河海のほどりに生息するチドリ(千鳥)は、海浜や川辺の風景の一部として古くから人々から親しまれてきました。
歌にも詠まれ、「春恋う鳥」、「友にはぐれた鳥」として心細い心境、あわれ深い境地などが表現されました。
千鳥を文様化(模様化)した千鳥文にも、このような詩情が関係しました。
デザインにおける千鳥(ちどり)・千鳥文(ちどりもん)
千鳥文として有名なものとして、平安時代後期の作品「沢千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」があります。
オモダカ(沢瀉)やカキツバタ(燕子花)の花が咲き、水草生い茂る沢の流れに千鳥の群がり遊ぶ様が、螺鈿(貝飾り)を交えて表現されています。
江戸時代には、御所解文小袖・茶屋辻小袖・風景文小袖、狂言の装束などに、優雅な姿で描かれます。
中型・小紋などの型染めにも、巧みなデザインの千鳥文が見られ、有松絞りや絵絣など、庶民の衣料にも好んで用いられてきました。
千鳥は、青海波の模様と一緒に多く表現されてきました。
沢千鳥文(さわちどりもん)

極めてシンプルなデザインの千鳥文(ちどりもん)
葦や水草の生い茂った沢に千鳥が飛び交う様子を表現したものは、「沢千鳥文」と呼ばれました。
上記の「澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃」は、典型的な「沢千鳥文」の作例です。
これは完成された千鳥文のデザイン(パターン)として後世に多くの作品に影響を与え、染織のデザインにも多く用いられました。