モッコク(学名:Ternstroemia gymnanthera)は、モッコク科モッコク属の常緑樹で、樹高は6m〜10mを越えるほどにも成長します。
病虫害に強く、葉に光沢があり美しく、樹形が整うため、公園の樹木や、庭木として古くから武家屋敷などに植えられてきました。
花の香りがラン科の石斛に似た木という意味で、江戸時代初期に木斛と名づけられました。
モッコク(木斛)の材はきめが細かくで細工物に向いており、堅くて美しい赤褐色をおびる材を建材や櫛などの木工品の素材として用いられています。
木材が赤いため、「アカギ」という別名もあります。
樹皮は、繊維を茶色に染める染料として利用されてきました。
染色・草木染めにおけるモッコク(木斛)
モッコク(木斛)は、江戸時代に人気の高かった庭木として知られ、アカマツ、イトヒバ、カヤ、イヌマキと共に「江戸五木」として親しまれていました。
また、モチノキ、モクセイと共に「三大庭木」としてこれらを庭に採り入れると、景色にまとまりがでるとされます。
環境をあまり選ばず育ち、ゆっくり成長するので比較的扱いやすく、樹齢を重ねるごとに風格を増していきます。
直立した幹から、放射状に枝をたくさん伸ばしますが、大きくなると剪定せずに放任しても樹形を整えやすいこともあり、和風には欠かせない高級な雰囲気をもたらすことのできる「庭園の定番」のような樹木です。
花はクリーム色をしていて、6月~7月頃の初夏に石斛という洋ランに似た香りの花を咲かせます。
花の後にはツバキの実を小さくしたような実ができ、9月~11月頃には緑色だった実が熟し、皮がパックリと割れます。
割れた実から見える種子はきれいな紅色で、次第にこぼれ落ちていきます。
四季を通じて、いくつもの表情を見せてくれるところもモッコク(木斛)が庭木として人気である理由です。
染色・草木染めにおいては、モッコク(木斛)の樹皮が染料として利用されます。
モッコク(木斛)は樹皮にタンニンを多く含む
樹皮にはタンニンを多く含んでおり、茶色~赤褐色の染料として用いられました。
木灰から作る灰汁や石灰を媒染に利用することで、茶色に染められます。
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タンニンを多く含んでいるため、鉄媒染を利用すると、黒く染めることができます。
八丈島では、布の染色に利用されたり、魚介類を捕獲するために用いる網である魚網の染色にも用いられました。
モッコク(木斛)に似た名前の植物に「浜木斛」がありますが、これは「車輪梅」の異名で、大島紬や久留米紬などの茶染めに使用されてきました。
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