金彩とは、文字の通り「金」で「彩る」金加工のことを表し、細工物に箔や金泥で装飾する技法です。
金彩の技術を簡単に言うと、繊維の上に金属を糊料で接着する技術ということになります。
金彩は、安土桃山時代の摺箔でみるように繻子や綸子地などを主に、衣服に金箔 や金泥で加工してきた歴史的経過があります。
金彩と同じ金加工の技法に、印金があります。
印金は、羅や紗、絽などの薄手の生地に加工し、袈裟や表具、仏具に主な使途がありました。
目次
金彩の技法と主な加工技術
金彩の技法を使用した友禅があり、全体の模様に金彩を用い、最後に地の部分に刷毛でぼかし染めなどが入れられます。
友禅の模様部分も、筆で糊をおいて砂子で加工したりします。
金彩の技法には、さまざまな加工の技術があり、下記で紹介していきます。
金括り(きんくくり)
金括りは金線描きや筒描きとも呼び、友禅模様の糸目の部分を筒描き(筒引き)によって金糊に金粉を混ぜた金色の糊で金線を描いていきます。
糸目箔(いとめはく)
接着剤を糸目の上に塗って、箔を当てて、余分な部分を除くと、糸目部分に、金色の線が表れます。
押し箔(おしはく)
押し箔は、ベタ箔ともいい、模様の必要部分の全面に接着剤を筆を使って塗り、箔を上から当て、軽く上からおさえて密着させ、余分な部分を除くと、一面を箔で埋められます。
摺箔(すりはく)
摺箔は、型押しや小紋押しとも呼ばれ、模様を彫った型紙を使用します。
友禅模様の地の部分に摺箔する場合は、金で装飾したい模様部分を縁蓋してから型紙を当てて、接着剤を駒ベラで型置きしたのち、箔を置き、余分な部分を除くと型紙通りの箔文様が表れます。
砂子(すなご)
砂子は、振り金砂子ともいい、砂子を振りかける生地の部分に、接着剤を筆で塗布し、竹筒の底に金網を敷いた砂子筒に様々な形の箔を入れ、落とし刷毛で筒のなかの箔をもみ落とします。
砂子の箔の大きさは、底の金網の密度で決まります。
切箔(きりはく)
切箔は、野毛や截金とも言います。
一枚、または数枚の箔を鹿皮台にのせて、竹刀で四角やさまざまな形で切ったものを切箔と呼び、細長く切ったものを野毛と呼んでいます。
箔を散らす部分に接着剤を筆で塗って、切箔、野毛を散らす方法と、摺箔のように、切箔模様を彫った型紙で接着剤を型置きし、切箔を置く方法があります。
揉み箔(もみはく)
揉み箔とは、ローケツ染めの亀裂のような状態を金彩で表現する方法です。
生地に接着剤を塗って押し箔してから、生地を手で揉むことで亀裂を表現できます。
真綿揉み箔(まわたもみはく)
真綿揉み箔は、生地に接着剤を塗って、その上に引き伸ばした真綿を置きます。
真綿の上に箔を置き、生乾きになったタイミングで真綿をはがすと、真綿のクモの巣のように伸びている繊維によって箔に亀裂が生まれます。
叩き(たたき)
叩きは、砂子よりも力強い表現を出すときに用います。
接着剤を、毛の硬い刷毛やスポンジなどで生地の必要な部分に叩きようにして塗布します。
その上から箔や砂子をつけて、乾燥後に余分な部分を除きます。
箔剥がし(はくはがし)
箔剥がしは、すり剥がしとも言います。
友禅模様を染めてある上から、必要な部分に接着剤を塗り、押し箔します。
乾燥してから天鵞絨や別珍などの布を使って貼った箔をすって剥がし、下地の友禅模様をのぞかせるようにする表現方法です。
盛り上げ(もりあげ)
盛り上げは、その名前の通り、箔や金泥描きした部分を立体的にするために盛り上げる方法です。
筒引きや型紙を使って接着剤を重ねて塗り、その上から押し箔します。
樹脂を使い、立体的に盛り上げる方法もあります。
木目ずり(もくめずり)
木目ずりは、木目の出ている板に生地をふのりなどで地張りして、版画用のバレンや刷毛に金泥をつけて表面を摺ると、金色の木目模様ができます。
箔ぼかし(はくぼかし)
箔ぼかしは、筒や筆で必要な部分に接着剤を塗り、そこから指で伸ばしてぼかしてから箔をおきます。
乾燥後、硬い刷毛で叩くようにして箔をすり剥がし、ぼかしを表現します。
