ウールやシルクなどの動物性の繊維であれば、比較的容易に染められますが、木綿を草木染めする場合は非常に難しいです。
草木を煮出して染め液を抽出しない藍染であれば、木綿との相性が良いのでよく染まりますが、これはいわゆる草木染めという括りのなかでは特殊な例となっています。
一般的な草木染めは植物性の繊維に染まりが悪いので、木綿や麻などの植物性の繊維を染めるためには特殊な下処理が必要です。
現在では、濃染剤(カチオン化剤という界面活性剤の一種)を購入して下処理をすれば、簡単に染められることができますが、古くはこのようなものはなかったので、人々は工夫して染めていました。
SEIWAが出している濃染剤であるディスポンの使い方は、以下の通りです。
【使い方】
- 80~90℃の熱湯を用意します。熱湯1ℓにディスポンを3~4㎖入れます。
- 布や糸を広げて入れ15~20分間よく動かします。
- 取り出して水洗してから染色します。※型染は、型糊の硬さを水で調整してからディスポンを2%加えて型置きします。乾燥後30分間蒸しよく水洗してから染色すると、型模様が濃く染まります。※沈殿が生じる場合は、上澄みをご使用ください。
タンパク質、タンニンで繊維に下地をつける
綿や麻に草木染めする場合には、タンニンやタンパク質、油分などで下地をつくることが大事になってきます。
例えば、インドでは牛乳やヤギの乳に、ザクロやミロバランの木の実を煮つめた液を混ぜて使用していました。

Black Myrobalan,Rumi Borah~aswiki, CC BY-SA 4.0 , via Wikimedia Commons,Link
ミロバラン(myrobalan)は、シクンシ科で10m〜20m程の高さになる落葉樹で、インド木綿更紗の下地染めにその木の実が使われてきました。
タンニンを含んでいるため、金属イオンが付きやすくなるので、木綿や麻などの植物繊維も染まるようになります。ミロバランの液に浸してから、しっかりと絞り、天日の元でしっかりと乾燥させた後に、染色していきます。
ザクロも同様に、タンニンが含まれています。
ミロバランのタンニンと牛乳のタンパク質という色を定着させやすい要素を一緒にプラスすることで、色が染まる下地をつくっていたのです。
媒染には、ミョウバンに炭酸ソーダを10%ほど混ぜたアルカリ性のミョウバンを使用したりしました。
日本では、大豆を水ですり潰した液体である呉汁が、草木染めをする繊維の下地としてよく用いられていました。
例えば、ハンカチを染める場合ですと、呉汁に浸けてから天日で乾燥させる工程を数回繰り返してから、染めるといったような流れです。
乾きが不十分であったり、絞り具合が不均一であったり、乾燥させる際に均一に乾かさないと、染めムラが出る可能性がありますので、注意が必要です。
また、タンニンを含む五倍子で下染してから、染色する場合もあります。ただ、五倍子で下染めの場合は、いくらか茶色がかった色が地に染まります。
タンニンをもともと含む染料であれば、木綿の素材でも比較的染まる場合もあります。
素材によって、染色条件の良いものがある
多くのタンニンを含むものは、植物繊維であっても、染めやすい条件があるともいえます。
例えば、芭蕉(バナナ)の繊維は、タンニンをよく含む植物としても知られています。
参考文献:岡村吉右衛門著『世界の染物』