縞織布『江戸・明治藍の手染め』愛知県郷土資料刊行会

藍下(あいした)とは?藍と植物染料の重ね染めについて


藍下あいしたとは、藍で下染したぞめするという意味でこの名があります。

べに下染したぞめするのを、紅下べにしたというの同じです。

昔は、高級品で深みのある黒紋付の染色などに、檳榔子びんろうじが使用されていましたが、その場合、藍や紅などで下染めした上に、檳榔子染びんろうじぞめをすると、青味または赤味を含んだ黒を染めることができました。

藍で重ね染めをすると、堅牢度けんろうどの向上も期待することができます。

藍と植物染料の重ね染め

平安時代になると、文学的で優美な色名が誕生します。

王朝おうちょうの色」とも呼ばれる重ね染めを巧みに駆使しながら生まれた優雅な色彩が、元々は大陸からきた文化の影響から離れて、日本独自に発達していきました。

平安時代の延喜えんぎ5年(905年)に編集がはじまり、延長5年(927年)に完成した『延喜式えんぎしき』には、当時の「位色いしき」に用いられていた色名と染色の材料が記載されています。

藍と他の植物染料の重ね染めも行われていたことも、『延喜式』に記載されています。

例えば、「深緑ふかきみどり」という色彩名は、藍と刈安かりやすの重ね染めであり、「浅緑あさきみどり」は、藍と黄檗きはだの重ね染めでした。

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紅花と藍の重ね染め

藍下の上から紅花で染め重ねることで、古くから紫色が染められていました。

平安時代には、藍と紅の二種・・の藍(染料)で染めた色が「二藍ふたあい」という色名で表現されていました。

蘇芳(すおう)と藍の重ね染め

江戸時代になると紅染の代わりに蘇芳すおうが用いられるものもでてきました。

蘇芳すおうで紫色を染めるためには、鉄媒染ばいせんをすることによって似紫にむらさきが染められることが多かったようですが、中には藍染の上に蘇芳すおうで染め重ねた似紫にむらさきもありました。

その場合は、藍下の色は浅葱色あさぎいろのような薄い色でした。

浅葱色(あさぎいろ)の糸

浅葱色(あさぎいろ)の糸

藍下が濃いものを蘇芳すおうで染め重ねた場合は、その色を似桔梗ききょう、または藍紫と呼ばれます。

江戸時代中期の元禄げんろく9年(1696年)に書かれた『当世染物鑑とうせいそめものかがみ』には、「にせきゝやう 下染こいあさぎにしてそのうへあかね二へん染あくとめなり」とあります。

「あくとめ」とあるのは、ひさかき椿つばきなどのアルミ成分の多い灰汁あくを使用しているものと考えられます。

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松煙墨(しょうえんずみ)と藍の重ね染め

藍染と松煙墨しょうえんずみ染めを併用した染色は、古くから日本各地の紺屋こうやで行われていました。

例えば、出雲いずも地方の祝風呂敷を染める紺屋こうやでは、のり筒描つつがきした生地を藍染する前に、刷毛引はけびきする豆汁ごじる練墨こねずみ丹殻たんがら(ヒルギの樹皮からとる染料)を混ぜて先に染めたりしていました。

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