ウール(羊毛)は、家畜として飼育されている羊の毛を言い表します。
国際的な商取引では羊毛に限って「ウール(wool)」と呼んでおり、他の獣毛繊維を「ヘア(hair)」と呼んで区別しています。
品質表示において「毛」と表記する場合は、すべての獣毛に適応できます。
高級品であること示すために、カシミヤ(cashmere)やモヘア、アンゴラなどとそれぞれ表記できる場合もあります。
目次
ウール(羊毛)の特徴
ウール(羊毛)の特徴は、さまざまです。大まかにまとめると、以下のような特徴を挙げられます。
- 軽くて手触りがふんわりとやわらかい
- あたたかく保温性が高い
- 弾力性(外力が加わって変形した物体が、もとの形に戻ろうとする力)に優れており、シワになりにくく、型くずれしにくい
- ウールの表面は疎水性(水をはじく)でありながら、抱水力(水分を抱え込む力)がある
- 湿潤熱(水分を吸収する際に放出する熱)の発生熱量が他の素材より高い
- 引っ張りや摩擦に弱い
- 熱に対して100℃で硬化、130℃で分解、300℃で炭化する
- 耐光性はあまりよくなく、長時間に日光に当たると繊維が弱くなる
- 金属イオンを吸着しやすい(染色しやすい)
- 塩基性、酸性、酸性媒染、金属錯塩、天然など各種染料によく染まる
- 他の繊維より、紫外線を通過しやすい
- 繊維の熱伝導率が低い
ウール(羊毛)素材の特性
ウール(羊毛)の素材的特性について、より詳しくまとめていきます。
①繊維の長さと太さ
ウール(羊毛)の長さと太さは種類によって差があり、年一回羊の毛を刈った場合(剪毛)で、繊維長が長いもので46cmに達する場合もありますが、普通はメリノウールで約5〜10cm、雑種の羊毛で約7cm〜20cmほどです。
繊維の太さは、メリノ種で約0.018〜0.023mm、雑種羊毛で約0.024〜0.042mmほどになります。
ただ、一頭の羊でも体の部位によってクオリティーの差があり、一番良いとされる部位が肩の部分で、次いで横腹の部分の毛が良質とされています。
詳しいことについては、下記の記事でまとめています。
関連記事:羊毛・ウールの繊維直径、繊維長、質番、巻縮数について。羊毛は体の部位によって品質に違いがある
②巻縮(けんしゅく)
ウールのような毛は、巻縮性があるといいますが、パーマがかかったように繊維1本1本が縮んで巻いています。羊毛は、大なり小なりジグザクに巻縮しているのです。
巻縮はクリンプ(crimp)ともいい、細い羊毛ほど屈折の程度が強く波数が多いですが、質が良いとされています。
なぜなら、繊維同士が相互によく絡み合うことによって、糸や製品になってからも手ざわりや保温力にすぐれた効果をもたらすためです。
③弾性(だんせい)
ウール(羊毛)は、伸ばしたり縮めたりした時に、もとの状態にもどろうとする性質(弾性)が他の繊維に比べて高いです。
もとの状態にもどろうとする性質が高いので、弾性回復率が高いともいいます。
弾性が高いことによって、服のしわが自然に消えやすかったり、カーペットやラグなどの毛足が踏まれても、もとの状態に戻るという性質があります。
④ウール(羊毛)が縮む理由である鱗片(りんぺん)
羊毛を顕微鏡で300倍ほどに拡大すると見え、毛の表面が松の木の皮のようなうろこ状の形しているものが鱗片です。
鱗片は、スケール(scale)ともいいます。
鱗片はラクダやカシミヤ、ウサギの毛などにも多少みられますが、ウールの大きな特徴のひとつであり、鱗片の配列が規則正しいものや密度の高いものが良質とされています。
ただ、鱗片は、羊毛がフェルト化する原因にもなっています。
鱗片は、一方の向きにだけ生えているため、羊毛を熱湯やアルカリ性の強い液体のなかで、もんだり叩いたり刺激を与えると、繊維同士の絡み合いがおこり、きめが細やかな組織となり、硬くなるのです。
羊毛が縮むことを、縮充するといいますが、この特徴を利用して毛繊維をシート状に重ねたものがフェルト(Felt)になります。
繊維同士をからみあわせたり、溶かしてくっつけたりすることにより不織布が作れますが、フェルト化は不織布製造の起源ともいえるのです。
毛繊維は酸には強いが、アルカリ性には弱いことから、アルカリ性の石鹸は使用できないので、中性洗剤を活用するなどして、選択時には縮充に注意する必要があります。
洗い方を間違えてしまうと、洗濯によって縮むというのはウール製品の欠点ではあります。
⑤湿潤熱(しつじゅんねつ)
ウール(羊毛)の特徴的な性質として、湿潤熱の発生が挙げられます。湿潤熱とは、羊毛の繊維が水分を吸収する際に(湿潤)によって、放出する熱のことです。
この湿潤熱の発生にも、鱗片は大きな役割を果たしているのです。
関連記事:羊毛(ウール)・獣毛の特徴的な性質である湿潤熱(しつじゅんねつ)の発生
⑥吸湿性と繊維の伸びやすさ
ウール(羊毛)は、他の繊維と比べると吸湿性が高い繊維です。
吸湿性とは、空気中の水分(湿気)を吸収する性質のことをいい、例えば吸湿性が高い服だと汗をかいてもムレにくかったり、吸収した湿気が素早く蒸発しやすかったりします。
羊毛は、常温の空気中で約16パーセントの水分を吸湿し、空気が含むことができる水蒸気が限界になった飽和状態にあると、約30パーセントを吸湿します。
湿気を吸いやすいということは、毛製品の保存には注意しないとカビが生える可能性があります。
タンスや容器にしまう場合は、乾燥剤と防虫剤を一緒に入れておくのが大切です。
吸湿時における繊維の強度は、乾燥時より劣り、繊維も伸びやすいため注意が必要です。
⑦黄変性(きへんせい)
ウール(羊毛)は、はじめは真っ白のものでも、太陽の光に当たったり長く空気中にさらされたりし、酸化剤によって黄色に変色する性質があります。
白色の毛糸や毛製品を洗濯するときは、なるべく高温やアルカリ性の強い液を避けたり、乾燥時は直射日光に当てないようにする必要があります。
黄ばんでしまった場合は、デリケートな素材を洗うために使用するおしゃれ着洗剤を使い、漂白剤は、酸素系がおすすめします。
おしゃれ着洗いコースがあれば、そのコースを使用し、もしくはつけおきしてから手洗いするのが良いでしょう。
関連記事:ウールの黄ばみの原因とは。黄ばんだウールの洗濯方法と、黄色の変色とカビをできる限り防ぐ方法
ウール(羊毛)の化学成分
ウール(羊毛)は、グルタミン酸、アルギニン、シスチン、セリンなど19種類のアミノ酸成分からなるケラチンと呼ばれる繊維状のタンパク質です。
タンパク質は、アミノ酸が1本の鎖のように結合してできた物質で、ケラチンも、らせん状に曲がった形をしており、分子間や分子内には、多くのシスチン結合(架橋結合=分子が橋を架けたような形で結びついて、ひとつに結合する)があり、物理的にも化学的性質にも大きな役割を果たしています。
シスチン結合によってらせん状に縮れる羊毛の特徴があらわれ、この縮れによって空気を含むことができ、ウールのあたたかさをもたらします。
ウールの黄ばみの原因としては、ウールのシスチン結合、アミノ基を含むチロシンなどが、酸化や光などの影響によって化学変化を起こすのが原因の一つとされています。