赤色を得られる染料の色素は少なく、紅花や蘇芳以外には、アントアキノン系の色素である茜やラック、コチニールなどが挙げられます。
紅花や蘇芳は、染織の歴史を語る上では重要な色ですが、いずれも堅牢度に不安があり、長期間に渡って染色時の色合いを残すのは難しいです。
天然染料で美しい赤が得られるラックはアントラキノン系の色素で、堅牢度が高いので現代でも染色においては重宝される染料です。
染色・草木染めにおけるラック(紫鉱)
介殻虫,かいがらむし,Coccoidea,Dinesh Valke from Thane, India, CC BY-SA 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0>, via Wikimedia Commons,Link
インドやネパール、チベット、ミャンマー、中国などで採れるラック虫は、ハナモツヤクノキ(学名Butea monosperma)やイヌナツメ(学名Ziziphus jujuba)、ビルマネム(学名Albizia lebbeck)などの樹木に寄生する介殻虫(学名Coccoidea)です。
介殻虫は、カメムシ目ヨコバイ亜目腹吻群カイガラムシ上科に分類される昆虫の総称です。
介殻虫は、紅紫色の色素であるラッカイン酸(Laccaic acid)を含んでいます。
乾燥したラックは樹脂と共に固まり、石のような硬い外見をしています。
ラック虫から取り出した綿臙脂(生臙脂)は、ラックの色素を円形の薄い綿に染みこませたもので、江戸時代に中国から輸入されていました。
綿臙脂は、使い方としては、必要量に応じて綿を取り、容器の中で少量のお湯をそそぎ、箸などで色素をもみ出し、抽出した液を蒸発させたものを使用したようです。
色素の用途としては、友禅や更紗、絵画の絵具などに使用されました。
採集したばかりの生のラックは、熱煎するだけで染液が得られるので、インドやタイなど現地で採取しすぐに使用できる場合は、生のラックを使用して染色が行われていました。
日本においては、正倉院薬物に記された正倉院宝物の中には、ラック(紫鉱)が残されており、染色に使用されていた可能性もあります。
「紫鉱」とされたのは、鉱物のようなものとして扱っていたからと考えられます。
ラック(紫鉱)は、紫梗や紫鉚などとも書き、いわゆる「棒ラック」といわれるもので、一般的には樹脂状の分泌物が木の枝を包んで固まったものです。
江戸時代には花没薬として薬用の他、染色にも利用されてきました。
ラック(紫鉱)の染色方法
ラックやコチニールなどのアントラキノン系の色素は堅牢度が高いとされますが、それは基本構造が亀の甲が三つ並んだ「アントラセン」という形であることによって生まれます。
合成染料の開発においてもこの構造を目指して作られていたほどの強い構造であり、天然および合成染料の中でも最も堅牢度が高いとも言えます。
灰汁媒染によるラック(紫鉱)の染色方法の一例として、以下のような工程があります。
①灰汁に絹糸1kgを30分間浸し、しっかり絞ってから天日に当てて乾かす(先媒染)
②ラック(紫鉱)1kgを10ℓの水に入れて熱し、米酢50ccを加えて沸騰してから20分間熱煎して煎汁をとる
③同じようにして2回目の煎汁をとり、一緒にして染液にし、先媒染した絹糸を浸し、染液が冷えるまでおいておき、その後に天日に当てて乾かす(中干し)
④2回目まで煎汁をとったラック(紫鉱)から、同じように3回目、4回目の煎汁をとり、中干しした糸を浸し、染液が冷えるまでおいておく
⑤希望の濃度に濃くする場合は、5回目6回目とさらに煎汁をとって染め重ねる
【参考文献】
- 『月刊染織α1985年No.53』
- 『月刊染織α1992年7月No.136』