紫色を染める材料としては、古代から紫草が主に使用されてきました。
平安時代には、藍と紅花による紫色も使用されはじめ、二藍や桔楩色などと言われていました。
江戸時代になると蘇芳による紫色が多くなり、単に紫や似紫と呼ばれています。
桔楩色は、江戸時代になると藍と蘇芳による染色になっていきます。
江戸末期から明治にかけてロッグウッドが輸入されるようになってからは、主にロッグウッドが紫色の染めに使用されるようになりました。
その他、紫系の色を染める際には、五倍子や矢車附子などが活用されました。
五倍子や矢車附子は、採取してからすぐに染めると紫色と言ってもいいような色合いになります。
紫草の特徴
紫草(学名 Lithospermum erythrorhizon Siebold & Zucc)です。は、日本や中国、ロシアなど広く分布している多年草で、山地や草原に生えます。

紫草,Lithospermum erythrorhizon,yakovlev.alexey from Moscow, Russia, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons,Link
樹高は、30~60センチほどに成長し、根っこは紫色で太く、地中にまっすぐのびて、ヒゲのような細い根っこがあります。
6〜7月に白い花が小さく開き、小粒の琺瑯質の実をつけます。
主成分は、シコニン、アセチルシコニン、イソブチルシコニンなどの色素を持っています。
奈良時代には、相当自生していたようですが、平安時代に入ると自生種も少なくなり、栽培種の方が多く使われるようになりました。
日本で自生する紫草で染色することは不可能に近いですが、中国から輸入される紫草を使用することができます。
紫草の染色は、古代から柃や椿などの木灰から作った灰汁による染色でした。
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椿にもアルミナ分が含まれますが、柃の木灰に含まれるアルミナはとくに多く、媒染としての役割を果たしています。
薬用としての紫草
薬効としての言い伝えでは、根を煎じて飲むと解熱や利尿効果があり、粉末が切り傷や痔などの塗り薬として重宝されました。
江戸時代の薬種問屋では、色素の多いものは染色用にし、色素が少ないor黒い紫根は医療用にと分けていたことが文献に出てくるようです。
紫草の染色方法の一例
紫草の染色方法について、一例を紹介します。
媒染
柃や椿、沢蓋木などの木灰に、熱湯や水を入れてかき混ぜて、灰汁を作ります。
灰汁媒染するので、灰汁10リットルに対して糸1kgを30分ほど浸けてから絞り、天日干しをして乾かします。灰汁に浸けて、天日干しを3回ほど繰り返して干して一旦灰汁媒染は完了です。
灰汁がない場合は、酢酸アルミニウム3パーセントの液に糸を一晩浸けておき、その後しっかりと水洗いします。
染める液の抽出
糸量1kgに対して、紫草の根1kgを使用します。
紫草を入れた容器に熱湯を注いでから、臼でひくか手で揉むかして、30分ほど色素を抽出します。
抽出液を麻布や不織布などで濾して染液を取り、使用した根っこに再び熱湯をかけ同様に抽出し、合計3回ほど抽出した液を合わせて、染液にします。
染液を60度に温めて、灰汁で先媒染した糸を浸して、染液が冷えるまでかそのまま一晩浸けて置きます。その後、糸を絞り天日干し乾いたら再度、糸を灰汁媒染します。
3回ほど抽出した紫草を引き続き使用し、4回目から6回目まで抽出液を作り、初回と同様に染めて天日干しします。
その後は、7回目から9回目までの抽出液を作り、染色→天日干しをします。
濃く染める場合は、同じ工程を繰り返して重ね染めしていきます。