大正時代から昭和にかけて、手拭中形(手注)や注染という方法が始まり、浴衣が大量生産されるようになりました。
手拭中形とは、折付中形や注染中形、大阪中形(阪中)などと呼ばれ、布地を昔の日本手拭の長さに折りたたんで染色することから「手拭中形」という名前で呼ばれています。
長板中形に代わって手拭中形が普及
注染による中形染めは、明治30年代(1897年〜)に大阪で始められたもので、それまでの日数も手間もかかる長板中形に比べて、染色が簡単で効率も良いため、瞬く間に全国的に普及しました。
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手拭中形は、従来の長板中形のように緻密で繊細な柄を表現したり、深みのある模様を染め上げることができない半面、おおらかで迫力のある模様染めができ、何より量産できる点に大きなメリットがありました。
手拭中形が長板中形にとって代わったもう一つの理由に、染料があります。
明治時代に入ってから、安価なインド藍が輸入されるようになり、さらに化学的なインディゴが用いられるようになると、精緻に彫られた型紙を用いて、古くから行われてきた天然の藍染による浸染で行われる長板中形が敬遠されるようになります。
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手拭中形の種類としては、3つのタイプが挙げられます。
- 白地に紺上がり
- 紺地に白上がり
- 模様部分に他の色を差し加えたもの(差し分け)
手拭中形の技法
木綿の生地2反分が巻かれたものを捺染板の上に広げ、右から左に、左から右にジグザクと日本手拭の長さに折りたたみながら、そのたびごとに型を当てて防染糊を置いて、生地と糊がサンドウィッチのように一つおきに層をなして重なる形にします。
それを染め台に乗せて上から染料を注ぎ、圧縮空気で下まで一気に浸透させて染めていくのです。
色差しする場合は、地染めの部分を糊伏せし、色差しする模様部分に染料を注ぎます。
注染であれば、1日で100反は仕上げられるほど生産性があり、2色以上使ったり多様な染めができることから、長板中形に変わって浴衣染めの主流となります。
手拭中形のような注染の技法の登場により、昔からあった中形染のことは、「長板を用いた中形染め」、つまり長板中形のことを意味するようになったのです。
【参考文献】荒木健也(著)『日本の染織品 歴史から技法まで』