1本の糸をつくるためには、1本から複数の糸をねじりあわせることで撚りをかける作業が必要です。
「撚り」とは、糸をねじり合わせることを意味し「撚糸」という言葉は、「撚りをかけた糸」を表します。
糸を撚ることで、丈夫な1本の糸をつくることができるのです。
糸の撚りについて考えるのは非常に重要で、なぜなら糸の撚り方によって、糸の強度、肌ざわりや風合いに大きく影響するためです。
糸の撚りの強さは品質にどのように影響するか?
撚りの方向は、基本的に左撚り(Z撚り)と撚り(S撚り)、一本の糸のみでつくられた単糸は、基本的にZ撚りです。
糸の撚りは、糸の強度、伸長性(伸びること)、硬さ、摩擦係数、冷たさ、暖かさなど各種の物理的性質や、糸の太さや光沢などの外見的性質を決定する大きな要因の一つです。
つまり、糸の撚りは糸の性質と性能に影響を与え、ひいては織物の性質と性能を作る重要な要素となるのです。
目次
糸の強度と撚りの関係性
糸に撚りをかけることによって、強度が高くなります。
撚りをかけることで、繊維がそれぞれ摩擦抵抗し(繊維間の摩擦が大きい)、糸としての強度ができるのです。
ただ、撚りをかければかけるほど良いというわけでもなく、綿糸の場合は撚りの係数が4.0から5.0ぐらいまでが最大の強度で、それ以上撚りをかけると、逆に強度が低くなります。
一般家庭で使われるような標準的な糸は、そのもととなる糸(原糸)に適した撚りがかけられています。
撚りの強さによって、「甘撚り」、「普通撚り」、「強撚」などと区別しています。
普通撚りは、普通の織物用の糸として使われますが、甘撚りと強撚の特徴は以下のとおりです。
甘撚り糸(あまよりいと)の特徴
気温が低い秋から冬にかけては、やわらかくて暖かい甘撚りの糸が求められます。
糸の撚りが甘い甘撚り糸としては、以下のような特徴が挙げられます。
- 手触りや風合いがやわらかくあたたかさを感じる
- 手編みの糸として適している
- 強撚糸と比べて強度が低い
撚った糸と糸の間に空気がはいる隙間があるので、その隙間が空いているほどフワフワ感は感じられます。
甘撚りは、毛糸をイメージしていただけると、わかりやすいでしょう。
ニットの糸やタオルの糸などは、甘撚りが多いです。
強撚糸(きょうねんし)の特徴
暖かい春から湿気の多い夏にはさらっとした撚りの強い糸(強撚糸)で作った衣類が好まれます。
糸の撚りが強い強撚糸としては、以下のような特徴が挙げられます。
- 手触りが固くなりシャリ感を感じる
- 水気を吸収しやすく、早く乾きやすい
- 撚りが強いほど、染色の発色が濃く見える
- 甘撚り糸と比べると強度が高い
ニットは甘撚りの糸を使うことが多いですが、夏場のカットソーなどは、強撚糸を使用することで、清涼感にすぐれ、汗ばむ夏場に適した衣類となります。
強撚糸は、クレープ生地用の緯糸や、ボイル生地用の糸にもよく使われます。
ジョーゼットと呼ばれる生地がありますが、緯糸と緯糸のどちらにも強撚糸を使用して平織りし、仕上げに生地を縮ませてシボ感を出した「縮緬」織物の一種です。
ジョーゼットは薄い生地なので、春夏用の衣類に主に使用されます。
和装において、代表的な生地の一つである縮緬は、経糸撚っていない生糸(絹糸)を使用し、緯糸に強撚の生糸を用いることで、生地の表面に特徴的なシボ(凸凹)を表現しています。
天然撚り(てんねんより)とは?
