柿渋(タンニン)が塗られた渋紙に彫られた染め型紙

染色・草木染めにおけるタンニン(tannin)

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タンニン(タンニン酸)は、染色・草木染めにおいて非常によく知られている成分です。

タンニンの定義としては、「植物界に広く分布し、水に良く溶け、収れん性の強い水溶液を与え、皮をなめす作用を有する物質の総称」とされています。

染色・草木染めにおけるタンニン(tannin)

タンニン酸という呼び方は、元々は、五倍子ごばいしのタンニンを表したものでしたが、現在では特に区別されていません。

ほとんどの植物はタンニンを含んでいますが、多量に含むものを「タンニン酸」などとも呼びます。

タンニンは、非常に複雑でさまざまな種類のものがあるということですが、分離して生じる物質の種類によって、ピロガロールタンニンとカテコールタンニンに大別されています。

いずれも、タンニンは、植物自身の腐敗防止の役目をしています。

そのため、植物に含有している状況をみれば、腐敗する可能性の高く、植物にとって守りたい部分にタンニンが多く含まれていることは想像ができます。

例えば樹皮は表皮付近に多く、中心部分ではタンニンが少ないのが一般的です。

マングローブのように、絶えず根が海水に触れている植物は、強い保護作用が必要なために、タンニンが非常に多く含まれると言えます。

樹木に多いタンニン類も、草などにはほとんど含まれておらず、これは樹木ほど長い間生存する必要がないからとも考えられます。

ピロガロールタンニンとカテコールタンニンの特徴

うるし型染。漆(うるし)を用いて型染めで文様を表現した布

うるし型染。漆(うるし)を用いて型染めで文様を表現した布

ピロガロール系のタンニンとカテコール系のタンニンは、全体的には茶褐色に染まりますが、それぞれ異なった色相を示します。

ピロガロール系とカテコール系の違いはあれど、樹皮や草や実など、染料植物の形態や生育環境などさまざまな条件により、色素は複合的に存在していおり、その色素の性質が強いかどうかによって、染料は発色具合が変わってくる点は理解しておかなければなりません。

植物には複合的に色素が含まれていることが多いため、その色相の特徴をどう活かせるかどうかが染色において重要になってきます。

ピロガロール系のタンニン

ピロガロールタンニンを含むものとしては、五倍子ごばいしかしの実、ミロバラン、ヤシャブシ(矢車附子やしゃぶし)などが主に挙げられます。

赤みの強いのがカテコール系の特徴で、特に石灰を用いた発色では顕著にその違いあり、また鉄塩を用いた発色でも濃度にはっきりとした差が出ます。

ピロガロール系の色素は、「鉄塩(Fe)」での発色(媒染)が中心です。

他の金属塩でも特徴のある発色がみられますが、鉄塩(Fe)での発色が最も顕著にみられます。

ピロガロール系の色素は、溶解性が良く、タンパク質繊維やセルロース繊維を問わず、染色における親和性が高い性質を示します。

淡く染めて得る鼠色ねずみいろも、魅力的な色合いになります。

下染で濃い目の藍を染めて、その上から染色することで黒色に近い色を染めることもできます。

カテコール系のタンニン

カテコールタンニンを含むものとしては、ヤシ科の植物であるビンロウ(檳榔びんろう、アカシアの樹皮で皮なめし剤の原料として使用されるワットル、マングローブ、車輪梅しゃりんばい(テーチキ)などがあります。

顕著な例としては、「うるし」があり、漆は春から夏の成長期にカテコール系のタンニン類である「ウルシオール」を盛んに生成します。

この時期に、樹皮に傷を付けるとウルシオールがしみ出し、やがて空気中の酸素を吸収して強い皮膜を作ります。

これによって傷を保護し、雑菌の侵入を防いでいるのです。

これを染色の立場から見ると、樹皮からしみ出した生漆きうるしは、分子構造が極めて小さいために水溶性で、無色に近い液体です。

しかし、酸化作用で小さい分子がたくさん集まり、大きな分子を構成すると簡単には水に溶けなくなり、さらには色として認識できるようになります。

この過程は「重合」と呼び、一般的に知られている茶色系の漆色の生成は、この酸化重合によって生じるのです。

カテコール系の色素は、ピロガロール系に比べて溶解性と吸収が劣りますが、「石灰(Ca)」発色や自然の酸化重合作用によって、堅牢度が高く、赤味の強い褐色を表現することができます。