焼き箔(やきはく)
本銀箔に紙を当てて、その上に硫黄の粉末をまいて熱いアイロンで押さえると、硫黄の部分が青黒く変色して焼き箔ができます。
焼付け箔粉(やきつけはくふん)
友禅模様の必要な部分の上に、乾燥した熱で溶ける粉末を散布して、その上に箔を置きます。
熱いアイロンで箔に当てると粉末が溶け、箔が模様に接着します。
箔は、焼けて渋く感じる色合いになります。
金属材料の種類
金彩に使用する金属材料は、その形状から箔、泥、粉に大きく分類され、原料の素材によっては金、白金、銀、アルミニウム、真鍮に分けられ、用途によって使い分けられます。
箔(はく)
箔は、金属を薄く延ばしたもので、石川県金沢市が金箔づくりで有名です。
金箔(きんぱく)
金箔は、上品な光沢感や薄くて柔軟な性質から、金彩工芸の素材としては最高のものですが、非常に高価です。
金箔には、その柔軟性を増やすために、必ずいくぶんかの銀が混入されていますが、銀の比率が大きいほど青味を帯び、少ないほど赤みを帯びるとされます。
白金箔(はっきんはく)
ほぼ、100パーセントに近い高純度の白金(プラチナ)箔は、光沢感のある渋い淡鼠色をしていますが、高価なため、特殊な用途に使用されます。
銀箔(ぎんぱく)
白っぽい上品な光沢を持つ純度100パーセントの正銀箔は、時間が経過すると黒く変色する性質を持つため、表面に変色防止の樹脂加工をほどこして使用されます。
銀箔に着色加工した着色銀箔が、多種多様な色彩があり、よく使用されています。
アルミニウム箔
アルミニウム箔は、空気による変色がなく、価格が低いため、銀の代用箔として使用されます。
銀箔のような上品な光沢ではなく、黒っぽい光沢があり、酸やアルカリによって腐食する性質があります。
染料と樹脂によって着色加工した着色アルミニウム箔があり、色数も豊富です。
ホットスタンピング箔
ホットスタンピングとは、ホットスタンピング箔を利用し、専用の機械で熱と圧力をかけることで金属調の文字や絵柄などを転写する加工法のことを言います。
泥(でい)
箔の粒子を泥といい、金泥、銀泥、アルミニウム泥などがあります。
泥をつくるのに使用される箔屑は、箔をつくる際に切り落とされた部分や、金彩加工で出る箔の屑が使用されます。
(ふん)
金属粉は、金彩加工では、主に樹脂と混ぜて筒描きに用いられ、金、銀、銅、真鍮、アルミニウムなどがあります。
粉は、樹脂と混ぜるため、真鍮であっても変色の心配はなく、着色されたものも多くあります。
糊料(接着剤)
金彩加工に用いられる糊料は、大きく溶剤性樹脂(金糊)と水溶性樹脂(箔下糊)の二つに分けられます。
金糊(きんのり)
金糊は、金粉と混ぜ、筒描き(金線描き)に用いられる溶剤性樹脂です。
箔下糊(はくじたのり)
箔下糊は、摺箔や押し箔などの使用される白色状の接着剤です。
金彩加工に用いられる道具
金彩加工は、繊細な作業が必要なため、必要とされる道具があります。
箔箸(はくばし)
箔は、シワになりやすく、指にくっついたりするので、直接手で触れることはできません。
箔を移し替えたり、挟んだりするのは、箔箸や箔ばさみと呼ばれる竹でできたピンセットのような箸を使用します。
振筒(ふりづつ)
振筒は、円筒形の竹筒の先端に金網を張ったもので、砂子(振り金砂子)に用います。
砂子筒とも呼ばれ、中に箔屑を入れ、硬い毛質で毛先が短い「たたき筆」で金網を通して金を振り落とします。
砂子筒は、金網のメッシュ、筒の大きさにも種類があります。
金線毛書(きんせんがき)
泥描きには、模様によってさまざまな筆が使われますが、特に細い線を描く場合は、イタチやタヌキなどの良質な毛を使った、非常に細い筆を用います。
マスキングテープ
マスキングテープは、ポリエステルやナイロンなどの薄い膜の片面、もしくは両面に接着剤が塗っており、生地に接着面を貼り付け、カッターで模様に合わせて切り、縁蓋として使用します。
【参考文献】『月刊染織α1985年No.52』