ものづくりと一口にいっても、世の中にはさまざまなものづくりがあります。
低価格で、大量にものをつくるのであれば、機械に頼ったものづくりになります。
いわゆる量産品ですが、これがものづくり産業の大部分を占めています。
一方で、価格は高いし、数をつくれないものづくりもあります。それは、人の手作業が必要となるものづくりです。
価格と生産量において機械には太刀打ちできない、後者のものづくりの利点とはなんでしょうか。
個人的には、手作業であるからこその非効率の価値があると考えています。
関連記事:人の手がかかるものづくりには非効率の価値があるから、その他の作業をできるだけ効率化するべき。
非効率だからこそ、ものづくりにかけるこだわりや想いを消費者に届けやすくなります。
ただ、人の手がかかるものづくりだからといって、そこに信念や哲学がないと、ただの量産品と同じになってしまうのではと感じています。
ものづくりに哲学や信念を
コンセプトやストーリーをうまく表現することで、ものづくりにおける信念や哲学を示すブランドは多くみられます。
たとえそれが「量産品」でも、届けたい信念や哲学が人々にしっかり伝わっていれば、共感を集めることができ、それが圧倒的な強みになるのです。
一方で手間暇がかかる手仕事のようなものづくりをしていても、そこに信念や哲学がないと、消費者に商品の良さがうまく伝わっていきません。
消費者に少も伝わらず、愛着や思い入れももってもらえないと、ただ100円ショップで売られているような量産品のようになんとなく消費されていくのです。
せっかく人の手で作っているのであるから、しっかりと信念や哲学を伝える努力が必要だと思います。
手間がかかるものづくりに、人々からの共感を集めるような信念や哲学が加わると、量産品には出せない圧倒的な強みがうまれてくるのではないでしょうか。
哲学がない、ものづくり
「哲学なき起業」というタイトルのブログをみつけ、非常に共感したので以下に引用します。
参照:哲学なき起業
哲学や思想、知性なき起業・企業は選ばれない時代になっていくと思います。ぼく自身が関わり支援するスタートアップもそうありたい。
知的・知性とは、常に傾聴し、謙虚に学ぶ気持ちを忘れない、ということだと思っています。人はすぐ「自分は何でも知っている」「自分の経験的にそれはうまくいかない」「自分の直感を信じろ」なんて、答え”らしきもの”をすぐに出してしまう。たかだか数十年しか生きてない人生の中でのわずかな成功体験に、再現性を求めてしまう生き物なのかも知れない。
知性とは、過去を悔やまず歴史に学び、明日を恐れず未来を想像しながらも、今をひたむきに生きる、ということなのかもね。
哲学や思想、知性がない企業は選ばれない時代になっていく。
今はどのような業種であっても、ただモノやサービスを売っているだけでは、人がそこに惹きつけられなくなっています。
特に注目を集めている人や企業は、魅力的な信念や哲学をもっています。
ただ、とってつけたような信念や思想は、わかる人にはすぐバレてしまうでしょう。
あるフィリピンで帽子をつくっている企業が、現地での雇用創出をアピールしているのを目にしたのですが、話を聞いてみると、お金がかからないからフィリピンに工場を構えているというのが、一番の理由でした。
結果的に雇用も生み出しているし、なにも文句のつけようがありませんが、個人的にはあまり魅力的な会社にはみえませんでした。
「安くできるから」が一番の理由だと、フィリピンでものづくりを行う「必要性」は感じませんし、作り手がフィリピン人である必要もありません。
安い価格で、帽子が作れればいいのです。
フィリピンでものづくりをすることに、信念や強い思い入れがあったら、その時目の前にあった帽子が、より一層良いものに見えたでしょう。
人それぞれ価値の感じ方は違いますが、信念や哲学をものづくりにこめることで、「ものの価値」を向上させることもできるのです。
どのようなものづくりであれば、自分たちは本当に誇りを持てるか
『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』のなかで、これからのものづりにおけるマーケティングのあり方について、参考になる記述がありました。
従来型のマーケディングについては、以下のような記述があります。
ビジネスはこれまで、人々のニーズや好みや購買行動に応じて顧客を分類する技術では、かなりの水準にまで発展してきた。今後は、顧客セグメントごとに自社製品とブランドを注意深く配置して、それらの魅力を高めていくだろう。
成熟した大量消費の市場では、企業は次から次に新しいニーズをつくりだし、人々の心の内に隠れている不安や虚栄心を巧みに操ることも多い。「これを買えば、自信がみなぎるように感じますよ」「これを買えばあなたも人気者」「これを買えば成功します」といった具合だ。
市場のニーズを読み、分析。製品コンセプトを打ち出し、消費者のニーズを生み出す。上記のマーケディング手法は、大学のマーケディングの授業で学べるようなことです。
本書は、新たなマーケディングのあり方について、以下のように言及しています。
マーケティングに対する進化型組織のアプローチは実に単純だ。正しい提案だと感じる内からの声に、耳を傾けるだけなのだ。顧客調査もフォーカス・グループもない。基本的に、マーケティングは次の一言に集約される。「これが私たちの提案です。今この瞬間に、これこそがおそらく、私たちにできるせいいっぱいのことです。お気に召していただけると良いのですが」。
一風変わったパラドックスだが、進化型組織は世界のノイズ(調査、フォーカスグループ、顧客分類)に合わせるのではなく、自分の内なる声に耳を傾けて世界のニーズに応えようとしているのだ。どのような製品であれば自分たちは本当に誇りを持てるか? どのような製品なら、世界の本当のニーズを満たせるだろう? 進化型組織の人々が、新製品を決めるときに考えるのは、こうした問いであり、分析よりも美と直感で導かれる思考プロセスだ。
世の中のニーズに応えるために、商品を生み出すという思考の過程ではなく、自分の自分の内なる声に耳を傾けて、世界のニーズに応えようとする。
理性や論理が第一ではなく、自分たちの感性や直感が重要視されるというのが非常に興味深いですね。
【参考文献】『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』