投稿者「iroai.jp」のアーカイブ

蓼藍,タデアイ

青縞(あおじま)と呼ばれる藍染された布。埼玉における藍の栽培と藍染について

青縞あおじまと呼ばれる藍染された布は、埼玉県の北東部に位置する加須かぞ市や羽生はにゅう市を中心に盛んに織られていた生地です。

青縞あおじまと呼ばれる理由としては、綿糸めんしを藍染し、染め上がった糸を織ると、染めムラが独特の縞模様に見えることからその名前があります。

青縞あおじまは、仕事着である野良着のらぎ股引ももひき脚絆きゃはん足袋たびなどに使用され、江戸時代は主に農家の副業として青縞あおじまが生産されていました。

天明てんめい年間(1781年〜1789年)に北埼玉郡騎西町きさいまち付近(現在の加須かぞ市)で農家の副業として織られたことから、この土地の名前に由来し私市縞きさいじまと呼ばれたようです。

明治以降は織物をつくる事業家(機業家きぎょうか)によって、生産、発展してきました。

元々は、天然藍のみが使用されていましたが、明治30年(1897年)頃からは、化学藍(インディゴピュア)が使用され始めました。
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和綿が衰退した歴史。産業の近代化の波に飲まれ、輸入綿を原料に、和綿が切り捨てられる。

木綿は、16世紀には国内での栽培が広まり出し、17世紀初頭ごろには飛躍的に発展していきました。

庶民の日常的な衣服となり、江戸時代の経済と政治において、一貫して重要な役割を果たしていました。しかし、明治維新を経て、殖産興業しょくさんこうぎょう政策のもとで、決定的な打撃を受けることになります。

殖産興業しょくさんこうぎょう政策とは、明治政府が西洋諸国に対抗し、機械制工業、鉄道網整備、資本主義育成により国家の近代化を推進したさまざまな政策のことを指します。

明治政府は、産業の近代化を「輸出振興」「輸入防遏ぼうあつ」という国家のスローガンを掲げ、輸出輸入の両面から綿業は、中核的戦略産業として位置づけられました。

外国の質の高い綿糸・綿布に負けないようにと、綿業の近代化は国家的な課題とされていたのです。 続きを読む

染色・草木染めにおけるロッグウッド。世界最大の需要を誇った染料、ロッグウッドの普及と衰退の歴史

ロッグウッド(学名 Haematoxylum campechianum)は、マメ科の植物で、属名のHaematoxylumは、ギリシャ語でhaima(血液)とxylon(樹木)の二語から由来し、種名のcampechianumは、原産地がメキシコ湾のカンペチェ湾(Campeche)沿岸であることから命名されています。

血木と呼ばれるのは、材木を空気に酸化させると美しい赤褐色の色が出てくるためです。

原産地は、中米などの熱帯地方で、樹高は6〜12mほどになり、幹にはドゲがあります。

小さくて黄色い花が咲き、幹の中央部の心材しんざいが染料として使用され、青紫色の色素であるヘマトキシリンが含まれています。

Haematoxylum campechianum (Campêche)

ロッグウッド,logwood,Haematoxylum campechianum,Fpalli, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link

ロッグウッド(logwood)は、国によって様々な名称があり、イギリスにおいてロッグウッドという名称がはじめて文献に現れたのは、1581年のことです。

17世紀の始め頃からヨーロッパの市場では、ホンジュラスのベリーズから産出するものとユカタン半島のカンペチェから産出するものの棲み分けがされていました。

カンペチェ産のものの方が、ホンジュラス産のものに比べて品質が優れているとされていたため、名称も区別する必要があったのです。

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染色・草木染めにおける堅牢度。染色堅牢度を高める方法

染色において、化学的なものでも天然由来のものでも、必ず染まり上がった色は経年変化があります。

天然の原料を使用した草木染めは、その美しさは言わずもがなですが、欠点としては植物や染め方にもよりますが、基本的には堅牢度けんろうどがあまり良くない点があります。

堅牢度けんろうどとは、さまざまな条件下において色落ちするかしないかの度合いのことです。

草木染めは比較的早く色あせてしまうからこそ魅力があり、今この瞬間の色を楽しむことができるとも言えます。

Natural Dyeing in Tabriz 2019-07-21 05

Natural Dyeing,Fars Media Corporation, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons,Link

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染色・草木染めにおける、そめものいも(クール・紅露)

