糸目糊とは、友禅染め(ゆうぜんぞめ)の一工程である「糸目糊置き」に使用する防染糊も言います。
友禅染めでは、青花液で下絵を描いた後に、筒描きによって模様(文様)を描き、ある色と他の色との境目を糊で線描きすることがあります。
色を挿すときに染料のにじみを防ぐために、青花で描いた下絵にそって、糸のように細い防染糊を置くのです。
この色と色の境目を防染する糊を「糸目糊」といい、糸目糊を使用して糸目糊置きが行われます。
糸目糊(いとめのり)とは?
糸目糊とは、「糸目」の作業に用いる糊で、基本的な材料としてはもち米(糯米)、米ぬか、食塩を煮出し、石灰水を加えた糯米糊(もち糊)が使用されてきました。
糊は、そのままの色だと糊を置くのに色が見えづらいことがあるので、顔料などの色素を混ぜて、色をつけることもよくあります。
糊を見やすくするために、蘇芳の煎汁を加えたものは「赤糸目」とも
言われていました。
昭和初期ごろから、ゴム糸目(ゴム糊)といって、生ゴム、ダンマルゴムを揮発油に溶かし、群青で着色したものを用いるようになりました。
このゴム糸目(ゴム糊)は、糯米糊(もち糊)よりも描きやすく、細い線でも確実に防染できるメリットがありましたが、糸目がはっきりしすぎ、深みがないと言われることもあったようです。
ただ、ゴム糊にの開発によって、糊置きのむずかしさが簡易化されたというメリットの方が、当時は大きかったのではないでしょうか。
糸目糊置き(いとめのりおき)
糸目糊による防染の技術が確立したことによって、多くの色を使って染め分けることが可能になったため、さまざまな模様を繊細に表せるようになったのです。
この糸目糊に囲まれた部分に、挿友禅といって色を塗り込んでいきます。
すなわち、糸目糊で防染することで、柄の内側を彩色していく挿友禅がしやすくなり、その輪郭が鮮明になるだけでなく、色も引き立つのです。
糸目糊によって、模様の形が決定づけられるとも言えます。
下絵に沿って描くだけではなく、下絵を修正しながら糸目糊を置くためには、絵の技術と経験が必要です。
「糸目糊」という字のごとく、糸のように細く、目立たないほど細く描くのが良いとされていました。
糸目糊を置くには、熟練の技術が必要とされていました。
防染糊(ぼうせんのり)作りの大切さ
糊を煮る具合や、材料を混ぜる分量などの調整には経験が必要で、それぞれの職人のくせや好み、型紙の種類や難しさ、天候などによっても防染糊(型糊)の作り方は変化していきます。
型染めに使用される糊作りにおいては、「一糊、二腕」といわれていたほど、糊の良し悪しが型付けの結果を左右するほどのものでした。
防染糊に石灰を加える理由としては、石灰は糊の粘度を高めて防染力を増し、糊の乾燥を早める効果があります。
石灰を加えていくと、糊が黄褐色に変化していくので、色の変化も確認しながら加えていきます。
糊置きしたものは、乾燥させてから染められますが、糊が乾燥する際にひび割れてしまい、その部分の強度が落ちたり、防染した部分が染まってしまうリスクがあります。
防染糊に食塩を加える理由としては、糊が割れにくくなる効果があります。
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