ぼかし染め(暈染)は、色彩や濃度を次第に変化させて染めることを表します。
一色(単色)、または数色がそれぞれ濃淡に表現されたもので、「グラデーション染め」などとも言います。
目次
ぼかし染め(グラデーション染め)の種類
ひとことでぼかし染め(暈染)といっても、さまざまな方法があります。
絞り染めでよく使用される浸し染め、刷毛を使用する場合でも手描きや引き染めにようなフリーハンドで表現する方法と、型を使った摺り込みぼかしがあります。
刷毛(はけ)を使用するぼかし染め
引染めや挿友禅では、染液を含ませた刷毛、水含みの良い水刷毛などを複数使用してぼかしていきます。
摺込み染めでは丸刷毛を使用し、摺り方の強弱や回数によってぼかしを表現していきます。
刷毛の大きさや毛の硬さ、染液の含み具合などはそれぞれの目的に合わせて使い勝手の良いものを選びます。
布地を縦横に均一に引っ張っておかなければ、きれいなぼかしにならないため、引き染め場か枠場を使って、張木と伸子で緊張させておきます。
型を使用したぼかし染め
型染めで、写し糊(糊の中に染料が混ざり、色付けと防染が同時に出来る)を用いる時は、「糊ぼかし」といい、色糊を布地の上に置いた糊のきわを、刷毛で引き伸ばしてぼかしていきます。
糊ぼかしは、型紙友禅(写し友禅)の技法として用いられます。
ぼかし染めをする際に注意する点
ぼかし染め(グラデーション染め)は、織物の繊維の「毛細管現象」と「染料のマイグレーション(Migration)」を応用した染色方法で、どの素材を使用するかもぼかし染めがうまくいくかどうかの重要な要素を持っています。
織物は、長繊維(フィラメント)織物が適しており、経糸と緯糸がほぼ同じ糸がより良いとされます。
また、帆布やブロード生地などのように、生地の密度が高い(高密度)ものはキレイに染まりずらい傾向があるため素材選びにおいては注意が必要です。
ぼかし染め(グラデーション染め)をする際に、考慮に入れておくべき布や繊維の性質があります。
毛細管現象(もうさいかんげんしょう)
毛細管現象(capillary action)とは、細い管状物体(毛細管)の内側の液体が、外部からエネルギーを与えられることなく管の中を移動する物理現象で、「毛管現象」とも呼ばれます。
布地は、細い繊維を撚り合わせてできた糸を経糸と緯糸にして織り上げたもので、繊維や糸にはすき間がたくさんあります。
この細かなすき間が細い、水を吸い上げるのです。
水に濡れやすい性質をもっている物質ほど毛細管現象が起こりやすく、繊維では、天然繊維の綿や麻、絹などの方が合成繊維よりもこの現象が現れやすいです。
シボのある織物や紬織物では、経糸と緯糸で毛細管現象が起こる程度の差が大きいため、きれいなぼかし染めが難しくなります。
また、短繊維(ステープル)の綿、麻、毛織物などは糸斑(糸の太さが不均斉)があるため、浸け染めのように毛細管現象に十分余裕がある染色方法以外では、きれいにぼかすのが難しいです。
繊維に汚れや油などが残っていると、毛細管現象に大きく影響するため、布地の精錬は必要です。
マイグレーション(Migration)
マイグレーション(Migration)は、染料が繊維上で移動する現象(移染)のことを表します。
マイグレーション(Migration)をうまく活用できるかどうかによって、きれいな滲みを表現できるかどうかが変わってきます。
ぼかし染めに使用される染料
染料の選択は、ぼかし染めにとってもっとも重要です。
染料は水への溶けやすさ(溶解性)、染める繊維に対する染まりやすさ(染色性)に差があります。
テストで、布地に染料液を落とした時に、同じ色で平均的に滲みが広がるものが良いとされます。
単独では同じような滲み方をする染料でも、染料を混合した場合は違った滲み方をしたり、色が分離する場合があるので注意が必要です。
滲み方を下処理で調整する
ぼかし染めによって、染料が滲みすぎるのを防ぐためには、豆汁やふのり液で前もって地入れをしておきます。
逆にぼかしの滲みを伸ばしたい場合は、浸透剤(界面活性剤)で下処理しておきます。
色彩や濃度を数段階に分けて変化させる繧繝(うんげん)
ぼかし染めのようなグラデーションに色合いが変化していく染色方法ではなく、1つの系統の色を淡い (明るい)ものから濃い (暗い)ものへと変化させて、段階的に区切りをつけながら(同じ色の濃淡が層をなすように)織り出された模様(文様)を「繧繝(暈繝)」といいます。
繧繝の表現方法は、「自然にぼかしていないグラデーション染め」ともいえます。
繧繝(暈繝)は、中国においては唐の時代(618年〜907年)には発達していたとされます。
日本においては奈良時代(710年〜794年)から行われ、平安時代(794年〜1185年)に盛んになり、染織や建築、絵画や工芸などの装飾に用いられました。
奈良の正倉院にも、段階的に区分けをして色合いを表現する技法で表現された「七曜四菱文暈繝錦」(繧繝錦)が所蔵されています。
繧繝錦は、8色ほどの色糸を緯にする緯錦の技法を駆使して織られた錦で、大柄の唐花文の花弁を重層的に彩ったり、縞柄が出されました。
一色だけの(単色)濃淡ではなく、藍や緑、黄緑、黄色、橙というように色合いが近い色を順番に並べて、全体的にぼかし(グラデーション)であるような効果が表現されました。