染色のはじまりというようなものは、世界中のどの国においても、目の前になる色を持っている植物やその花、木や草の果実、色のある土などを用いて、布やそのほかのものに摺りつけて染めたことから始まったと考えられます。
「摺染」とは、草木の花や葉を布の上からたたいて色を染めたり、花や葉の汁を摺りつけて染めることを表します。
「露草(つきくさ)」や「鶏頭(からあい)」や、「燕子花」や「萩」なども、古くから摺染に用いられていたとされます。
「忍(しのぶ)」の葉を用いた「忍摺り」や「山藍」の葉を使用した摺染は、よく知られています。
染色における忍摺り(しのぶずり)・忍文字摺(しのぶもじずり)
忍摺り(忍文字摺)は、信夫郡(福島県)から産出したものは、忍草の色素を用いて、乱れた文様を摺って表現したものです。

忍草(しのぶぐさ),Davallia mariesii,Krzysztof Ziarnek, Kenraiz, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons,Link
平安時代前期の歌集である『古今和歌集(古今集)』に記載される河原左大臣の歌には、「しのぶもじずり」が出てきます。
陸奥の忍ぶもじ摺り誰故に乱れ初めにし我ならなくに
現代語訳)陸奥でつくられる「しのぶもじずり」の摺り衣の模様のように、私の心が乱れています。いったい誰のせいでしょう。(あなたのせいですよ)
上記の歌から、「忍ぶもじ摺り」は「みだれ」を導き出す序詞として用いられ、恋情を表しました。