刈安(学名Miscanthus tinctorius )は イネ科ススキ属の多年草で、古代から現在まで長い間、黄色を染める染料植物として使用されてきました。
花穂が出はじめたタイミングが、刈り取りに適した時期で、刈り取ったあとはしっかりと乾燥して保存しておきます。
染色・草木染めにおける刈安(かりやす)
平安時代にまとめられた三代格式の一つである『延喜式』によると、深黄や浅黄を苅安で染めていました。
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『延喜式』の縫殿寮雑染用度条には、以下のように刈安の記述があります。
「深黄綾一疋。綿紬。絹紬。東絁亦同。苅安草大五斤。灰一斗五升。薪六十斤。帛一疋。苅安草大三斤。灰八升。薪卅斤。糸一絢。苅安草大一斤。灰三斗。薪廿斤。深黄綾一疋。綿紬。絹紬。東絁亦同。苅安草大三斤八両。灰一斗二升。薪卅斤。帛一疋。苅安草大二斤。絲一絢。苅安草大十一両。灰二升。薪廿斤。」
灰味のあるくすんだ黄緑色である青白橡は、紫草とともに苅安草が使用され、深緑を表現するために、藍と刈安の重ね染めが行われていました。
近江刈安(おうみかりやす)と八丈刈安(はちじょうかりやす)
刈安と称する染草は大きく二つに分けられ、一つは黄八丈などを染めるために使用された八丈刈安で「こぶなぐさ」とも言います。
近江刈安は、近江(滋賀県)がその主産地で、八丈刈安が野苅安と言われたのに対して、近江刈安は山刈安とも言われました。
刈安の染色方法
木灰の灰汁で媒染した、刈安の染色方法は、以下のような流れになります。
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①刈安の茎葉500gを10リットルの水に入れて熱し、20分間熱煎して煎汁をとる。同じようにもう一度、煎汁をとり、一緒に混ぜて染液にする
②染液を熱して1kgの絹糸を浸し、20分煮染したあと、染液が冷えるまで置く
③糸をしっかり絞り、天日の元で乾燥させる
④染液を再び熱して、乾かした染め糸を浸し、20分間煮染したあと、染液が冷えるまでおいておき、その後天日の元で乾燥させる
⑤2回煎汁をとった刈安からあと2回(3番、4番)、煎汁をとって染液にする
⑥3番目、4番目にとった煎汁を混ぜて染液とし、熱してから糸を浸し、20分煮染したあと、染液が冷えるまで浸しておく
⑦糸をしっかり絞ってから、木灰の灰汁6リットルの中に30分浸してから、水洗いし、天日の元で乾燥させる
【参考文献】『月刊染織α1985年No.54』