縫製したい生地に対して、適したミシン糸(縫い糸)を選ぶのは非常に大切です。
ミシン糸の選択は、製品の質を向上させ、縫製の良し悪しにも影響してきます。
本記事では、素材に合った正しい縫い糸の選び方と縫い糸の種類について紹介していきます。
【おすすめのミシン糸】ミシン糸の選び方
糸の種類を選ぶ前に、まず糸の太さについて考える必要があります。
目次
糸の太さ(番手)を選ぶ
紡績された糸の太さ(番手)は、一定の重さに対する糸の長さで表記されています。
番手という単位で(表記は「S」)、繊維の種類によって綿番手、麻番手、毛番手があります。
化学繊維の紡績糸では、綿番手が使われています。
綿番手は、重さ1ポンド(453.6g)で、長さ840ヤード(768.1m)の糸を1番手と呼び、長さが2倍のものを2番手、3倍のものを3番手とし、数が大きくなるほど糸も細くなってきます。
麻番手は、重さ1ポンド(453.6g)で、長さ300ヤード(274.3m)の糸を1番手と呼び、毛番手では、1000gで1000mある糸を1番手と呼びます。
太番手、細番手(ふとばんて、ほそばんて)
番手は、糸の太さによって太番手、細番手などと言います。
一般的には、太番手では、綿糸で20番手以下、麻番手では、40番手以下、毛番手では36番手以下の糸のことを表します。
細番手は綿糸で60番手以上、麻番手では100番手以上、毛番手では72番手以上の番手の糸のことを表します。
毛編糸の場合は、極太、並太、合細、中細、極細などと区別もされています。
ミシン糸を選ぶ際の番手の目安
縫い糸の太さが生地にあっていないと、糸が切れたりスムーズに縫い進められなかったりと、問題が起こるリスクがあります。
ミシン糸を選ぶ際の番手の目安は、以下のようなイメージになります。
- 【90番手】サテン・シフォン・ジョーゼット・ボイルなどの薄い生地に使用します。
- 【60番】極端に薄かったり厚手の生地でなければ、比較的どの生地にも使えます。一番汎用性のある番手なので、普通地であれば、60番手を選んでおけば良いでしょう。
- 【30番】帆布やデニムなど、硬くて厚手の生地に使用します。
ミシン糸に対するミシン針の選び方
ミシン糸の番手と同様に、糸にあったミシン針を選ぶことも、スムーズに縫製を進める上では重要です。
ミシン針を選ぶ際の目安は、以下のようなイメージです。
- 【90番手】ミシン針は9番を選びます。
- 【60番手】ミシン針11番を選びます。
- 【30番】ミシン針は14番を選びます。
針のサイズは、番号が大きくなるほど、太くなっていきます。
糸の番手とミシン針の大きさが決まったら、どの種類の糸を選ぶかを決めていきます。
縫い糸(ミシン糸)の種類
①ポリエステル糸(polyester thread)
ポリエステル糸は、伸縮性のあるニットや織物の縫製に最適な素材です。
ミシン糸の滑りが悪いと糸切れや目飛びが起こりますが、ポリエステル糸のほとんどは、シリコンまたはワックスで加工処理されているため、滑りがよく、ミシンで縫製時の糸トラブルが起きにくいです。
また、ポリエステルの糸は綿糸に比べると非常に強度が高いため、市場に出回っている衣類は主にポリエステル糸で縫製されています。
ナイロンやアクリルなどの化学繊維に比べると熱に強い繊維ですが、綿糸と比べると、ポリエステル糸は高温には弱い特徴があるので使用時には注意が必要です。
関連記事:化繊(かせん)、化学繊維(かがくせんい)とは?化学繊維の分類や歴史、代表的な化学繊維の種類について
1952年には開発されたポリエステル繊維は、21世紀にはいってからは、綿の生産量を上回り、現在世界で一番多く生産されている繊維となっています。
特にこだわりがなく、何の素材の糸を使うか迷ったら、ポリエステル糸を選んでおけば間違いはないでしょう。
繊維としてのポリエステルの性質
ポリエステル繊維は、数々の優れた性質をもっており、特に糸や布にある形を与えて、熱と圧力を加えると形が固定される性質(熱可塑性)によってさまざまな加工がしやすく、湿気を吸い込みにくいため、水に濡れても乾きやすい性質(低吸湿性)などが挙げられます。
ウォッシュアンドウェア(wash and wear)やノーアイロン、いまだとイージーケアなどと言う言葉がありますが、家庭で洗濯ができて濡れても乾きやすく、しわになりにくい性質が、熱可塑性と低吸湿性によって引き出されているのです。
ポリエステルは他の繊維となじみやすいので、多くの天然繊維や化学繊維と混紡したり、異なる糸を用いて交織したりして、互いの長所を生かしながら、短所を打ち消し合えるの優れた繊維なのです。
②綿糸(cotton thread)
