金彩(きんだみ)とは?金彩の技法や加工技術、金属材料の種類や使用する糊料、道具について


金彩きんだみとは、文字の通り「金」で「いろどる」金加工のことを表し、細工物にはく金泥きんでいで装飾する技法です

金彩きんだみの技術を簡単に言うと、繊維の上に金属を糊料こりょうで接着する技術ということになります。

金彩きんだみは、安土桃山あづちももやま時代の摺箔すりはくでみるように繻子しゅす綸子りんず地などを主に、衣服に金箔きんぱく金泥きんでいで加工してきた歴史的経過があります。

金彩きんだみと同じ金加工の技法に、印金いんきんがあります。

印金いんきんは、しゃなどの薄手の生地に加工し、袈裟けさ表具ひょうぐ、仏具に主な使途がありました。

白繻子地桔梗模様摺箔-Noh Costume (Surihaku) with Chinese Bellflowers MET DP217601

白繻子地桔梗模様摺箔,Metropolitan Museum of Art, CC0, via Wikimedia Commons,Link

金彩の技法と主な加工技術

金彩きんだみの技法を使用した友禅ゆうぜんがあり、全体の模様に金彩きんだみを用い、最後に地の部分に刷毛はけでぼかし染めなどが入れられます。

友禅ゆうぜんの模様部分も、筆でのりをおいて砂子すなごで加工したりします。

金彩きんだみの技法には、さまざまな加工の技術があり、下記で紹介していきます。

金括り(きんくくり)

くくりは金線きんせん描きや筒描つつがきとも呼び、友禅模様の糸目の部分を筒描つつがき(筒引き)によって金糊きんのり金粉きんぷんを混ぜた金色ののりで金線を描いていきます。

糸目箔(いとめはく)

接着剤を糸目いとめの上に塗って、はくを当てて、余分な部分を除くと、糸目部分に、金色の線が表れます。

押し箔(おしはく)

押し箔おしはくは、ベタはくともいい、模様の必要部分の全面に接着剤を筆を使って塗り、はくを上から当て、軽く上からおさえて密着させ、余分な部分を除くと、一面をはくで埋められます。

摺箔(すりはく)

摺箔すりはくは、型押しや小紋こもん押しとも呼ばれ、模様を彫った型紙を使用します。

友禅模様の地の部分に摺箔すりはくする場合は、金で装飾したい模様部分を縁蓋えんぶたしてから型紙を当てて、接着剤をこまベラで型置きしたのち、はくを置き、余分な部分を除くと型紙通りの箔文様はくもんようが表れます。

砂子(すなご)

砂子すなごは、振り金砂子ともいい、砂子すなごを振りかける生地の部分に、接着剤を筆で塗布とふし、竹筒の底に金網を敷いた砂子筒すなごつつに様々な形のはくを入れ、落とし刷毛はけで筒のなかのはくをもみ落とします。

砂子すなごはくの大きさは、底の金網の密度で決まります。

切箔(きりはく)

切箔きりはくは、野毛のげ截金きりがねとも言います。

一枚、または数枚のはく鹿皮台しかがわだいにのせて、竹刀ちくとうで四角やさまざまな形で切ったものを切箔きりはくと呼び、細長く切ったものを野毛のげと呼んでいます。

はくを散らす部分に接着剤を筆で塗って、切箔きりはく野毛のげを散らす方法と、摺箔すりはくのように、切箔きりはく模様を彫った型紙で接着剤を型置きし、切箔きりはくを置く方法があります。

揉み箔(もみはく)

揉み箔もみはくとは、ローケツ染めの亀裂のような状態を金彩きんだみで表現する方法です。

生地に接着剤を塗って押し箔おしはくしてから、生地を手で揉むことで亀裂を表現できます。

真綿揉み箔(まわたもみはく)

真綿揉み箔まわたもみはくは、生地に接着剤を塗って、その上に引き伸ばした真綿まわたを置きます。

真綿まわたの上にはくを置き、生乾きになったタイミングで真綿まわたをはがすと、真綿まわたのクモの巣のように伸びている繊維によってはくに亀裂が生まれます。

叩き(たたき)

叩きは、砂子すなごよりも力強い表現を出すときに用います。

接着剤を、毛の硬い刷毛はけやスポンジなどで生地の必要な部分に叩きようにして塗布とふします。

その上からはく砂子すなごをつけて、乾燥後に余分な部分を除きます。

箔剥がし(はくはがし)

箔剥がしはくはがしは、すり剥がしとも言います。

友禅模様を染めてある上から、必要な部分に接着剤を塗り、押し箔おしはくします。

乾燥してから天鵞絨ビロード別珍ベッチンなどの布を使って貼ったはくをすって剥がし、下地の友禅模様をのぞかせるようにする表現方法です。

盛り上げ(もりあげ)

盛り上げは、その名前の通り、はく金泥きんでい描きした部分を立体的にするために盛り上げる方法です。

筒引きや型紙を使って接着剤を重ねて塗り、その上から押し箔おしはくします。

樹脂じゅしを使い、立体的に盛り上げる方法もあります。

木目ずり(もくめずり)

木目もくめずりは、木目の出ている板に生地をふのりなどで地張りして、版画用のバレンや刷毛はけ金泥きんでいをつけて表面をると、金色の木目模様ができます。

箔ぼかし(はくぼかし)

