黄八丈(きはちじょう)

黄八丈(きはちじょう)とは?八丈島の絹織物である黄八丈の歴史と染色技法について


黄八丈きはちじょうとは、主に草木染めで染められた黄色・樺色かばいろ・黒色の三色の糸を使って、さまざまな縞模様を織り出す絹織物のことです。

黄八丈きはちじょうは、広い意味で茶系統の鳶八丈とびはちじょうや黒系統の黒八丈くろはちじょうを含めた、八丈島で生産されたつむぎを総称しています。

全体的に渋く、味わいのある色合いであるため、絹織物らしい光沢感は抑えられます。

染色の工程で、乾燥のために長い日数を八丈島の強い直射日光にさらすため、堅牢度けんろうどが良く変色したり退色しづらい特徴があります。

黄八丈きはちじょうは、たくさん使われ、洗われることで、年を経るにつれて、より一層色合いが冴えてくるともいわれたりします。

黄八丈(きはちじょう)の歴史

八丈島では絹織物がいつごろか織り始められたのか、確かなことはわかっていません。

しかし、温暖な八丈島では、古くからくわの木が自生していたようで、養蚕ようさんが盛んに行われ、良質な絹糸がとれていたようです。

江戸時代の国学者である本居宣長もとおりのりながの著書『玉勝間たまかつま』には、「八丈という島の名、かの絹の八丈より出づるらむかし」と記載されているように、八丈島の名前の由来が「八丈の絹」にちなんで名付けられているようです。

文献によると、室町時代(15世紀末)には絹織物が上納されており、当時は八丈絹のことを「合糸織あわせおり」や「丹後島たんごじま」と呼んでいて、特に献上品には「黄紬きつむぎ」と記されています。

この黄紬きつむぎ黒八丈くろはちじょうであったかどうかは別として、黒八丈くろはちじょうの原型であったと考えられます。

黒八丈くろはちじょうは、初期は無地織か、簡単な縞柄であったものが、江戸時代になると、幕府の監視が厳しくなり、品質や趣向は向上しましたが、着用できたのは武士階級の人々だけでした。

しかし、江戸時代末期になると、一般の庶民も着ることができ、広く人々に愛用されました。

明治時代以降は、一般女性のぜいたくな普段着として、憧れの対象となっていました。

黄八丈を構成する3種の色糸と染色技法

黄染(きぞめ)

黄色を染める染料として、苅安かりやすやこぶなぐさを用います。

苅安(かりやす)

苅安かりやす(刈安)は、イネ科に属する一年草で、秋口に穂の出かかったころをみて刈り取り、夜露に当てないようにして乾燥し、貯蔵して使用します。

刈り取りの時期が早すぎると青味がかった黄色になり、遅れると赤味がかった黄色になります。

乾燥させた苅安かりやすを鉄鍋に入れて約9時間ほどにて煎汁をとり、「ふし」と呼ばれる染液となります。

糸を染液に浸し、一夜そのままとし、翌日天日で乾かすという流れを何日も繰り返し、最後に椿つばきさかきの葉の灰から作った灰汁あくに浸して発色(媒染)させます。

関連記事:染色・草木染めにおける刈安(かりやす)

こぶなぐさ

こぶなぐさは、大きく束ねて釜の中に入れ、浮き上げらないように抑えながら、煎じます。

火加減は、はじめは強火で、煮立った段階で少しずつ火力を落としていきます。

抽出した煎汁を、染めるためのおけに入れて、糸を浸けて絞って天日で乾燥させてを繰り返して濃くしていきます。

染めを繰り返していくと、黄土色になります。

仕上げに木灰の上澄み液である灰汁あくに浸け、しばらく放置してから絞って乾燥させると、山吹色やまぶきいろに変わっていきます。

灰汁につけるのは、一回限りでつけ直しはしないため、黄染めの出来の良し悪しは、一回の灰汁付けで決まるとも言われていたようです。

灰汁に使用する灰は、椿灰つばきばい4割、さかき6割の割合で、生葉を小枝のまま切り混ぜながら、積み上げて燃やして作ります。

良い灰汁は、舐めると甘苦いともいわれます。

関連記事:染色・草木染めにおける灰汁(あく)の効用と作り方。木灰から生まれる灰汁の成分は何か?

樺染(かばぞめ)

樺染かばぞめは、「たぶのき」や「まだみ」の生皮を使用します。

たぶのきは、くすのき科で高さ15mほどに達します。

たぶのきの皮を剥いで、しばらく置いておくと樹液が酸化して色が変わってきます。

この時に赤くなるものを「くろた」といい、赤くならないものを「しろた」と言います。

染料としては、赤くなる「くろた」がよく、樹齢は30年以上ものとされます。

染料に用いる樹皮は、むきたてのものがよく、日が経つと色が悪くなってきます。

たぶの木(マダミ)の染め方

黄八丈の茶色系統は、たぶ(椨)の木(マダミ/マタミ)の生皮なまかわ煎汁せんじゅうで染められていました。

たぶ(椨)の木は、別名で「犬樟いぬぐす」とも言われていました。

樹皮を細かく削って、朝から夕方まで沸騰させて煎じ出します。

この煎汁の中へ、煎じたたぶの木の樹皮を乾燥させて、焼いた灰を入れて混ぜると泡立って赤く発色します。

しばらくすると液面に薄い膜が張りますが、これは糸にくっつくとムラになる可能性があるので、取り除きます。

染液に入れる灰の量が大事なポイントで、少なければ赤みが足りず黒味がかり、多すぎると発色が悪いといわれています。

染める際は、糸を完成した染め液に十分に浸し、しっかり絞って天日のもとで乾燥させます。

乾燥できたら、たぶの木(マダミ)を煮出した皮を焼いた灰などを使用して作った灰汁あくに浸して媒染し、これを何度も繰り返して濃くしていきます。

染めあがりの色は、八丈島に自生するヤマモモの実の熟した色が理想とされ、その色を目指して何度も染め重ねられるのです。

黒染(くろぞめ)

黄八丈の黒染めは、しいの乾燥した樹皮の煎汁せんじゅうで数回浸染を繰り返し、鉄分の多い泥の中につけて媒染していきます。

これを何度も繰り返して、濃くしていくのです。

黒染めは、樹齢30年以上のしいの樹皮を剥がして、雨や湿気を避けながら乾燥し、3年ほど保管したものを染料として使用します。

生皮や乾燥が悪いもの、樹齢の若い木の皮は、いい色を出せないとされています。

樹皮を30〜40cmほどにカットし、釜の中に6〜7時間沸騰させて煎じます。

煎汁に糸をつけて、絞って天日の元で乾燥を繰り返して濃くした後、鉄分の多い泥土で染め(媒染)を繰り返して希望の色に染めていきます。

関連記事:染色・草木染めにおける椎(しい)

【参考文献】

  1. 荒木健也(著)『日本の染織品 歴史から技法まで』
  2. 『月刊染織α 1983年No.31』

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