この色素の自然重合による発色は、例えば日光に数日間さらすと発色し、日を増すごとに濃くなることがあります。

カテコール系のタンニンによる染色は、絶えず直射日光にさらされる暖簾のれんなどの染色にも適していると言えます。

大島紬おおしまつむぎや久米島紬の染め方では、車輪梅を用いて何度も染めては日光のもとに干すという工程を経ることで、美しい赤茶色を得ることができるのです。

植物の中には、樹皮に含まれたカテコール色素とリグニンが結びついて、簡単には溶け出さないものもあります。

リグニンは、木材中にセルロース伴って、およそ20%から30%存在している高分子の重合化合物です。

樹木が強靭な構造を保っていられるのは、骨格とも言えるセルロースが、リグニンなどによって接着された形になっているからです。

通常はアルカリ(灰汁あく苛性かせいソーダなど)で煮て除去しますが、カテコール系色素を多く含む樹木では、リグニンと色素が結合しているため、リグニンは簡単には除去できません。

樹木は草類とは異なり、木化の原因となるリグニンを含み、樹木に含まれたタンニンと強く結合することがあるのです。

例えば、科布しなふと呼ばれるシナノキからとる樹皮繊維は、濃い茶褐色でかなり硬い材質感があるため、衣類素材には向いていません。

沖縄で芭蕉布の繊維の原料となる糸芭蕉(イトバショウ)にも、カテコール系のタンニンが少し含まれています。

沖縄の用水は石灰質のため、色素と石灰が結びついて強い褐色を示すことがあります。

そのため、これを除去するために喜如嘉きじょかでは、「ゆなじ」と言われるかゆを腐らせた液につけて漂白をしていました。

かゆが発酵することによってできた酸が、色素と石灰との結合を除去して白くするのです。

科布しなふの制作工程においても、灰汁あくのアルカリで煮て繊維を柔らかくしてから、米糠ぬかに漬け込むことで、黒茶色のような色であった繊維が真っ白にはなりませんが幾分か漂白されます。

タンニンの性質

タンニンの純粋なものは、無色で針状結晶しんじょうけっしょうで、水やアルコールに溶け、水溶液は微酸性を表します。

タンニンは不純物を含むと、淡い黄色から淡い褐色かっしょくになります。

タンニンは、いずれもその化学構造の中に水酸基すいさんき(-OH)を数多く持っているため、絹や木綿によく吸着します。

また、カチオン性の物質やタンパク質と結合して、不溶性の化合物を生じ、鉄イオンと結合して青黒色、ないし緑黒色の沈殿を生成します。

染色助剤としてのタンニン

タンニンの染色助剤としての用途は、木綿を塩基性えんきせい染料で染色する際の媒染剤ばいせんざいとしての役割や、塩基性えんきせい染料を使用して絹(シルク)を染めた後や、酸性染料によってナイロンを染色後の堅牢度けんろうど増進剤などの役割で使用されてきました。

その他、インドでは木綿の布を染色したインド更紗さらさが古くから有名ですが、インド更紗の下地染めにもタンニンを多く含むミロバランの実が使われていました。

ミロバラン,訶梨勒(かりろく),Haritaki (Terminalia chebula) fruits

ミロバラン,訶梨勒(かりろく),Salil Kumar Mukherjee, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons,Link

牛乳やヤギの乳のタンパク質と、ザクロやミロバランの木の実を煮つめた液を混ぜて使用することで、木綿や麻などの植物繊維も染色しやすく(染まりやすく)なるのです。

関連記事:染色・草木染めにおけるミロバラン。訶梨勒(かりろく)の染色方法について

【参考文献】

  1. 『月刊染織α1992年1月No.130』
  2. 『月刊染織α1992年3月No.132』

 

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