木を燃やして作った木灰は、「もくばい」や「きばい」と読み、古代から人々の生活に活用されてきました。
目次
染色・草木染めに使用する木灰(もくばい・きばい)
木灰に水や熱湯を混ぜて作った灰汁は、染色・草木染めにおいて古くから欠かせないものでした。
木の種類によって、灰の中に含まれている水に溶ける(可溶)な成分に多少の違いがあるため、染色に適しているものが選ばれてきました。
椿灰(つばきばい)
椿の枝や葉を燃やして作った木灰である椿灰は、万葉の時代(629年から759年ごろ)から紫染に使用されていたとされます。
椿灰は山灰とも呼ばれ、椿灰からとった灰汁(あく)は、山灰汁とも言われました。
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椿の灰汁が、他の木の灰汁よりもアルミニウム分の含有量が多いという調査結果もあることから、何千年も前から染め屋が椿の灰を好んで使用したのは、主にアルミニウムの作用によるものと考えられます。
そのため、紫染や茜染の場合、ミョウバン(アルミニウム分)を添付すれば、椿の灰でなくとも効果的です。
紫染に用いる椿の灰や沢蓋木の灰、茜染には柃の灰など良く知られています。
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藁灰(わらばい)
木材の灰ではありませんが、藁の灰も古くから活用されてきました。
特に、絹糸の精錬(練り)には、樫のような広葉樹の灰汁ではアルカリが高すぎるので、古くから藁灰からとった灰汁が使用されていました。
藁灰で精錬した絹糸は、藍の染まり具合が良いとも言われます。
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藁灰の作り方の一例としては、金属製の釜に藁を入れて、燃え出したら次から次へと投入しながら勢いよく燃やし、炎が弱まり若干火が残っているような段階で水をかけて冷まします。
冷ますタイミングでは、藁がすでに燃えて黒くなっている状態です。
その後、藁の黒い灰が浸かるほどに熱湯を注ぎ込み、しっかりと混ぜた後に灰が沈澱した上澄液の灰汁を使用します。
藍建て用の灰汁と同様に、灰のカスや黒く浮いてくるアクはしっかりとすくって捨てておきます。
精錬自体は、藁灰の灰汁を沸騰させて絹糸を1時間半から2時間煮た後、火を止めて2〜3時間放置します。
灰を売る灰屋(はいや)
宮城県栗駒地方では、「灰じめ」と呼ばれた染色用の木灰を作る専門職がありました。
京都でも各家庭で使用する炭や練炭などからできる灰を集めて、その灰を精製したものを売る灰屋の仕事がありました。
灰には上灰と下灰があり、上灰は木灰で、下灰は練炭灰のことを指し、それぞれ用途も値段も違いました。
京都で唯一、昭和の終わり頃まで灰屋を営んでいた「田中慶蔵商店」において、商売をやめる頃の灰の用途は、「鳴門の灰わかめ」が主で、灰をまぶすときれいな緑色のわかめができたようです。
【参考文献】小泉武夫(著)『灰と日本人』