フェルトとは?フェルトの分類やでき方、歴史について


フェルト(Felt)とは、代表的な不織布として日常生活の中でも使用されており、ウール(羊毛ようもう)や獣毛繊維じゅうもうせんいを縮ませて作られるものです。

フェルトという言葉は、ギリシャ語のFulzen(結合させる)からきているように、ウール(羊毛ようもう)の縮絨性しゅくじゅうせい(縮むこと)をはっきりと表しています。

紀元前3世紀ごろから、中央アジアの遊牧民たちは、ウール(羊毛ようもう)や獣毛じゅうもうからフェルトを作り、カーペットや衣類などとして使用してきました。

日本においては、奈良の東大寺にある正倉院しょうそういんに保管される正倉院宝物しょうそういんほうもつのなかに、中国から渡来した花文かもんのある毛氈もうせんが残されています。

毛氈もうせんとは、ウール(羊毛ようもう)や獣毛じゅうもうを原料に、延ばしたり、加熱や圧縮して織物風に仕上げたフェルト状の敷物です。

フェルトの技法は、スウェーデンやノルウェーなどの北欧諸国にも古くから伝わっており、フェルトの帽子や靴下など、その保温性の高さと摩擦に強いことから、現在でも世界中で広く親しまれています。

Colored felt cloth

Colored felt cloth,Bastet78, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link

フェルトの分類

フェルトを分類する場合、原料面からみると羊毛フェルト、獣毛フェルト、混毛フェルトなどに分けられます。

羊毛フェルト

羊毛フェルトは、羊毛や羊毛を紡績する過程で取り除かれる短い毛や糸くず(noilノイル)を利用したもの

獣毛フェルト

獣毛フェルトは、羊毛以外のいわゆる獣毛を原料にしたもの

混紡フェルト

混紡フェルトは、獣毛と植物性繊維を混紡してできたもの

関連記事:獣毛繊維の種類と特徴。羊毛や化学繊維との混紡で、獣毛繊維の特徴をうまく表現できる

フェルトのでき方

セーターを洗濯機でガラガラ洗って強い力を加えてしまったり、洗うお湯が熱すぎたり、アルカリが強い洗剤を使ってしまったりなどして、ウールがフェルト化してしまう現象を、経験をした人もいるかもしれません。

フェルトのでき方(製法)は、羊毛や獣毛繊維をアルカリや熱、圧力などの作用で、あえて縮絨しゅくじゅう(felting)させるというものです。

縮絨しゅくじゅうする理由は、羊毛などの繊維の表面にあるスケールや天然の撚り(クリンプ)が影響しているためです。

関連記事:羊毛・ウールの特徴と性質。羊毛はなぜ縮むのか?

フェルトの材料になる羊毛は、一般的には油分をとっていない未脱脂みだっしの原毛を使用します。

フェルトのでき方(組織)の面から分類すると、織りフェルト、帽体フェルト、粘着フェルト、圧縮フェルトに分けられます。

織りフェルト

織りフェルト(PAPER MAKING FELT,WOVEN FELT)は、経糸と緯糸に共に紡毛糸ぼうもうし(比較的短い繊維やくず糸)くらいの比較的太い糸を使用し、平織りや綾織りにて織り上げた後、フェルト状になるまで縮絨しゅくじゅう加工します。

起毛加工するものもあれば、強度を強くする場合には、梳毛糸そもうしを混ぜたりして密度を高くします。

関連記事:羊毛・ウールの繊維直径、繊維長、質番、巻縮数、梳毛糸(そもうし)と紡毛糸(ぼうもうし)の違いについて。羊毛は体の部位によって品質に違いがある

帽体フェルト

帽体フェルト(HAT FELT,FUR FELT)は、型を用意して羊毛やビーバーやウサギの獣毛をコーン状に巻きつけるか、コーン状の金網に吹き付けるようにフェルトを作ります。

粘着フェルト

粘着フェルト(BONDED FELT)は、接着剤を使用するか、機械的に接着して製造したものです。

圧縮フェルト

圧縮フェルト(PRESS FELT)は、紡績をせず、圧力や振動、水分や熱の組み合わせによって繊維を絡み合わせたものという定義通りに作られたフェルトです。

圧縮フェルトに使用する材料は、羊毛、ビーバー、牛毛、ラクダ、ウサギ、ビーバー、ヌートリアなどの繊維にスケールのあるものが縮み、フェルト化します。

細い羊毛ほど固まりやすく、短い繊維は繊維同士の絡まりが弱く、その分強度も弱くなります。

フェルトの歴史

フェルトの起源としては、伝説がいくつか残っています。

旧約聖書の「ノアの方舟」の床に、嵐の航海を少しでも楽しくするために敷き詰めた羊毛が、動物によって温められ、踏みつけられ、洪水がおさまって動物が船から降りた後、その羊毛が固まりフェルトになっていたという。これが世界最初のフェルトである、という伝説があります。

