松煙墨染めと、藍染を併用した染色は古くから日本各地の紺屋で行われていました。
松煙墨染めのみで引き染めして、緑色がかった灰色である利休鼠色に染め上げる小紋が作られたりもしました。
出雲地方の祝風呂敷を染める紺屋では、糊で筒描きした生地を藍染する前に、刷毛引きする豆汁に練墨、丹殻(ヒルギの樹皮からとる染料)を混ぜて先に染めたりしていました。
松煙墨(しょうえんずみ)と藍染めを併用した染色技法
藍染めと松煙墨染めは、同じタイミングで染めることはできませんので、別々の工程で染色が行われます。
藍で染める前に松煙墨染めする例のひとつとして、以下のようなものがあります。
①精錬した生地を、板場の張板に地張りする
②型紙を使って、生地に糊置きしてから乾燥させる
③水に漬けて柔らかくしておいた大豆を、水を混ぜながらミキサーですりつぶし、布で濾して豆汁にする
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④豆汁に混ぜる松煙墨は、簡単に溶けないため、先に膠を煮た液に混ぜて、よく棒で練り上げる。膠が伸びの良いきれいな黒曜色になれば、このまま保存して染色時に使用する
⑤豆汁に膠で練った松煙墨液を少しずつ混ぜて、決められた濃さに必要な墨豆汁にする
⑥糊置きした生地を張板からはがし、張木で長く伸ばし伸子掛けした生地に、引き染めする刷毛に墨豆汁を含ませて、ムラなく両面から引く
晴天の屋外で引く場合、墨豆汁引きは日光の吸収が強く、早く乾燥して変化があるので、伸子の影の部分が染まらずに生地に残る場合があるので注意する
墨豆汁を使用することによって、型置きした防染糊が藍甕の中で染める際にはがれたり、型崩れを起こすことを防ぎ、繊維に深く浸透して藍の染まりをよくする効用がある
⑦藍甕で藍染し、染めが終わったら水洗いして仕上げる
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【参考文献】『月刊染織α1985年5月No.50』