらに抽出

抽出液を絞った花を藁灰わらばいの灰汁16リットルに入れ、しっかり混ぜて、3時間ほど放置します。灰汁がない場合は、炭酸カリウム80g(紅花の量のに対して8%)溶かした水を使用します。

麻袋に入れて花を絞り、液を抽出し、花を再び灰汁12リットルに入れて、2番液、3番液と取り出します。

抽出液を中和

抽出液に、クエン酸を加えると泡立ち、アルカリ性に傾いていたのが中和し、鮮やかな紅色に変わります。

灰汁を使用した場合は、phに前後があるのでクエン酸を少しずつくわえながら混ぜて、泡立たなくなるタイミングが頃合いとなります。

炭酸カリウムを使用した場合は、炭酸カリウムの量に対して1.2倍のクエン酸を使用します。

クエン酸が多すぎると、紅の色素が沈殿ちんでんしてしまうので、中和してからいくらか酸性に傾いた状態が良いようです。

昔は、クエン酸そのものを使用することはできなかったため、梅剥うめむき鳥梅うばいを使用していました。

梅剥うめむきは、青い梅を干瓢かんぴょうを作るように薄く皮や果肉を剥いてから、乾かして乾燥させます。使用する際は、梅剥うめむきを水かお湯に浸して、成分を抽出した液を中和するために使用します。

烏梅うばいとは、梅の実が熟す前の未熟なうちに収穫して釜戸かまどの煙で黒くいぶしたものですが、梅剥うめむきと同様に使用する際は、水かお湯に浸して成分を抽出した液を使用します。

実際に染める

中和して、鮮やかな紅色になった染め液に、しっかりと事前に水やお湯などで浸透させておいた布や糸を入れます。

色素は、素早く素材に吸収されていくので、ムラにならないように全体がしっかりと染まるように広げていきます。

1時間ほど浸した後に、染めているものを取り出して、染め液を30度に加温して再び浸していきます。染め液が30度以上を超えてしまうと、茶色味が出てきてしまうので注意が必要です。

1時間ほどで色素が吸収しつくされるので、染め終わったものを絞ってから、酢酸さくさん20cc(染める量に対して2パーセント)を入れた水に30分ほど浸して、その後しっかりと水洗いして乾燥させます。

乾燥する際、紅花染めは、日光に対しての堅牢度けんろうどが弱い(日光によって退色しやすい)ため、風通しの良い場所で陰干しします。

濃い色にするためには、上記の染め方を繰り返しおこなっていきます。

鴇色ときいろのように薄い色は、花の分量を少なくしますが、薄い色は堅牢度がよくないので、実用品(ex.商品として生産する)には基本的に向きません。

色が落ちるからこそ、美しい

紅花染めは、非常に退色しやすいと上記でも述べてきましたが、すぐ色あせてしまうからこそ魅力があり、美しいともいえるのではないでしょうか。

色あせるからこそ、今この瞬間の色を楽しむことができる。だんだん色あせていくという、変化も楽しむことができる。

天然染色を愛する人たちの価値観のなかには、「滅びの美学」のようなものが内包されているのではないかと、紅花染めを思うと感じます。

参考文献:『月刊染織α 1981年11月No.8』


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