胡桃(オニグルミ)は、クルミ科クルミ属の落葉高木の総称で、日本列島に自生しているクルミの大半はオニグルミ(学名Juglans mandshurica var. sachalinensis)です。
樹皮は、暗灰色で縦に大きく割れ目が入ります。
4月〜6月にかけて若葉とともに花をつけ、その後に仮果(外皮)とよばれる実を付けます。
仮果(外皮)の中に核果が有り、その内側の種子(仁)を食用にする。
胡桃(オニグルミ)の青い仮果の皮や緑葉、樹皮などが染料に使用されます。
染色・草木染めにおける胡桃(オニグルミ)
日本において、胡桃は古くから染色に使用されていました。
一般的に、生の胡桃で染色する場合は、熟す前の青い実皮が一番濃く染まるとされ、熟して落下した実で染めると青い実に比べると赤味の強い色に染まります。
新鮮な果皮や葉を染料とし、絹や麻、苧を無媒染で紫褐色に染めることができます。
木灰の灰汁で媒染した胡桃は、やや赤みのある薄茶色になります。
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平安時代にまとめられた三代格式の一つである『延喜式』には、胡桃が染めに使われていたことがわかる記載があります。
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『延喜式』の「縫殿寮鷹飼条」には、「行幸供奉飼鷹胡桃衫料細布。」とあります。
また、『延喜式』の「弾正台」には、「凡囚獄司物部横刀緒色。胡桃染。帯刀資人黄。」とあります。
『蜻蛉日記』(954年〜974年の21年間のことが書かれている)、『源氏物語』(平安時代中期)や『枕草子』(平安時代中期)、『大鏡』(平安時代後期)などの歴史的資料には、胡桃色の紙という記載があり、平安時代の頃に胡桃色の紙が人々に知られていたと考えられます。
紙の製法が日本に伝えられたのは7世紀初頭とされ、紙の染色も古くから行われていました。
奈良時代(710年〜784年)には、装潢師という人々が、書物を書き写すために使う和紙の染色や紙継ぎなどを職業としており、黄檗によって黄色に染められて紙がもっとも多くみられています。
染紙を染めた材料については正倉院文書に記されており、胡桃紙も含まれています。
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胡桃(オニグルミ)の染色方法
胡桃の未熟果皮にはアルファ・ベータ・ハイドロユグロン、ユグロン(juglone)、タンニン(annin)、クエン酸、リンゴ酸などが含まれ、堅実皮にはペントサン、タンニン、種子には脂肪油40~50%が含まれ、その主成分はリノール酸のグリセリドからなります。
胡桃の葉を利用した染色方法の一例として、以下のような工程があります。
①胡桃の緑葉800gを8リットルの水に入れて熱し、沸騰してから20分間熱煎し、煎汁をとる。同じようにして3回目まで、煎汁をとって混ぜて染液とする
②染液を熱して糸を浸し、20分煮染したあと、染液が冷えるまで浸しておく
③糸をしっかり絞り、天日の元で乾燥させる
④染液を再び熱して糸を浸し、20分煮染したあと、染液が冷えるまで浸しておく
⑤糸をしっかり絞ってから、木灰の灰汁6リットルの中に30分浸してから、水洗いし、天日の元で乾燥させる
⑥さらに染め重ねる場合は、新しく胡桃の緑葉800gを同じように煮出して染液にし、濃くしていく
【参考文献】『月刊染織α1985年No.54』