アイルランド西部のゴールウエー湾の沖で大西洋の荒波にもまれる「アラン諸島(Aran Islands)」は、編み物の歴史上、重要な役割を果たしてきました。
アラン諸島で作られるセーターは、「アランセーター(Aran sweater)」呼ばれ、アイルランドで作られていることもあり「アイリッシュセーター(Irish sweater)」とも呼ばれたりもします。
各港にはそれぞれ独自の伝統的なフィッシャーマンズ・セーター(漁師が着用したセーター)があり、縄柄、ダイアモンド柄、ジグザグなど、凹凸のある大胆な模様を編み方が表現されていました。
アランセーター(アイリッシュセーター)とは?
アラン諸島は、イニシュモア島(大島)、イニシュマン島(中島)、イニシュア(小島)の3つの島から成り立っています。
合計面積は約47平方kmで、いずれも石灰岩からなる不毛の土地柄であったため、アラン諸島の人々は漁業をしたり、浜辺に打ち上げられた海草と砂を混ぜて耕作するための耕土を作り、農牧をしていました。
アランセーターは、6世紀ごろに修道士によって最初に作られたという伝説がありますが、その頃はシンプルな編み方で細々と作られていた程度であったとされます。
現在の複雑な編み方を組み合わせた高度な模様のものは、産業としての「村おこし」として20世紀の初めごろに改めてデザインなどに工夫を凝らして確立したものです。
これはイギリスにおけるニット製品の先駆地であったイギリス海峡のフランス寄りに位置するチャネル諸島のガーンジー島・ジャージー島の「ガーンジーセーター」、あるいはスコットランドのシェットランド諸島の「フェアアイルセーター」などの技法を取り入れたものでした。
縄編みなどの分厚く膨らんだ模様のものが多いのは、編み手の工賃が製品の重量によって決められることが多く、編み手がより複雑な編み方を多用しためとも言われます。
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アランセーター(アイリッシュセーター)の特徴
セーターは漁師の仕事着にも着用されたため、糸は防水や防風対策のために、羊毛(ウール)に含まれる脂分を残した原毛が使われたり、糸が強く撚られたりしました。
染色しておらず、「脂抜き(あぶらぬき)」をしていない太い毛糸は、防水効果が高く、分厚いので保温性に富んでいたのです。
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また、編み目をできる限り詰めて密度高く編まれていることから「シーメンズ・アイアン(船乗りの鎖)」と呼ばれてもいました。
各地で作られていた漁師たちのセーターは、模様や柄もさることならが、機能性もしっかり考えられて作られていたのです。
アラン編みの編み柄には、海での安全や豊漁を願う綱や縄(ケーブル)や、漁に使う網を広げたような柄(ハニカム)、大漁を願うモチーフなどが柄となり、それぞれの柄に名前が付けられ、意味がありました。
柄によって、その漁師がどこから来たのかがわかったとも言われます。
ケーブルステッチ(cable stitch)
ケーブルステッチ(cable stitch)は、アランセーター(フィッシャーマンズ・セーター)の編み柄として多く使用され、太いロープ(綱)撚りあわせたような編み柄です。
日本では、「縄編み(なわあみ)」と呼ばれ、平編の地組織にある間隔を取って編み目を隣の編み目と交互に入れ替える「目移し(transferring stitch)」を応用したもので、ねじれた棒状の縦縞になります。