屋号や家紋などの印を入れた印染(しるしぞめ)

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染色の世界には、「印染しるしぞ」と呼ばれるものがあります。

印染は、固有の名称や文字、図案、家紋などを布に染め付ける独特の染色のことを表します。

例えば、商家の入り口や飲食店の入り口を飾り、その店の特色を一目で示す暖簾のれんや、神社ののぼりや大漁旗、商人や職人たちが自らの屋号や店名を染め抜いた粋な印半纏しるしばんてん、祭りに欠かせない法被、浴衣、手ぬぐい、壁掛けや前掛け、腕章といった小物に至るまで、印染が用いられてきた品物は数えきれないほど存在します。

屋号や家紋などの印を入れた印染(しるしぞめ)

印染の歴史は非常に古く、長い歴史の中で、時代の要請に応じてさまざまな印染の製品が生み出されてきました。

戦国時代の武家の旗指物はたさしもの(戦場において自らの存在や所属などを示すために身に着けていた旗)などに見られるように、大名家の家紋を染め抜いたのぼり旗や、正紋じょうもんを染め抜いた陣幕じんまく(武将の野外陣営に張り巡らす幕)などにも用いられてきました。

印染を行っていた職人の多くは、かつて「紺屋」と呼ばれた人々であり、今でも全国各地、特に城下町では「紺屋町」や「染師町」といった地名が多く残されています。

江戸時代には庶民の多くが綿の着物を着用し、藍染めによる紺が主流だったことから、どの町にも紺屋が存在したとも言われます。

印染と分業

染織業界においては、かつては細かく分業制が成り立っており、印染の世界においても、かつてはいくつかの専門的な領域がありました。

それぞれの分業を見ていくと、まず「下絵師」は、基本となる文字や図案、デザインを布に描き、型の元となる図案を布に写します。

次に「糊置師」は、下絵の済んだ布に防染糊ぼうせんのりを筒引きし、染めの前の文様作りを行います。

そして「染師」は、下絵と糊置きが完了した布を染めることを専門にし、生地を引き染めしたり、藍甕あいがめに浸けたりしました。

それぞれの工程が明確に分かれることによって、互いに競い合いながら技術を高めていきました。

一つの工程に特化することにより、精緻な文字や図案に優れたものが生み出され、それにともなって高度な染色技術が求められるようになりました。

特に町民文化が花開く江戸時代中頃には、印染の需要が最も高かったと考えられます。

庶民の職業を示す看板とも言える印半纏しるしばんてんの需要は、特にその数で群を抜いていたと考えられます。

作業着としての印半纏しるしばんてん(職人半纏)需要も、ジャンパーが普及する昭和40年代頃まで続いていました。

その後、印半纏の需要が減ったことに取って代わったのが、お祭りに参加する人の衣装として親しまれてきた祭半纏です。

防染糊によるデザイン

暖簾や旗、幕、風呂敷などに家紋や文様を染め抜く印染は、布の表面だけでなく裏面も人の目が触れるため、生地の表と裏の両方が同じように染め上げられ、防染された文様も両面とくっきりと表現されなければなりません。

着物の染色では、主に表面が重視される一方、印染の場合は、表と裏の区別がつかないほど美しく仕上げることが求められるのです。

印染の染色技法に関しては、2通りの方法が一般的に取られてきました。

1つ目は、伝統的な筒描つつがきの糊防染を用いた染色法です。

手作業による筒描や型染めを用いた糊防染

染めるもの(白生地)に対して文字やデザイン、図柄の下絵を青花あおばなという水につけると消えやすい性質の染料で描きます。

次にその図柄に沿って、もち米とヌカを混ぜ合わせ、石灰によって粘土を調節した防染糊を、筒皮(糊筒)と呼ばれる道具を用いて布の上に置いていきます。

あるいは、渋紙を彫った型紙を用いてヘラで糊置きしていきます。

糊が十分に乾いた後は、染料や顔料で色差しを行い、地色を染めていき、色の差し分け部分には再び糊伏せしたりします。

染めの工程も2〜3度繰り返すことも多く、必要に応じて蒸しを施したりして色素を定着させます。

染色が完了したら、洗いをかけ防染糊を完全に落としてから再び乾燥させて仕上げます。

スクリーンを用いた糊防染

印染の染色技法の二つ目は、スクリーンを用いた糊防染です。

主流となっていたのはスクリーン製版技術によって複雑な型紙を作成したり、切版によるスクリーン型の利用によって行われる顔料捺染なっせん、あるいは染料捺染なっせんによる染色です。

この方法では形の数を重ね合わせることによって複雑な多色染めも比較的簡単にでき、型紙を用いるため数が多いものを染めるのに適しています。

従来の型糊や手糊に比べると染め上がりの点で深みに欠け、文様がシャープになりすぎるという点もありますが、生産性向上と作業性の違いによって主流となっていきました。

印染に使用される染料

使用される染料は、耐光や摩擦堅牢度を重視して、用途によって使い分けられます。

木綿には反応染料、直接染料、顔料樹脂などが用いられ、絹には酸性染料、植物染料、直接染料、アクリルやポリエステルの化学繊維にはカチオン染料や分散染料などというように幅広く用いられてきました。

【参考文献】『月刊染織α1994年6月No.159』

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