繊維を撚ることで、糸をつくっていきますが、そもそも繊維自体にも天然の撚りがあります。
例えば、綿繊維ですと、繊維の太さや長さは品種によって異なりますが、顕微鏡で観察してみると凹凸が少なく、ひらべったいリボンのような形をしており、ところどころでよじれています。
このよじれを天然撚りと言いますが、天然撚りがあることで、糸に紡げばしっかりと絡み合うのです。
糸の弾力性や強度に非常に影響を与えるので、製品にしたものがほつれたり、型崩れしづらかったりというのは、天然撚りが大きく関係しているとも言えます。
綿を手で撚ることを(手つむぎ)イメージすると、ガンジーが糸車を回している有名な写真を思い起こします。
当時細い糸を紡ぐときは、早朝に霧の立ち込める川のほとりで糸車を回し、指先に油をつけながら紡いだといわれています。
早朝の霧、そして川の近くで湿気っぽい場所が、綿糸をつむぐのに適していたのです。
意匠撚糸、飾り糸、ファンシーヤーン(Fancy yarn)の種類と特徴
糸を撚り合わせて、糸にすることを撚糸といいますが、撚り合わせる糸の速度が違う糸(甘撚り・強撚)、太さや長さ、色など異なる複数の糸同士を組み合わせることによって、変わった外観や構造をもった装飾性のある糸をつくることができます。
また、絹やウールのように素材の違う糸を撚り合わせて両者の長所を生かした糸を作ったり、撚る糸の本数を増やすことで、太い糸や強い糸も作ることができます。
意匠撚糸、意匠糸、飾り糸、ファンシーヤーン(fancy yarn)などと呼びますが、一風変わった糸は、組み合わせによって色々なパターンができるので、多くの種類があります。
ネップヤーン(nep yarn)
代表的な意匠糸の一つで、芯になる糸に、粗糸(まだ撚りのかかっていない繊維)を用いて、間隔をおいてつぶ状の繊維のかたまりを吹き付けながら撚りをかけた糸です。
繊維のかたまりの大小や、吹き付ける間隔の長短、ネップの素材や色を変更することによって、さまざまなバリエーションが生まれます。
ツイード糸にもネップヤーンは、よく用いられます。
スラブヤーン(slub yarn)
スラブとは、紡績糸の不均整な部分を意味しますが、その名前がつくだけあって、一本の糸の中に、太さが違う、膨らんだ太い部分がある糸のことをスラブヤーンといいます。
太番手と細番手の糸、または太い細かいが極端なもの、同じスラブヤーンの2本撚りなど、スラブラーンと一口にいってもさまざまな種類があります。
糸と糸を撚り合せることによって(撚糸)あえて不均整な部分をつくるので、撚糸スラブと呼ばれることもあります。
他の意匠糸と撚り合わせて、用いられることも多いです。
シュニール糸(chenille yarn)
シュニールは(chenilleは英語で毛虫の意)、綿・絹・毛などで織り、こまかい毛をたて、なめらかでつやのあるビロード状に毛羽立てた飾り糸です。
壁糸(corkscrew yarn)
壁糸(corkscrew yarn)は、細い芯となる糸に太い糸が螺旋状に巻きついて見える糸のことです。
この糸を緯糸として織り込むと、荒壁のような風合いなることから名付けられたとされます。
壁糸を使用すると、織物にシャリ感が出るのが特徴的である、夏物に使用されることが多いです。
チェーンヤーン(chain yarn)
チェーンヤーンは、壁糸に、さらに細い一本の糸を添えて逆に撚りをかけて、一見すると鎖のように見える糸のことです。
ささべり糸(笹縁糸)(gimp yarn)
笹縁とは、笹の葉っぱに白く細い縁があるのに似ていることから、衣服や袋物やござなどのへりを、補強や装飾の目的で、布や組紐などで細くふちどったもの意味します。
ささべり糸は細糸を芯にして、太糸を速く送り出して巻きつけ、さらに細糸を引き揃え、その回りに巻きつけたものです。
ノップヤーン(knop yarn)
ノップヤーンは、星糸ともいい、ある一定の間隔ごとに、玉がついているようにみせるために撚り合せた糸のことです。
間断的に一本または二本の巻糸を芯糸の上部にところどころ固め、強く巻き付けて節をあらわします。
金糸(きんし)(gold thread)
その名の通り、金箔を使った糸で、銀糸は銀箔をつかった糸で、刺繍などの装飾用としても使われていました。
ループヤーン(loop yarn)
ループヤーンはカールヤーンとも呼ばれ、糸の表面にループ(輪っか)をもたせた糸です。
糸の中心にある芯糸に、甘く撚られた糸を連続して絡ませることによってつくられます。
杢糸(もくいと)(grandrelle yarn)
杢糸とは、精錬して漂白してある糸と色糸、あるいは色糸同士を2本〜3本撚りあわせたもので、布地にするといわゆる「霜降り」と呼ばれる外観になります。
糸の撚り、特徴を知ることで、素材に対する見方が大きく変わってきます。
【参考文献】『なぜ木綿?綿製品の商品知識 日比暉』