そめものいも(学名Dioscorea cirrhosaは、ヤマノイモ科に属する熱帯地域に自生する植物で、長さが10mにもなるつる性の多年草です。

沖縄の八重山上布やえやまじょうふの絣糸を染めるための茶色の染料として「染物芋そめものいも」(クール・紅露こうろ)が知られています。

和名の「そめものいも」は、地中に80㎝ほどにも成長する黒みがかった赤色の塊根かいこんいも)があり、これが赤褐色せっかっしょくの色素を含み、染色に使用することから由来しています。

そめものいもは、マングローブの木(漂木ひるぎ)や車輪梅しゃりんばいなどと共に、魚介類を捕獲するために用いる漁網ぎょもうを丈夫にし、扱いやすくするために使用されたカテコールタンニン系の染料です。

マングローブの樹皮にはタンニンが多く含まれているので、抗菌や防腐の効果も高いとされています。 続きを読む

染色における貝紫(かいむらさき)。日本における貝紫の歴史について

紫色は、その希少性から世界中のさまざまな場所で、高貴な色・尊い色に位置付けられていました。

地中海沿岸では貝紫かいむらさき(Royal purple)による紫の染色があり、その希少性から王侯貴族を象徴する色とされて、ギリシャやローマへと受け継がれました。

貝紫かいむらさきは、アクキガイ科に属した巻貝まきがいのパープルせんと呼ばれる分泌腺ぶんぴつせんからとれる染料で、西洋では珍重されていました。

貝紫,Purple Purpur (retouched)

貝紫,染めた生地と対応する貝,Exhibit of the Museum of Natural History in Vienna,Photograph: U.Name.MeDerivative work: TeKaBe, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link

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沖縄の絣織物の技法。琉球絣の歴史

沖縄における絣織物(琉球絣りゅうきゅうかすり)には、独特な幾何学文様きかがくもんようがあります。

線で構成したこれらの絣柄は、18世紀後半の御絵図帳みえずちょうで高度に完成したと考えられます。

御絵図帳みえずちょう」とは、琉球王国りゅうきゅうおうこくにおける首里王府しゅりおうふの絵師たちによってまとめられた絣の図案集です。

御絵図帳みえずちょう」とは、琉球絣りゅうきゅうかすりが貴重な貿易商品だった時代、王国に収める貢納布こうのうふを織らせるために模様や染色などを細かく指定したものです。 続きを読む

生機(原反)加工の流れ。精錬、毛焼き、糊抜き、漂白等。P下、下晒し生地とは何か

織り機や編み機で、出来上がったばかりの生地のことを、生機きばた原反げんたんといいます。

そのまま、未加工で使用する場合もありますが、油脂ゆしや繊維のカスなどの不純物が混在していることが多いので、何かしらの加工をしてから商品として出荷されます。

倉敷帆布を織るシャトル織機の様子

倉敷帆布を織るシャトル織機の様子,Baistone, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link

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6種類の基本的な染色の仕方と染料の種類。直接染法、反応染法、建染め染法、発色染法、媒染染法、分散染法について

染色方法は、基本的に6種類に分けられます。

染料の種類も数多くありますので、本記事で紹介しています。

Wool skein coloured with natural dyes indigo, lac, madder and tesu by Himalayan Weavers in Mussoorie

Wool skein coloured with natural dyes indigo,User: (WT-shared) Alamcsd at wts wikivoyage, Public domain, via Wikimedia Commons,Link

染色方法の種類

(1)直接染法

直接染料は、染料自体ががそのまま水によく溶けます。そのため、染料で水溶液をつくり、その中に繊維を浸して加熱することで染められます。

特別な助剤じょざいがなくとも、動物繊維、植物繊維の両方に染まる染料で、アクリル繊維に使うカチオン染料なども直接染法です。

染め方の原理としては一番簡単ですが、一般的には色がクリアに染まりづらく、洗濯や太陽の光に対する堅牢度けんろうどは高くありません。

そのため、古くから色止めの方法がさまざま工夫されてきました。 続きを読む

染色・草木染めにおける辛夷(こぶし)。薬用効果や歴史について

辛夷こぶし(学名Magnolia kobus DC.)バラ科リンゴ属の落葉樹で、樹高は3~10m程度になります。

属名のMagnoliahahaはフランスの植物学者P.Magnolの名前からきており、種名のkobusは、和名のコブシに由来しています。

辛夷こぶしは、3月下旬から4月上旬にかけて、雑木に混じって枝一面に白い花を咲かせることから、春の訪れを告げる花として知られています。 続きを読む