日本の色名に、ヤマブドウの実が熟したような赤紫色のことを表す、葡萄色があります。
葡萄は、甲殻類の海老ではなく、果物のブドウのことです。
紫色を染める植物といえば、紫草が知られますが、今回は蝦蔓(えびかずら)を使用した、葡萄色について紹介していきます。
染色・草木染めにおける葡萄染(えびぞめ)
蝦蔓(学名Vitis ficifolia)は、ブドウ科ブドウ属でつる性の落葉低木です。
蝦蔓は、山野に多く生育し、若くて細い蔓には細毛があり、夏ごろ(6月〜8月)になると、淡黄緑色の小さな花が密集して咲きます
実は熟すと黒くなっていき、食べられます。
古くは、ヤマブドウ(学名Vitis coignetiae)も葡萄蔓とも呼ばれていました。
葡萄蔓やヤマブドウは、非常によく似ていますが、葉っぱの形で判別できます。
平安時代になり、王朝文学に多数出てくる葡萄染は、『延喜式』(927年)に記されているように紫草の根のよる染色であると考えられます。
『延喜式』の縫殿寮雑染用度条には、「葡萄綾一疋。紫草三斤。酢一合。灰四升。薪四十斤。帛一疋。紫草一斤。酢一合。灰二升。薪廿斤。」とあります。
ただ、日本の色名には染める材料がその色名になっている場合が非常に多く、ブドウ科ブドウ属の葡萄蔓(蝦蔓)で染めたものが葡萄ではないかという説もあります。
葡萄蔓(蝦蔓)の古名が、葡萄(えび)であり葡萄蔓でもあることから、葡萄蔓(蝦蔓)で染めたものが、葡萄ではないかという理屈です。
葡萄蔓(えびづる)を利用した染色方法
7世紀後半から8世紀後半(奈良時代末期)にかけてに成立したとされる日本に現存する最古の和歌集である『万葉集』には、4,500首以上歌が集められていますが、今から1350年前から1250年ぐらいの飛鳥時代から奈良時代の間に作られています。
この100年くらいの間を、「万葉の時代」と言うことがあります。
万葉の時代の葡萄蔓(蝦蔓)による葡萄染は、無媒染であったと考えられます。
何回か染め重ねて濃く染まったとしても、濃い目の薄紫色で、紫色の色合いとしても青味のあるものだったと思われます。
以下、葡萄蔓を利用した染色方法の流れの一例です。
①染色する対象物に対して同量の、熟した葡萄蔓の実を水に入れて、火にかけて熱し、沸騰してから20分間熱煎して、煎汁をとる
②煎汁が熱いうちに、染色する対象物(布や糸など)を浸し、染め液が冷えるまで置く
③最初に煮出した葡萄蔓の実からさらに、2番、3番の煎汁をとり、布や糸を浸してある染め液に追加する
④染め液が冷えたら再び火にかけ、沸騰してから10分間煮染したあと、染液が冷えるまでおく
⑤そのまま水洗いして仕上げると薄紫色になる。水洗いする前に、灰汁に浸してから仕上げた場合は、いくぶんか青味のある薄紫色になる
【参考文献】『月刊染織α1985年7月No.52』