はくぼかしは、筒や筆で必要な部分に接着剤を塗り、そこから指で伸ばしてぼかしてからはくをおきます。

乾燥後、硬い刷毛はけで叩くようにしてはくをすり剥がし、ぼかしを表現します。

焼き箔(やきはく)

本銀箔ほんぎんはくに紙を当てて、その上に硫黄いおうの粉末をまいて熱いアイロンで押さえると、硫黄の部分が青黒く変色して焼き箔やきはくができます。

焼付け箔粉(やきつけはくふん)

友禅模様の必要な部分の上に、乾燥した熱で溶ける粉末を散布して、その上にはくを置きます。

熱いアイロンではくに当てると粉末が溶け、はくが模様に接着します。

はくは、焼けて渋く感じる色合いになります。

金属材料の種類

金彩きんだみに使用する金属材料は、その形状からはくでい、粉に大きく分類され、原料の素材によっては金、白金、銀、アルミニウム、真鍮しんちゅうに分けられ、用途によって使い分けられます。

箔(はく)

はくは、金属を薄く延ばしたもので、石川県金沢市が金箔きんぱくづくりで有名です。

金箔(きんぱく)

金箔きんぱくは、上品な光沢感や薄くて柔軟な性質から、金彩きんだみ工芸の素材としては最高のものですが、非常に高価です。

金箔きんぱくには、その柔軟性を増やすために、必ずいくぶんかの銀が混入されていますが、銀の比率が大きいほど青味を帯び、少ないほど赤みを帯びるとされます。

白金箔(はっきんはく)

ほぼ、100パーセントに近い高純度の白金はっきん(プラチナ)箔は、光沢感のある渋い淡鼠色うすねずみいろをしていますが、高価なため、特殊な用途に使用されます。

銀箔(ぎんぱく)

白っぽい上品な光沢を持つ純度100パーセントの正銀箔しょうぎんぱくは、時間が経過すると黒く変色する性質を持つため、表面に変色防止の樹脂加工をほどこして使用されます。

銀箔ぎんぱくに着色加工した着色銀箔ぎんぱくが、多種多様な色彩があり、よく使用されています。

アルミニウム箔

アルミニウムはくは、空気による変色がなく、価格が低いため、銀の代用箔として使用されます。

銀箔ぎんぱくのような上品な光沢ではなく、黒っぽい光沢があり、酸やアルカリによって腐食する性質があります。

染料と樹脂によって着色加工した着色アルミニウム箔があり、色数も豊富です。

ホットスタンピング箔

ホットスタンピングとは、ホットスタンピング箔を利用し、専用の機械で熱と圧力をかけることで金属調の文字や絵柄などを転写する加工法のことを言います。

泥(でい)

はくの粒子をでいといい、金泥きんでい銀泥でい、アルミニウム泥などがあります。

でいをつくるのに使用される箔屑はくくずは、はくをつくる際に切り落とされた部分や、金彩きんだみ加工で出るはくの屑が使用されます。

(ふん)

金属粉きんぞくふんは、金彩きんだみ加工では、主に樹脂と混ぜて筒描きに用いられ、金、銀、銅、真鍮しんちゅう、アルミニウムなどがあります。

ふんは、樹脂と混ぜるため、真鍮しんちゅうであっても変色の心配はなく、着色されたものも多くあります。

糊料(接着剤)

金彩きんだみ加工に用いられる糊料こりょうは、大きく溶剤性樹脂(金糊きんのり)と水溶性樹脂(箔下糊はくじたのり)の二つに分けられます。

金糊(きんのり)

金糊きんのりは、金粉きんぷんと混ぜ、筒描き(金線描き)に用いられる溶剤性樹脂です。

箔下糊(はくじたのり)

箔下糊はくじたのりは、摺箔すりはく押し箔おしはくなどの使用される白色状の接着剤です。

金彩加工に用いられる道具

金彩きんだみ加工は、繊細な作業が必要なため、必要とされる道具があります。

箔箸(はくばし)

はくは、シワになりやすく、指にくっついたりするので、直接手で触れることはできません。

はくを移し替えたり、挟んだりするのは、箔箸はくばしはくばさみと呼ばれる竹でできたピンセットのようなはしを使用します。

振筒(ふりづつ)

振筒ふりづつは、円筒形えんとうけい竹筒たけづつの先端に金網を張ったもので、砂子すなご(振り金砂子)に用います。
砂子筒すなごづつとも呼ばれ、中に箔屑はくくずを入れ、硬い毛質で毛先が短い「たたき筆」で金網を通して金を振り落とします。

砂子筒すなごづつは、金網のメッシュ、筒の大きさにも種類があります。

金線毛書(きんせんがき)

泥描でいがきには、模様によってさまざまな筆が使われますが、特に細い線を描く場合は、イタチやタヌキなどの良質な毛を使った、非常に細い筆を用います。

マスキングテープ

マスキングテープは、ポリエステルやナイロンなどの薄い膜の片面、もしくは両面に接着剤が塗っており、生地に接着面を貼り付け、カッターで模様に合わせて切り、縁蓋えんぶたとして使用します。

【参考文献】『月刊染織α1985年No.52』


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