染色における顔料と染料の違いと特徴。顔料を意味する言葉の歴史について


顔料(pigment)と染料(dye)という言葉がありますが、その意味の違いや特徴はどのようなものでしょうか。

染色における顔料と染料の違い

現代における染料と顔料の違いと、言葉を使い分ける基準はどのようになっているのか。

上村六郎氏の『東方染色文化研究』では、染料と顔料について以下のように書いてあります。

染料とは一般に布帛ふはくに染著(染着)する性質を有するものを指し、顔料とは布帛ふはくに染著(染着)しない性質のもとを指している。従って別な云い方をすれば、染料とは色染に使用するものであり、顔料とは(絵)又は彫刻其他そのほかのものの彩色に使用するものである。

上記では、染料は織物などを染めるものであり、顔料は絵や彫刻などに色付けするものと言っています。

上村六郎氏の説明から読み取れることは、染料、顔料という呼び名は、その使い方と性質によって区別できるということがわかります。

染料と顔料の性質の違いとしては、物質を溶かすのに用いる水やアルコールなどの液体(溶剤)に溶ける色を染料、溶けないものを顔料として区別できます。

分子で染めるのが染料での染色で、粒子で染めるのが顔料による染色というイメージをするとわかりやすいです。

顔料と染料の違いを理解することが生活に役立つ

染色をする際は、顔料と染料の特徴を踏まえたうえで、用途によってうまく使い分けることが必要です。

染められたものを消費する側に立ったときでも、それぞれの特徴や違いを理解しておくことが大切なのです。

例えば、顔料をつかって染色された衣類などは、ムラになりやすかったり色落ちしやすいので、扱い方をきちんと認識しておくことで、そもそも色落ちを楽しめたり、色が落ちても変にがっかりしなくて済みます。

顔料と染料の違いというのは、なんとなくわかっているようだけれど、改めてしっかりと理解していると生活に役に立つことがあるのです。

顔料と染料の特徴

顔料と染料は、染め方や染まり方が違うため、それぞれ違った特徴や性質を持ちます。

顔料

顔料はそれ単体では、繊維と結びつくことができないので、(素材の表面にくっつくことができない)樹脂やタンパク質、オイルなどで固着させます。

昔から友禅染では、大豆をすりつぶして水を加えた呉汁ごじるをつかって、色止めをしたりしています。

その他、顔料の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 太陽光やライトの光によって色落ちしにくい(日光堅牢度が高い)
  • こすったりすると色落ちしやすい(摩擦堅牢度が低い)
  • 顔料が細かい粒状になっているため、染めた布が重くなる
  • 色を混ぜるとムラになりやすい

顔料は、無機顔料や有機顔料に区別することができます。

無機顔料は、鉱物顔料とも言われており、日本においては化粧の原点とも言われる赤化粧には、酸化鉄を含む天然の鉱物が使用されていました。

無機顔料は、現代では化学的に合成されたもので、安全性高く、多くの生活日用品に使用されています。

有機顔料は、石油などから合成した顔料です。

染料

染料はそれ単体で、科学的に繊維と結びつくことができます。

染料の特徴としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 太陽光やライトの光によって色落ちしやすい(日光堅牢度が低い)
  • 顔料に比べると、こすったりしても色落ちしやすい(摩擦堅牢度が高い)
  • 色を混ぜてもムラになりにくい

顔料を意味する言葉と歴史

顔料という言葉は一般的に定着していますが、実は、何度も変化を繰り返しながら今のようになっていった歴史があります。

日本において、顔料という言葉を意味する古い表現として、「彩色」「彩色物」「彩色料」などが挙げられます。『日本書紀』 では、「彩色しみのもののいろ」という言葉が出てきます。

顔料という言葉のルーツは中国にあるとされますが、中国は支那の古い名称では、丹青たんせい、または青黄といったものがあります。

938年頃、平安時代中期に作られた辞書である倭名類聚抄わみょうるいじゅしょうでは、染料は「染色具」と呼ばれ、顔料のことは「圖繪具ずえぐ」と呼ばれていました。

鶴田榮一氏の「顔料を意味するいろいろの用語とその変遷」には、顔料という言葉を巡る歴史がわかりやすくまとめられています。

下記の図は、「顔料を意味するいろいろの用語とその変遷」からの引用です。

彩色に始まり、丹青、丹、色料、彩色、絵具などと顔料を表す言葉がさまざま存在していたことがわかります。

顔料を意味する用語は、「エノグ」と訓読されていましたが、その一覧が「顔料を意味するいろいろの用語とその変遷」にはあります。

江戸時代には漢字表示の用語として、「顔料」と書かれたものがありましたが、それも「ガンリョウ」ではなく、「エノグ」 と訓読されていたようです。

明治時代になり、近代化された顔料を製造する企業が出てきますが、江戸時代と同じように顔料は「絵具」であり、顔料ガンリョウへの移行は進みませんでした。

その後、明治40年(1907年)に政府公式の文章で初めて今日と同じ顔料ガンリョウという用語が使われるようになりました。

【参考文献】「顔料を意味するいろいろの用語とその変遷


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