江戸時代後期に「江戸鼠」や「当世鼠」という名前で、茶色味のある鼠色が染色されていたことが知られています。
江戸時代後期の染色指南書や染見本帳には、「鼠(ねずみ)」を冠する多数の色名とその染法が記載されています。
嘉永6年(1853年)刊の『染物早指南』には鼠色系統の複数の染法が掲載されており、江戸時代後期にのさまざまな鼠色が染められていたことがわかります。
染色における江戸鼠(えどねず)
『当世染物鏡』には、「ねずみすゝ竹」「茶ねづミ」として茶色味のある鼠色の染め方が記載されています。
「ねずみすゝ竹 下染もゝかわしる(楊梅皮)なるほどうすくして染。水大ぶんのうちかねくろミ(お歯黒)少し入染。よくすゝき ほしあげテよし。又がう(豆汁)二ていたし申ときハにいし少二すみくわへ。二へんひきてよし」
上記のような楊梅、そのほか梅や刈安などを用いて、おはぐろの鉄分で媒染して、染色されていた茶色味のある鼠色が、「江戸鼠」や「当世鼠」などとも呼ばれていたと考えられます。
「梅鼠」と呼ばれる色合いも、上記のような染め方で染められ、江戸時代に流行していたとされます。
江戸鼠(えどねず)の染色方法
江戸鼠の染色方法の一例としては、以下のような流れがあります。
①梅の幹材を刻んだもの500gを21リットルの水に入れて煎じ、沸騰してから20分ほど熱煎して、染め液をとる
②染め液が80度になったら、精錬して水に浸しておいた絹糸1kgを15分ほど煮染して、染め液が冷えるまで置いておく
③木酢酸鉄10ccを入れた15リットルの水に染めた糸を浸して30分ほど媒染する
④染め液を再び熱して媒染した染め糸を浸し、20分ほど煮染して水洗いする
⑤色合いによっては中干ししてから、さらに20分ほど煮染する
⑥最後にph11ほどの灰汁に糸を浸して20分ほどおいて媒染し、水洗いしてから天日の元で乾かす
【参考文献】『月刊染織α1989年8月No.101』