更紗とは?基本的な染色方法と装飾加工。インド更紗における主な植物染料について


更紗さらさとは、16世紀以降、ポルトガルやオランダ、イギリスなどのいわゆる南蛮船なんばんせんが運んできた、インドや東南アジアの模様染めされた布を指して呼ばれたものです。

更紗といえば、木綿に東南アジアやインド的な模様を細かく模様染めされた布を指していることが多いです。

インドでは古くから媒染剤ばいせんざいを用いて木綿に植物染料を染める方法や、防染ぼうせんして模様を描く技法が知られており、16世紀以降の大航海時代の到来とともに、世界中に運ばれていきました。

カラムラリ,インド更紗,Kalamkari Rumal MET DT11759

カラムラリ,インド更紗,Metropolitan Museum of Art, CC0, via Wikimedia Commons,Link

特にヨーロッパでは、媒染ばいせんによる染色方法やろうによる緻密な防染ぼうせん方法が一般的に知られていなかったので、鮮やかな色彩と異国的なデザインが人々を驚かせたのでしょう。

17世紀〜19世紀にかけて染められたインドの更紗は、現在でもインドのアーメダバードにあるキャリコ博物館(The Calico Museum of Textiles)で見ることができます。

更紗の基本的な染色技法

更紗は、様々な技法や工程を組み合わせて出来上がります。

地域によって文化や歴史も違うため、それぞれの特色はありますが、その違いを踏まえた上で、更紗の模様染めの表現方法を大別すると、大きく4種類に区別できます。

  1. 木版を使用して染料や媒染剤をプリントする技法・・・木版更紗
  2. 染料や防染剤を使用して手描きする技法・・・手描き更紗
  3. 木版プリントと手描きを併用する技法
  4. ろうの防染だけで染める方法

上記のうち、木版更紗は木版を彫刻してつくる必要がありますが、量産ができ技法的にも比較的簡単であるため、インドやインドネシアのジャワ島などの各地で行われてきました。

インド更紗,Hand painted cotton fabric,made in India,A chintz panel

インド更紗,Hand painted cotton fabric,made in India,https://library.artstor.org/#/asset/26460717, CC0, via Wikimedia Commons,Link

木版を使用して染料や媒染剤をプリントする技法(木版更紗)

全部の工程を木版型によって製作されたものは、ブロックプリント(block print)などと呼ばれて有名です。

全体に模様を置いた総模様そうもようや繰り返し模様の小柄のものが多く、藍染の浸染しんぜんだけで表現する場合もあります。

Persian kalamkari printer

ブロックプリント,block print,Persian kalamkari printer,Maasaak, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link

染料や防染剤を使用して手描きする技法(手描き更紗)

手描き更紗は、インドで行われていた技法とインドネシアのジャワの技法とでは、違いがあります。

インドではカラマカリペンによって手描きで彩色が行われ、インドネシアではチャンチンという道具を使用して手描きのろう防染が行われてきました。

Canting チャンチン

Canting チャンチン,HarfiBimantara, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons,Link

インドで歴史のある手描き(手捺染てなっせん)の更紗は「カラム・カリ(Kalamkari)」と呼ばれ、“Kalam” はペン、“kari”は技巧の意味しています。

Kalamkari painting,カラムカリ

カラムカリ,Kalamkari painting,Anilbhardwajnoida, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link

柄にはモチーフがあり、ヒンドゥー教の神々にまつわる物語が描かれることが多いです。

インドでの仕事は、家族単位で行われていることが多く、染職人は子供の頃から物語を忠実に描くために、ヒンドゥー教の聖典せいてんの一つであり、『マハーバーラタ』と並ぶ古代のインド2大叙事詩じょししの一つである「ラーマーヤナ」に精通していなければなりませんでした。