この他、修道僧が巡礼において、足の痛みをやわらげるために、羊毛を靴の中に入れていたところ、数日後には1枚の堅いフェルトになっていたという伝説もあります。

伝説ではなく、実際にフェルトの歴史として、はじめて作られたのがいつ頃なのかは明らかではありませんが、毛織物がつくられる以前に生まれていたのは間違いありません。

エジプト、中国、インダスと並び世界4大文明の一つであるメソポタミア文明(紀元前3000年から2500年頃)では、養育される羊から得られる羊毛を原料にして、すでに毛織物が作られていましたので、その頃にはフェルトが生まれていたでしょう。

インドでは、紀元前330年〜320年頃までには、フェルトが一般的に使用されていたと考えられています。

Making a felt robe for Bakhtiari shepherds

フェルト作り,Making a felt robe,ninara, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons,Link

古くは、フェルトのつくり方において、それぞれの国や地域によっても違いがありました。

足で踏んでフェルト化させることはよく行われ、古代ローマ時代の都市ポンペイは紀元79年、ヴェスヴィオス火山の噴火に見舞われ、街や住民ごと灰に埋もれましたが、ポンペイの遺跡の絨毯屋じゅうたんやの壁画に、足で踏んでいる壁画が残っています。

18世紀ごろのスコットランドでは、女性が5人ずつ2列になって足のかかとでスコッチツイードを叩いていたり、アジアの遊牧民は、羊毛を洗ってからよくほぐし、木の枝でよく叩いて均一の厚さに広げてフェルト化させたりしていたようです。

亜東印画輯 08 012 "絨氈を造る(興安北省)"

絨氈を造る(興安北省),亜東印画協会, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

日本におけるフェルトの歴史

日本におけるフェルト、つまり毛氈もうせんの歴史ですが、邪馬台国の卑弥呼が3世紀ごろに、の皇帝に貢ぎ物をしたそのお礼に、毛氈もうせんをもらっています。

天平時代(8世紀中頃)の聖武天皇時代の東大寺正倉院にさまざまな毛氈もうせんが寄進され、現在でも天平時代文化の遺物として、評価されています。

正倉院の毛氈もうせんは、白氈はくせん色氈しきせん花氈かせん(華氈)の3種に分類されます。

白氈はくせんは、白生地のままのもので、色氈しきせんは一色に染められた毛氈もうせんで、紅色、紫色、褐色のものがあります。

花氈かせんは、文様のある毛氈もうせんで、文様は、唐花、蓮花れんげの丸紋、草花文が多く、中には2枚敷き詰めて一枚の図柄になる半円柄の模様もあります。

花氈かせんのうち、「唐草文花氈かせん」「鳥の丸花花氈かせん」は著名な遺物で、唐から伝来したといわれています。

日本における毛氈もうせんの記録としては、奈良時代(10世紀中頃)に、下野国しもつけのくに(栃木県)からの交易雑物こうえきぞうもつの中に「氈10枚」があります。

交易雑物こうえきぞうもつとは、律令制下で、政府が官稲かんとうを代価に支払って、諸国から交易によって調進させた織物、海産物、砂金、麦、豆などのことです。

1804年、将軍が11代徳川家斉とくがわいえなりの頃、長崎の奉行であった成瀬因幡守が羊を輸入し、中国のフェルトの専門家、氈匠趙大本と洪文和の二人を招いて、長崎の八幡町水神社の境内で毛氈もうせんの製造をはじめました。

羊が死んでしまったりとうまくいかなかったようですが、この出来事が日本最初の毛氈もうせん製造の始まりとされています。

参照:八幡町歴史あれこれ(3) 産業編

染色においてフェルト化を防ぐ方法

羊毛(ウール)を染色する場合、フェルト化して硬くなってしまうと糸が使い物にならなくなってしまいます。

フェルト化は、水分、高温と圧力、薬品などが作用するため、その要素に注意して染色を行う必要があります。

染液の量を多めにする

染液の量が少ないとフェルト化するリスクが高くなるため、染めるものに対して、染液を30倍くらいにしておきます。

例えば、羊毛(ウール)500gを染める場合、染液は30倍で15リットルになります。

染める量に対して10倍くらいでぐつぐつ煮てしまうと、フェルト化するリスク高くなってしまうのです。

染色中にかき混ぜすぎない

羊毛(ウール)を染める際にムラに染まるのを心配するあまり、染色中にかき混ぜすぎてしまうとフェルト化するリスクが高くなります。

放冷(ほうれい)から脱水時に注意する

染色において最もフェルト化するタイミングが、温度の高い状態から冷却して(放冷ほうれい)、脱水するタイミングです。

羊毛は100°Cから70°Cまで急激に温度が下がると良くないと言われており、温度変化には特に注意する必要があります。

染色が終了してもすぐに羊毛(ウール)を取り出さず、温度が40°Cくらい、もしくは完全に冷え切ってから取り扱うとフェルト化するリスクが低くなります。

脱水は、よく羊毛が冷えてから行います。

【参考文献】『月刊染織α 1982年4月No.13』


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