シルク(絹)は、蚕によって作られた繊維とその製品の総称です。
シルクは、綿や羊毛(ウール)と違い、連続した細い繊維でできており、しなやかな感触と優雅な光沢感を持っています。
シルクを産出しなかったヨーロッパでは、シルクはシルクロードを通って遠く中国から運ばれ、同じ重さの黄金と同じ価格で取引されたと言われています。
人類は5000年以上も前から、蚕が作る繭を利用して糸づくりを行っていました。
現代においても最高級の繊維とされているシルクの特徴はさまざま挙げられ、その糸づくりも綿や麻などの植物繊維とは違いがあります。
目次
蚕(かいこ)の繭(まゆ)から生糸を作る場合は、糸を撚る(よる)のではなく繰る(くる)
綿や麻などの繊維は、1本の糸をつくるためには、1本から複数の糸をねじりあわせることで撚りをかける作業が必要です。
「撚り」とは、糸をねじり合わせることを意味し「撚糸」という言葉は、「撚りをかけた糸」を表します。
一方、蚕の繭から糸を引き出すの場合、「糸を撚る」と言うのではなく、糸を「繰る(くる)」と言います。
蚕からとれる生糸(raw silk)は、1本が細く、そのままでは糸として使えないため、4〜5個の繭から引き出した糸を合わせて糸にしていきます。
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生糸(raw silk)とは、一般的にはまゆから取ったままの糸を何本か集めて1本の糸にしたもので、精錬や撚りなどの加工をしていないものを表します。
生糸の状態になったものは糸が細いため、複数の糸を引きそろえて撚りをかけることによって、強度や風合いを出すことは一般的におこなわれています。
繭から糸を引き出す座繰り(ざぐり)
繭から糸を直接引き出す方法で、昔ながらのやり方は「座繰り(ざくり)」と言います。
「座繰り(ざくり)」は、座るか、椅子に掛けながら糸を繰る方法です。
繭を煮て、にかわ質を柔らかくしてから糸口を見つけて、糸を引きだすと1本に繋がって糸が繰り出されるのです。
引き出された糸を何本か合わせたものが、生糸と呼ばれる糸になり、枠に巻き取られます。
「座繰り(ざくり)」の技法は、原始的には「なべ」、「わく台」、「流し板」からなる手引きで、1800年頃から「軽わざ座繰」、「平座繰」、「左手座繰」、「二つ取り座繰」、「一つ座繰」など簡単な装置を用いる方法が考えられます。
それから、次第に発達していき、「足踏座繰」、水力を動力とする器械座繰が普及し、大正時代まで行われました。
その後、多条繰糸機や自動繰糸織が発明され、今日に至っています。
富岡製糸場の繰糸工場(くりいとこうじょう)
2014年に世界遺産に指定された富岡製糸場(Tomioka Silk Mill)は、1872年(明治5年)に群馬県富岡市に設立された日本初の本格的な機械製糸の工場で、開業当時の繰糸所、繭倉庫などが現存しています。
繭から糸を取り出す「繰糸」を行う建物も残っており、見学することができます。
入り口には、「繰糸工場」の札が掛けられています。
操業当時はフランス式の繰糸器が使用されていましたが、現在は工場内には日産が開発し、昭和40年(1965年)から昭和55年(1980年)の間に設置された自動繰糸機があります。
現存する自動繰糸機は、昭和62年(1987年)の操業停止時の状態で保存されています。
一反分の反物を織るために必要な繭(まゆ)の数
一反分の着物の着尺約12mを織るために必要な絹糸は、もちろん前後はありますが700gほど必要になります。
1粒の繭から、長さ800m〜1500mほどの糸がとれ、重さは大体1.5g〜2.5gで、繭のうち糸になるのは約17〜20%ほどです。
仮に、繭1粒あたりを2gとし、1粒から重量の20%ほどの絹糸がとれるとすると、0.4gとれることになります。
その場合、例えば2000個の繭で、4kgほどの重量になり、そこから20%の絹糸が取り出せるとすると800gになります。
2gの繭から、0.4g絹糸がとれるとすれば、1,750粒の繭があれば、ちょうど700gで、一反分の生地を織ることができる計算です。
このように考えると、機械化する以前の人々が手作業で行っていたことは、途方もない作業の連続であったことがよくわかります。
機械化された絹糸の繰り工程に関しては、国内最大の器械製糸工場である群馬県松井田町の碓氷製糸株式会社における、製糸工程の作業動画が非常に参考になるので、ぜひ見てみてください。