天然に出る赤色の土は、世界中のいたるところで見られます。
日本においては、水稲農耕が始まる弥生時代(紀元前10世紀頃〜紀元後3世紀中頃)以前に用いられた顔料は基本的には赤と黒の2色で、赤は赤土(せきど)が使用されていたと考えられます。
赤土(せきど)の主成分は、酸化鉄です。
インドは、インディアンレッドと称される赤土が古くから産することで有名で、ベンガル地方がその本場であったため、日本では「ベンガラ(弁柄/紅殻)」といわれていました。
黄色い土である黄土を焼いて、さらに上質な赤色となった酸化鉄もベンガラと呼ばれていました。
黄土は、水酸化鉄で淡い黄色(カーキ)です。
鉄が酸化すると鉄錆となり、さらに十分に酸化させると、赤色の酸化鉄になります。
赤色の顔料であるベンガラ
ベンガラ(弁柄)という名前は、江戸時代にインドのベンガル地方で産出されたものを輸入したため「ベンガラ(英語: Red Iron Oxide )」と名づけられたとされますが、主要成分は、酸化第二鉄です。
ベンガラは、着色力や隠蔽力(塗った際に、傷や変色などの表面状態を視覚的に隠す力)が良く、耐熱性・耐水性・耐光性・耐酸性・耐アルカリ性のいずれにも優れている上、人体にも安全なため非常に用途が多い顔料といえます。
弥生時代後期から古墳時代初期にかけて尾張地域(濃尾平野)を中心に生産されていた土器には、直線文・波線文・斜行線文・列点文などを組み合わせた文様と赤色顔料が塗られていました。
関連記事:弥生時代から古墳時代までの色彩。装飾古墳に使われた顔料について
これらの土器は、弥生時代後期が最も装飾が華やかな時期で、ギリシャのクレタ島から出土した宮廷式土器の美しさになぞらえて「パレススタイル土器」とも呼ばれています。
実際に現代に残る土器のその美しさには、目を見張るものがあります。
赤色の顔料は、奈良県の東大寺正倉院にて保存されてきた正倉院宝物の品にも使用されていたことがわかっています。
関連記事:正倉院宝物(しょうそういんほうもつ)に使用された顔料と染料について