染色において、江戸茶色という色名があります。
江戸茶色は、江戸で好まれた黄味の暗い茶色を表します。
染色における江戸茶色(えどちゃいろ)
江戸時代中期の宝永2年(1705年)に、儒学者・本草学者・教育者などとして活躍した貝原益軒によって当時の百科事典ともいわれる『万宝鄙事記』が書かれました。
『万宝鄙事記』は、染色についての記載も多くあり、「江戸茶色」の染色については、以下のような記述があります。
江戸茶染は楊梅と灰の木(とちしば)の葉とを煎じ五六返染めあげさまに一反に付明礬の末を茶一服程かきませ染に右の如して染れば江戸茶色の色『万宝鄙事記』
上記の万宝鄙事記の記述によると、江戸茶色は、楊梅とハイノキ(灰の木)の葉を煮出したものを染料とし、明礬で媒染することで茶色を表現していました。
古くからハイノキ(灰の木)の葉からは良質な灰汁がとれるとされ、染色に使用されていました。
楊梅の皮である楊梅皮は、日本において奈良時代には染色に用いられていたと考えられていますが、いつ頃から使用されていたのかははっきりとしていません。
楊梅には、タンニンやミリセチンやミリシトリンなどのフラボノイド色素を含むため、染料としての効果があります。
楊梅皮は、煮出しただけでは薄くて明るい感じの茶色ですが、媒染剤の量や種類によって多様な色に染められます。
染色堅牢度を高めるために、蘇芳などを染色する際の下染に使う染料としても重宝されました。