丈夫な紙に模様を描き、模様の線に沿ってピンや針のようなもので連続して穴を空けて、模様を写すための紙を作ります。

この紙を布の上に置いて、木炭もくたんの細かい粉を穴にすり込んで模様を写しとるのです。

下絵は、直接ミロバランと水牛の乳で下染めした布の上に木炭もくたんで描いていき、その後に鉄塩てつえんの液を染み込ませたカラムカリ用のペン(カリム)で液を絞り出しながら輪郭を描いていきます。

カラムカリ用のペン(カリム)は、木や竹製で、先端近くに中はジュートで外側に木綿の糸を巻いた部分があり、その部分に鉄塩てつえんの液を湿らせ、指でその部分を適当に絞りながら線を描いていくのです。

あかねの根から採取される赤色の染料であるアリザリンによる媒染液で赤と黒に染め、青や黄色、緑(青+黄色)の彩色を施します。

布は精錬せいれん漂白ひょうはく作業がされた後、ミロバランの実の粉を溶かした液や、ペルシャではザクロの果皮の液につけてからのものを使用します。

タンニンで下染しておくことで、色の定着がよくなります。

模様の線の上を黒く描いていく部分には、鉄片てっぺん(鉄の破片はへん)を粗糖そとう(サトウキビの搾り汁を煮詰めてできた未精製の砂糖)の液につけて発酵させた酸化鉄の液にしたものを、カラムカリ用のペン(カリム)や竹などで描いていきます。

赤い線で表したい部分は、ミョウバン液で描きます。

この工程の後で、あかねで染めることで、黒い線の部分は、黒く、赤くする部分は赤く変化します。白を残す部分は、媒染剤ばいせんざいを塗っていない部分もいくらか赤くなりますが、水洗いをして、漂白作業を繰り返すことで白く戻ってきます。

部分的に赤く染める場合は、染める部分以外をろうで伏せてから染色します。

あかねの他には、インド東部で採れたエンジムシから赤色の染料(ラック・ダイ)が使用されていました。

赤の染色が終わると、黄色や緑色を染め出そうとする部分は、ウコンやターメリックなどの黄色と藍の青の色を合わせると緑になり、ミロバラン、ザクロの果皮などで茶色に染め藍の青を合わせるとくすんだような暗めの緑色になります。

仕上げに染める行程で出てしまったシミや汚れを取り除く作業が行われることもあり、ライム汁などの酸や鉱物性こうぶつせいのアルカリを使用してきれいにしていたようです。

バティック,batik,Woman's hip wrapper, Indonesia, Java, Honolulu Museum of Art, 10087.1

バティック,batik,インドネシア,更紗,batik,hiart, CC0, via Wikimedia Commons,Link

木版プリントと手描きを併用する技法

手描きで行われてきた線の手描き部分を、木版型によって行うインド更紗の主流をなす技法です。

先に、酸化鉄さんかてつ液を麻布あさぬのにしみこませたものに木版型を付けて、木版の版部分に酸化鉄さんかてつ液液がついた状態で布の上へ均等に押し付けて、輪郭をとります。

他の色部分を手描きで彩色したり、ろう伏せをして色を差して仕上げています。

型で輪郭をとっているから、手描きに劣るというわけではなく、数十から百を越す型を用いた作品もあり、型と彩色の併用でなければ表現できないものも残されています。

技法的には、上記で述べたようにさまざまな更紗製作の技法がありますが、表面だけでなく、裏面も染色が必要な場合は、インドにおいてもインドネシアにおいても、型・ろう防染ともに両面から同じ模様を染め出しているものが残されています。

日本の型染めでもそうですが、両面を防染して染めるのには高度な技術と時間が必要になります。

蝋(ろう)の防染だけで染める方法

タイで製作されたと言われるシャム更紗のろうによる線描は、細くて素晴らしい作品が残されています。

インドネシアのチャンチンで描く更紗を仕上げるのには非常に時間がかかるため、短時間で量産するために、「チャップ」と呼ばれる金属製の型も用いられていました。

インドネシアで産出される更紗は、バティック(batik)などと呼ばれ主にジャワ島で生産されてきました。

バティック(Batik)という言葉は、ろうで防染して模様を表現した布を指して使用され、インドネシアのものはユネスコの無形文化遺産に登録されています。

チャンチン,Batik Trusmi Cirebon (44)

