江戸小紋という言葉を聞いたことがある方もいるかと思いますが、そもそも小紋とはどのような意味でしょうか。
紋という言葉は、単一または反復文様を表し、一般的には秩序立って乱れがなく、きちんと並んでいる様を表す模様(文様)を意味します。
小紋(こもん)とは?
小紋は、文字通り、小形の紋様の集合を一定の間隔で繰り返し表した染め物を表します。
模様(文様)の大きな大紋や中形に対して、小さい模様という意味で「小紋」と名付けられたのです。
目次
小紋(こもん)の歴史
日本における型紙を用いた模様染めは、沖縄で行われた型紙を使用した紅型が最も古いとされています。
紅型は15世紀中頃に、明から伝わったものとされ、日本で型染めが行われるようになったのも室町時代で、明との交流によるものと思われます。
京都で友禅染めが流行していた元禄時代(1688年〜1704年)から享保(時代(1716年〜1736年)にかけて、江戸では型紙を用いて染める、友禅とは異なる小紋が完成しました。
小紋は、もともと室町時代の武士の衣類である裃の家紋を染めることから始まったとされています。
後に裃の型染めとして発展したのは江戸時代になってからですが、江戸時代に礼服や公服として用いられたものは、布地が麻で、背中と前見頃の両前に家紋をつけたのです。
関連記事:紋付(もんつき)の紋の起源と歴史。武家、公家、町人にとっての家紋の役割や意味について
寛永12年(1635年)に、新しく武家諸法度が定められ、参勤交代が義務付けられたことで、他藩の武士とも接するため、礼服にも気をつかうようになったと考えられます。
武士の町である江戸では、参勤交代で江戸詰(江戸に留まって勤務する)する武士が大勢いたため、小紋染めの需要が多く、小紋染めの優秀な職人が江戸に集中しました。
家紋以外の部分の模様染めには、小紋が使用されることが多く、小紋による型染めが発達したのは、三代将軍の徳川家光の寛永時代(1624年〜1643年)といわれています。
小紋が武家以外の人々に着用され始めたのは、江戸時代に新興商人が経済力を持つようになり、裃に見られないような新しい柄が生まれ、羽織や着物に染め出していました。
町人の間では、文様のテーマには色々な変化があり、なかには八百屋の店先に並べられた野菜まで使われていました。
一色の地色に対して、紋様を白抜きすることで、すっきりとあか抜けているようなお洒落さがある表現でき、その美しさが江戸町人に好まれたのでしょう。
細かい小紋は、地味な渋さを表し、図形的な表現による気高さや上品さ、丸い点の配置や連続によって点描のなんとも言えない味わいを表現したりとさまざまです。
「江戸前」小紋
江戸時代末期以降は、さらなる高度な型染めが江戸で行われるようになり、小紋のような細かい柄を「江戸前(えどまえ)」と言うようになりました。
小紋染めに対して「江戸小紋」と呼ぶようになったのは意外に新しく、昭和30年(1955年)に文化財保護委員会が、小宮康助氏(1882年〜1961年)を重要無形文化財技術保持者に指定する際に、京小紋や型友禅などと区別するために採用されました。
型彫りが染屋の手を離れて専業に
もともと型染めに使用する型紙は、染め屋が自分で彫るものでしたが、型紙を使用して染める型染めの文化が広がるにつれて、型彫り屋が生まれてきます。
型彫りが独立した専業になると、型を彫るという技術が染め屋の型付けの技術から独走して、いかに細かく彫るかという方向に向かっていきました。
型紙といえば伊勢型紙が有名ですが、江戸時代末期から明治初期にかけて、並の染め屋の腕ではどうにもならないほど優れた伊勢型紙が数多く生まれました。
分業によって生まれた技術の頂点ともいえ、小紋染めにもその美しさをみつけられますが、技術と美しさが切っても切り離せない関係であると同時に、美しさが逃げてしまっているものもあります。
技術の歴史を見ると、初期の仕事は粗く、上昇期に入ると次第に繊細になり、崩壊期にかかると荒れて略式化されていきます。
初期のものと、崩壊期の粗さは混同されがちですが、技術の性格が全く異なるので区別しなければなりません。
染め物は、技術によって美しくもなり、酷くもなるのです。技術の持つ要素は、非常に複雑なのです。
関連記事:伊勢型紙(いせかたがみ)とは?伊勢型紙の彫刻技法や歴史について
江戸小紋(えどこもん)の制作工程
基本的な江戸小紋の制作工程は、以下のようになります。
必要な道具
長板(もみの一枚板)、染料、地糊(もち粉と米ぬかを混ぜた防染糊)、地染め(しごき)用の色糊、駒ベラ、地染め(しごき)用のヘラ
制作工程
1. 糊(のり)の準備
小紋染めの場合、紋様のひとつひとつが細かい点状なので、生地の上に置かれる防染糊は、切れの良い糊で、しっかりとした接着性や防染能力が求められます。
その都度、紋様の細かさなどを考慮に入れた上で、もち粉と米ぬかを調合して作ります。
2. 地張り(じばり)
もみの木の一枚板である長板の表面に、もち糊を薄く平らに引き、乾燥させます。
地張りの際に霧をふき、糊の粘着性を戻すことで生地を長板に貼り付けていきます。
3. 型付け(糊置き)
型紙を生地の縦横方向を正確に合わせてから置き、型付け(糊置き)をします。
型紙に彫られた星印を目印にして、前の星と後の星を合わせることで、型紙を送って(移動して)いきます。
糊置きに使用するヘラは、ヒノキの駒ベラで、型付けも地染め(しごき)も糊の厚みを一定にするために、ヘラのしなり具合がバランスを保つように木目が一律で整ったものを選びます。
4. 地染め(しごき)
型付け後、糊が乾いた上から、型付けと同じ原料の糊に染料を混ぜて調色した色糊を地染め(しごき)用のヘラで縦方向にのせていきます。
5. 乾燥後の処理(蒸し・水洗い)
板から生地を外し、枠に生地を掛けて、蒸し箱に入れて染料を定着させます。
その後、蒸し箱から生地を取り出し、糊と余分な染料を洗い流していきます。
6. 幅出し・湯のし
染色の工程で、縮んだ布の幅や長さをもとの幅に戻す作業(幅出し・湯のし)を専門の業者に依頼して、反物を仕上げます。
【参考文献】
- 高田 倭男 (著)『服装の歴史』
- 『型染め 巧と美をつなぐ 琉球びんがた・江戸小紋・和更紗・正藍型染』