稲葉通龍(1736年〜1786年)が江戸時代後期の天明5年(1785年)に『増補華布便覧』を補正し、更紗についてまとめた本である『更紗図譜』を刊行します。
更紗とは、室町時代末期以降(16世紀以降)、ポルトガルやオランダ、イギリスなどのいわゆる南蛮船が運んできた、インドやペルシャ、シャム(タイ)・ジャワ(インドネシア)などの東南アジアの模様染めされた布を指して呼ばれたものです。
江戸時代中期以降に、日本でも更紗を模して、京更紗や江戸更紗、鍋島更紗や天草更紗、長崎更紗や堺更紗など、それぞれの土地でそれぞれの更紗(和更紗)が作られました。
稲葉通龍は、大阪の心斎橋に住み、「芝翠館」という屋号で刀剣や書籍などの商売を行なっており、更紗の蒐集家(コレクター)でもありました。
江戸時代に出版された更紗についてまとめた本『更紗図譜』(さらさずふ)

インド更紗
『更紗図譜』は、原本となった『増補華布便覧』とは内容の違いや誤りもあります。
版本は現存し、明治時代や大正時代にもしばしば刊行されました。
『新渡更紗雛形』という本のように、タイトルだけが改題された同一内容の本も発行されたようです。
『更紗図譜』の内容
『更紗図譜』の内容は、目録1枚、本文と更紗の図を合わせて42枚、付言3枚が一冊となっています。
目録には、以下のような記述があります。
一、更紗を描下地拵様の事
一、更紗描法心得の事
一、更紗を早く描上る法の事
一、古色付様の事
一、生臙脂ときやうの事
一、藍蠟ときやうの事
一、雌黄ときやうの事
一、草の汁合せやうの事
一、紫合せやうの事
一、茶色こしらへやうの事
一、紺こしらへやうの事
一、黒合せやうの事
一、繪具留様の事
日本における更紗に関する本で最も古い『佐羅紗便覧』(さらさびんらん)

更紗
江戸時代中期ごろに戯作者や狂歌師として活動したとされる蓬莱山人帰橋という人物によって、『佐羅紗便覧』が安永7年(1778年)に刊行されます。
『佐羅紗便覧』は、日本での更紗に関する最も古い著書とされます。
安永10年(1781年)、華布師であった久須美孫左エ門という人物によって、『佐羅紗便覧』に不足した図を加えて、『増補華布便覧』が刊行されます。
目録には、以下のような内容が記述されています。
一、更紗の圖
一、書更紗下地仕様の事
一、生臙脂ときよふの事
一、藍蠟ときよふの事
一、雌黄ときよふの事
一、黒地の事
一、白く染ぬきよふの事
一、吹繪仕様の事
一、金更紗の事
一、更紗書様の事
一、仕上洗ひよふにの事
一、古美付よふの事
一、急書様の事