バティック,Batik,チャンチン,Fpangestuphotographer, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link

更紗の装飾加工

更紗の製作において、手の込んだ装飾加工がされているものも多くあります。

絣との併用

更紗を製作する前の布をつくる段階で、かすりの部分を織りで表現することで、模様を表現しているものがあります。

かすりの部分を強調するために、先にも模様を織り込んだかすりの部分にもあえて染色をするものもあります。

金銀加工

金や銀を貼り付けて、装飾を行うことは古くから世界中で行われてきましたが、更紗も例外ではありませんでした。

加工方法としては、金粉or金泥こんでい(金粉をにかわの液で溶かしたもの)を接着剤で溶いてから布に塗り、乾いてから磨いたり、接着剤で模様を書いた部分に金粉を貼り付けていく(截金きりかね)などが行われていたと考えられます。

インドとインドネシアのジャワでは接着剤の違いがあり、ジャワは平面的に金がおかれたものが多く、インドでは線状におかれたものが多く、平面的なもは少ない特徴があります。

雲母(うんも)による加工

雲母うんも更紗と呼ばれるものは、インドにおける特殊な加工法とされ、ミャンマーの一部で蜜蝋みつろうによって似たようなものが作られていたようです。

インドでは、紅花べにばなの実から絞った油を煮詰めてから、冷水に投入して作った粘り気のあるロガーン(Roghan)と呼ばれたものに、黄色は石黄せきおう、赤は鉛丹えんたん、白は鉛白えんぱく、青は藍、銀色は粉末にした雲母うんも、金色は粉末にした擬金粉ぎきんぱくをよく練り合わせたものを、下絵の描かれている線に沿って描いていきます。

水分が多いと線が切れるので、石灰を加えて粘着性を調節しながら描いていきます。

場合によっては、描いた上へ雲母うんも粉をふりかけることもあったようで、俗に雲母摺きらずりと呼ばれています。

刺繍による装飾

インドにおいては、16〜17世紀にはすでにパンジャーブ地方やカシミール、グジャラート、ダッカなど全国各地で刺繍ししゅうによる技法が発達し、それぞれモチーフに特色がありました。

しかし、装飾的要素を追加するため、更紗に刺繍ししゅうを施すことはあまり行われていなかったようです。

インド更紗における主な植物染料

インド更紗において、使用されてきた主な植物染料は以下のようなものが挙げられます。

  • インドアイ(Indigofela tinctoria)・・・紺
  • アカネ(Rubia manjista)・・・赤
  • インドアカネ(Rubia cordfolia)・・・赤
  • セイヨウアカネ(Rubia tinctorium)・・・赤
  • ヤエヤマアオキ(Morinda citrifolia)・・・赤
  • ハナガサノキ(Morinda umbellata)・・・赤、黄
  • アカネムグラ(Oldenlandia umbellate)・・・赤
  • スオウ(Caesalpinia sappan)・・・赤
  • ミロバラン(Tarminalia chebula)・・・下染
  • マラッカノキ(ユカン)(Phyllanthus emblica)・・・下染
  • ザクロ(Punica granatum)・・・黄
  • ウコン(Curcuma longa)・・・黄
  • ハナモツヤクノキ(Butea frondosa)・・・黄
  • ヘンナ(シコウカ)(Lawsonia alba)・・・黄
  • カテキュー(Acasia catechu)・・・茶
  • エンジ(カイガラムシ)(Tacchardia lacca)・・・えんじ

【参考文献】『月刊染織α1984年9月No.42』


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です