実際に存在はしないが幻とされる幻獣は、世界中で古くから人々の希望や願望をのせたものとして作り出されてきました。
ペガサスやケンタウロスなど日本人でも聞いたことがあるでしょうし、中国では鳳凰などが見て取れます。
目次
デザインにおける幻獣(げんじゅう)
西洋の幻獣は、あくまで人間的で、ギリシャ神話の神々が野蛮で好色(色事が好きなこと)であるように、幻獣もまた粗暴で好色なところを秘めています。
一方、東洋の幻獣は、あくまで儒教的な美徳をもっており、聖人や天子(天命を受け、天下を治める者)の道徳性(徳性)を象徴するものとなっています。
ペガサス(Pegasus)
ペガサス(Pegasus)は、ギリシャ神話が生んだ幻獣で、ペガサスはギリシャ神話に登場する怪物、ゴルゴン(ゴーゴン)の末妹メドゥーサと海の神ポセイドンの子供です。
ペガサスは、英雄ペルセウスがメドゥーサの首を刎ねたときに、メドゥーサのお腹の中から踊り出たのが、翼がある神馬ペガサスなのです。
古来より、ペガサスは西洋だけでなく東洋でも染織模様として用いられてきました。
5〜6世紀エジプト、アンティノエで出土したコプト織には、神馬ペガサスをモチーフにしたようなものがあります。
イラン高原やメソポタミアなどを支配したササン朝でも、翼のある馬が王権の象徴とされていました。
ケンタウロス(centaur)
ケンタウロスも、ギリシャ神話が生んだ「半人半馬」の幻獣です。
ケンタウロスは、半身は人間で下半身は馬で、その誕生も神秘性に満ちています。
ギリシャのテッサリアにて、野蛮なイクシオンという王がおり、ギリシャの最高神ゼウスの妻ヘラに横恋慕し、誘惑しようとします。
そこでゼウスは一計を案じ、妻のヘラに似ている雲を作り、それに好色の生命力だけを与えて、イクシオンに応えさせます。
イクシオンはその雲をヘラと思い込み、交わりをもって、生まれたのがケンタウロスなのです。
半人半馬のケンタウロスは、このようなエピソードを踏まえても、元来、野蛮で好色なのです。
ただ、ケンタウロスにも、知性や教養に優れたケイロンのような半人半馬がいます。
人間の持つ知性と本能、理性と好色などといった二面性をケンタウロスに象徴される半人半馬は持っていると言えます。
ギリシャのパルテノン神殿には72枚の長方型の彫刻された小壁がありますが、 ケンタウロスが彫られているものもあり、紀元前446年から440年の間に製作されたとされています。
5世紀ごろのコプト織りにも、ケンタウロスが織り出されている作品が残っています。
鳳凰(ほうおう)
鳳凰(Chinese phoenix)は、中国統治した五帝の最初の聖帝とされる黄帝が、南苑で祭りをしたときに現れたとされています。
鳳凰は、中国神話に現れる伝説上の動物である麒麟と同じように、王の治世がうまくいき、天下が平和である時に出現するとされたことから、天下の象徴や善政の世の中のシンボルとなりました。
鳳凰は、すべての鳥(鳥類)の王ともいえたのです。
鳳凰の鳳は、火の精や雄の意味があり、凰には雌の意味があります。
ちなみに麒麟の麒には雄の意味があり、麟には、雌の意味があります。
中国の伝説にちなんだ模様に桐竹鳳凰文がありますが、これは鳳凰が梧桐(あおぎり)にとまり、竹の実を食べることに由来しています。
鳳凰のデザインは、現実、あるいは想像世界に存在する生物の特徴を寄せ集めて作り出されています。
中国では、容姿は頭がキジ科に分類される鳥の一種である金鶏、くちばしはオウム、首は龍、胴体の前部がオシドリ、後部が麒麟、足は鶴、翼は燕、尾はクジャクと一般的にされています。
日本では、容姿は頭とくちばしが鶏、首は蛇、胴体の前部が幻獣の麒麟の姿、後部が鹿、背は亀、顎は燕、尾は魚であるのが一般的です。
【参考文献】『月刊染織α1986年2月No.59』