山漆(学名:Toxicodendron trichocarpum)は、ウルシ科ウルシ属の落葉小高木です。
中国などを原産とする漆器(漆工)に利用されるウルシとは別の木ですが、ウルシに似た枝葉を持ち、山地や丘陵に自生することから「山漆(ヤマウルシ)」と命名されています。
染色・草木染めにおける山漆(やまうるし)
漆塗りに利用されるウルシとヤマウルシとの違いは、木の高さや葉の大きさ、紅葉の色の違いなどで見分けられます。
ウルシは樹高10mほどに成長するのに対して、ヤマウルシは一般的には2m~3mほどと比較的小さく、ものによっては8mほど成長します。
小葉はウルシの方が少し幅広く大きめで、ウルシの葉は秋になると黄色く変わりますが、山漆は赤やオレンジに染まります。
山漆の紅葉は、早いものでは8月下旬頃から色が変わるため、よく目立ちます。
ヤマウルシは漆塗りに使われることはありませんが、樹液や葉の汁にウルシにも含まれる「ウルシオール」という成分が若干含まれています。
ウルシオールの成分によって、枝葉に触れるとかぶれるため、庭木として使われる例は少ないです。
山漆は、ウルシや櫨(山櫨)など似ている木があり、葉や樹皮などは古くから染料に使われてきました。
黒染めには、木の葉が一般的に用いられ、茶色の染色には枝が用いられます。
媒染剤は、黒染めには鉄分(鉄媒染)を使用し、茶色には、木灰から作る灰汁や石灰などが活用されます。
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兼房染(けんぼうぞめ)における山漆(やまうるし)
兼房染とは、元は吉岡染と言い、桃の樹皮と鉄(カネ)とで黒茶色の小紋を染めたものをいいました。
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享保元年(1716年)以後の兼房染は、藍で下染したものに、山漆の葉を煎じた汁を鉄(カネ)で媒染するようになります。
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媒染に用いる鉄(カネ)は、不要になった刀を用いていたので、武士の間では、兼房染の羽織は敵に切られても手傷を負わないと信じられ、兼房染が流行したようです。
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