支子(学名 Gardenia jasminoides)は、あかね科クチナシ属の常緑の低木で、現在は支子ではなく、梔子の字を当てる場合が多いです。
古くから、支子の果実が染色や薬用に使用されてきました。
本記事では、以下、支子と表記します。
支子は、庭園の樹木として植えられ、葉は2枚の葉がつく対生、もしくは3枚の葉が輪生します。
6月〜7月頃に葉腋(葉の付け根)から花柄を出し、白い六片に裂けた筒状花をつけ、2〜3日で黄色く変色しますが、良い香りがします。
果実は、頂部に咢片が残り、熟すと黄赤色になります。
染色・草木染めにおける支子(くちなし)
支子は、媒染を必要とせず、直接染料としても使用されてきました。
ただ、古くは布や糸を精錬するために木灰から取った灰汁がよく使用されていたため、灰の成分が染色を助ける役割を果たしていたと考えられます。
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また、支子は熱が加わらないと水洗いで簡単に色が流れてしまうため、昔から煮染をしていたと考えられます。
支子が染色に使用されていたことは、平安時代にまとめられた三代格式の一つである『延喜式』や『源氏物語』や『紫式部日記』など、さまざまな文献などからわかります。
『延喜式』の縫殿寮雑染用度条に、支子について以下のような記述があります。
「黄丹綾一疋。紅花大十斤八両。支子一斗二升。酢一斗。麩五升。藁四囲。薪一百八十斤。(以下略)」
「深支子綾一疋。紅花大十二両。支子一斗。薪卅斤(以下略)」
「黄支子綾一疋。支子一斗。薪卅斤(以下略)」
「浅支子綾一疋。支子二升。紅花小三両。酢一合。藁半囲。薪卅斤(以下略)」
江戸中期に貝原益軒によって描かれた、当時の家庭百科事典ともいわれる『万宝鄙事記』宝永二刊(1705)にも支子の染めについて記載されています。
「梔子染の法 梔子皮も実も細かく刻み。一夜水にひたし。よくもみて後、布嚢にて漉し、滓を去り。其汁を帛に浸け、一夜置く。あけの日絞りあげ、糊をつけ、きぬの裏を日おもてにして干す。日によく乾さずれば、梅雨のうちに色変ずる也。」『万宝鄙事記』
支子(梔子)の染色方法について
支子の果肉には、黄色の色素であるクロシン(crocin)が含まれます。
クロシン(crocin)は、伝統薬として使われてきたクチナシ果実やサフランに含まれているカロテノイド色素です。
支子の実は生のまますぐに染色に用いると、赤味のある濃い色が染められます。
乾燥して保存された実とは、色合いに違いが出てきます。
支子の実を使用し、媒染せずに煮染すると以下のような流れになります。
①支子の実400gを6リットルの水に入れて熱し、沸騰してから20分間熱煎して煎汁をとる
②1回煎汁をとった実をつき潰してから、さらに4回まで煎汁をとり、全てを混ぜて染液とする
③染液を熱して、1kgの絹糸を浸して、20分間煮染する
④染液が冷えるまで染め液に浸しておく
⑤しっかり絞ってから、天日の元で乾燥させる
⑥染液を再び熱して、乾燥させた染め糸を浸して、20分間煮染する
⑦染液が冷えるまで染め液に浸しておき、その後、しっかり絞ってから、天日の元で乾燥させる
⑧さらに染め重ねる場合は、4回まで煎汁をとった支子から、同じように8回目まで煎汁をとる
⑨5〜8回目の煎汁に染め糸を浸して20分間煮染し、染液が冷えるまで染め液に浸しておく
⑩しっかり水洗いしてから、天日の元で乾燥させる
支子(くちなし)の薬用効果
支子は、中国最古の薬物学(本草学)書であり、個々の生薬の薬効について述べている『神農本草経』に「巵子」として、記載されています。
生薬名は、山梔子です。
ゲニポシド(geniposide)(イリドイド配糖体)やクロシン(crocin)などの成分を含み、漢方処方用薬として、消炎、止血、利胆、解熱、鎮静などの効果があり、また、精神面などの心を落ち着ける効果(心煩を治す)があるとされます。
【参考文献】『月刊染織α1985年No.55』