絵絣とは、絣糸によって絵模様(文様)を織り出した絣織の一種です。
鳥取県の出雲広瀬、弓ヶ浜、倉吉などの山陰地方で多く製造され、福岡県の久留米なども、絵絣の産地として知られていました。
「絵絣」という名前自体は、昭和7年(1932年)〜昭和10年(1935年)ごろに、柳宗悦を中心に集まった初期民芸運動の人々の間で生まれ、定着していったと考えられます。
目次
絵絣(えがすり)とは?

絵絣文様「滝縞手に鉢植」
木綿の絣は、主に農業や漁業に携わる人々の仕事着や日常着、布団地などの消耗品に使用されてきました。
「絵絣」と呼ばれる鶴や亀など柄が布の幅いっぱいに織り出された模様絣は、木綿で藍染され、手括りされた絣糸で、主に布団地用に織られてきました。
絵絣には、絣糸の滲みやズレ、藍の濃淡が醸しだす深々とした美しさがあり、さらに使われ、洗いざらされることによって色が冴え、味が出るとされていました。
庶民に実用され、やがては使い捨てられていく運命であったものが、民芸運動の創始者である柳宗悦によって世に紹介されました。
柳宗悦は、雑誌『工芸』(二十号昭和七年七月)にて、「ありふれたものにも美しさがある」ということをテーマに、大柄の布団地にみられる城や鶴亀、海老などの模様絣の美しさに目をとめ、取り上げました。
絵絣(えがすり)の起源

絵絣文様「滝縞に浦島文様」
久留米絣の技法を考案したとされる井上伝(1789年〜1869年)が特に力を注いだのが、「絵絣」を織ることで、鳥や花などの動植物やイメージした柄を絣で表現することでした。
関連記事:絣(かすり)とは?絣の歴史や久留米絣の技法、日本の庶民に愛された絣文様について
「絵絣」の完成まであと一歩のところで彼女の力になったのが、後に10代前半で「からくり師」として久留米で注目を集め、後に「からくり儀右衛門」との異名を持った発明家である田中久重(1799年~1881年幼名:田中儀右衛門)という人物の存在でした。

田中久重夫妻。, Public domain, via Wikimedia Commons,Link
伝の求めに応じて彼は編み出した技法は、絵絣用の種糸をつくることでした。
下絵を和紙に描き、それを緯糸に写すことで種糸ができます。
あとは写した部分に合わせて糸を括ってから染色し、解いた糸を織れば下絵通りに織り上がる仕組みになっています。
彼の協力を得て絵絣を完成させた伝は、その後も新しい柄の創出と後継者の育成に生涯を捧げていきました。
その後、1839年(天保10年)頃に、大塚太蔵(1806年〜1843年)によって、現代にも残っている絵糸台を用いた伝統的な絵絣の技法が発明されました。
絵絣の模様(文様)

絵絣文様「やたら縞に茶湯道具」
本来、表現される模様(文様)は写実的な絵とは異なり、ものそのものを簡素化(シンプルに)し、そのものの大切な要点を取り出して表現されたものであるとも言えますが、そのように考えると、絵絣の模様も不要な部分が取り除かれ、最も大事なところが表現されているとも言えます。
絵絣の模様には、さまざまな柄が表現され、その題材は数百にも及んだとされます。
絵絣で表現された主要なテーマを分類にしてみると、以下のようにも分けることができます。
- 祝儀文様
- 物語文様(古伝説、神話など)
- ことわざ文様(例えば「瓢箪から駒」ということわざを文様で表現する)※「瓢箪から駒」は、思いがけないところから意外な利益や幸運が得られることを表す言葉
- 器具文様(茶湯道具など)
- 祭具文様(神様への捧げ物である御幣など)
- 名勝景物文様(四季折々の自然の風物や俳句風景など)
- 吉祥文(縁起が良いとされる七福神の恵比寿や大黒天、松竹梅や鶴亀、伝説的な動植物や昆虫など)
- 自然の動植物や昆虫(大根のような野菜やネズミなどの動物)
上記のテーマが主要なもので、それ以外にも「おもちゃ」や「食べ物」、「文字」などさまざまでした。
絵絣の具体的表現と幾何学文(縦緯絣や縞柄、格子柄など)とが組み合わされる場合も多く、その対比効果が好まれました。
例えば、鶴と十文模様を組み合わせたものなどです。

絵絣文様「二筋格子に十字豆腐と鶴之丸」
絵絣の模様を型染めで表現する技法

絣柄に彫られた伊勢型紙,絣型染(かすりかたぞめ)
絣模様を表現するためには、絣糸の染色から織り上げまでに非常に手間と時間がかかります。
そのため、織りで模様を表現するのではなく、絣形に彫られた型紙を使用した型染めで表現する技法が考えられました。
江戸時代後期に生まれたとされる型染技法で、特に仙台で発達していった藍染の絣形を「常磐紺形染」と呼びます。
常磐紺形染の特徴としては、なんといっても絣柄を型染めで表現した点にあり、典型的な絣型をはじめ、絵絣で表現するような花や蝶などの動植物を描いた模様(文様)なども作られました。
大量生産が可能な型染めで絣の織物を再現することで、手間と労力を大きく抑えることができました。
型染めで絣模様(文様)を表現する絣型染には、経糸に白綿糸を用い、緯糸に淡い藍の綿糸を使用して平織りされた生地が多く用いられ、その上に絣形を置いて染めると、絣織物に似た絣模様(文様)が出来上がります。
一般的な絣織物よりも模様がきれいに仕上がるため、高級品として扱われていたようです。
関連記事:型染めで絣模様を表現する絣型染(かすりかたぞめ)・常磐紺形染(ときわこんがたぞめ)。絣形に彫られた型紙を使用した型染め技法について
【参考文献】
- 『絵絣集』染織文化研究会(編) 京都書院(発行)
- 高田倭男(著)『服装の歴史』