綿糸は、カタン糸とも呼ばれ、「カタン」とは、コットン(cutton)が訛ったものです。
綿糸はポリエステルよりも柔らかく、綿や麻などの薄手の生地を縫うのに適しています。
ただ、ニットや伸縮性のある生地に、伸びにくい綿糸を使用するのは適していません。
綿糸と伸縮性のある素材とのミスマッチが起こり、綿糸がほつれたり切れたりと問題が起こる可能性があるためです。
ポリエステルの方が強度は断然良いので、綿糸にこだわりがなければ、ポリエステル糸を選ぶのが無難な選択です。
縫製後に天然染料で染めることを考えているのであれば、ポリエステルやナイロン糸などは染まりませんので、縫い糸を綿糸にする必要があります。
繊維としての綿の性質
綿よりも特徴的に優れている繊維はたくさんありますが、総合的にみると綿は非常に優れた繊維です。
綿は繊維のなかでは、万能とも言われてきましたが、他の繊維と混ぜて糸をつむぐ(混紡)によって、綿特有の欠点を補ったり、その他の繊維と混ざることで、新たな強みを出せます。
綿の特徴としては、「肌触りが良く柔らかい」「吸水性がある」などのイメージがありますが、保湿性や通気性がよく、紡績や染色がしやすいなどさまざまな利点があります。
一方、他の繊維と比べると縮んだりしわになりやすく、黄色に変色するなどのデメリットもあります。
関連記事:綿とポリエステルを混紡した黄金ブレンド。ポリエステル65%綿35%の素材的特徴、長所と短所について
③綿とポリエステル糸(cotton polyester thread)
ポリエステルの糸を綿糸で包んだ糸は、ほぼすべてのタイプの生地に使用でき、ミシン縫いにも手縫いにも使えます。
この糸であれば、高熱のアイロンでプレスしても基本的に大丈夫です。
綿とポリエステルの混紡でできているので、ポリエステル100%と比べると、ポリエステル独特のテカリが抑えられ、綿糸のような仕上がりになります。
ポリエステル糸の強度と実用性に加えて、綿糸の縫いやすさと風合いの良さをあわせ持つ糸なのです。
④ナイロン糸(nylon thread)
ナイロン糸は、強度に加えて、柔軟性があるのが特徴的です。
アメリカに本社を置く化学メーカーであるデュポン社によって(Du Pont)、1937年に合成ポリアミド繊維が発明され、石炭と空気と水から合成した繊維であることから、当時は世界中で話題となりました。
2年後にこの繊維をナイロン(Nylon)と名付け、「絹よりも強く、絹よりも美しい」や「くもの糸よりも細く、鉄よりも強い」というキャッチフレーズの下、工場生産を開始しました。
ナイロンという名前は、デュポン社の商品名だったものですが、ナイロンという名前があまりにも有名になったため、現在は一般名詞として使用されています。
ナイロン糸は、フリースや本物に見えるように作られた人工の毛皮(フェイクファー)、ナイロンのニット地などの軽量から中程度の重さの合成繊維に適しています。
⑤絹糸(silk thread)
絹糸(シルク糸)の特徴は、その光沢感にあり、シルク生地の縫製に最適です。
関連記事:シルク(絹)繊維の性質と構造、美しい光沢感が生まれる理由
ボタン付けやボタンホール、手縫い用にも絹糸は使用できます。
シルク生地を使った高級感のある下着などを縫う場合などは、やはり絹糸が最適でしょう。
⑥ウール糸(wool thread)
ウール糸は、ウール素材やキャンバスなどの厚手の生地に最適しています。
ウール糸の特徴はさまざまあり、そのあたたかみは言わずもがな、シワになりに勝ったり型くずれしにくい性質もあります。
ミシン糸というよりは、基本的に手縫いで使用され、刺繍したりさまざまな場面で使用できるので、縫製の初心者にとっては、比較的扱いやすい素材で、簡単にステッチの練習ができます。
⑦ジーンズステッチ・バッグ用ミシン糸(jeans stitch)
厚手の生地を縫う場合は、厚手生地用の糸を別途購入する必要があります。
素材は、基本的にポリエステル100%です。
ジーンズ専用として生まれたジーンズステッチ用ミシン糸は、厚地の縫い物であればなんにでも使用でき、糸の耐久性によって縫い物の寿命を長く保ちます。
アームチェアやソファのクッションなどの、厚手で扱いづらいインテリアや家具にも使用できます。
バッグを縫うのであれば、バッグ用のミシン糸も販売しているので、最適なものを見つけてみるのが良いです。
⑧金属糸(metallic thread)
金属繊維で作った金属糸は、装飾性のあるデザインを縫い目(ステッチ)で表現するために主に使用されます。
ドレスに使用してきらびやかな装飾をしたり、無地の生地に使用して、特徴的ステッチを表現します。
ポリエステルでできている金属色でできているミシン糸も、扱いやすくおすすめです。