パルプは、原料の違いから木材パルプと非木材パルプに分けられます。
パルプは、紙の原料として知られていますが、再生繊維であるレーヨンやキュプラの主要な原料でもあります。
1892年、イギリス人によって木材パルプを原料にレーヨンが発明され、これから人工的な繊維が実用的に使用されるようになりました。
レーヨンやキュプラは、木材から取れるセルロースや綿花を採取した後の種子の表面に付いて残っている2mm〜6mmほどの短い繊維で、紡績用には向かないコットンリンター(cotton linter)を溶かしてから固めて繊維状にしたものです。

BALLS OF COTTON,Mamichaelraj, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link
木材パルプ
木材パルプは、木の幹の樹皮を取り除き、そのままチップ化したものに、機械的、科学的、あるいは複合的な処理をしてつくられます。
原料の木材は、針葉樹と広葉樹共に使われますが、針葉樹のパルプは繊維が長く丈夫であるのに対して、広葉樹は繊維が短くきめ細かいパルプができるという特徴があります。
海外では、えぞ松などロシアのシベリア地方で産出される北洋材の針葉樹が多く使用されていますが、国産材ではブナやナラなどの広葉樹が主体になっています。
木材の組成は、原木の種類によって大きく変わってきますが、おおよそセルロース分が約50%、リグニンが約25%、ヘミセルロース約23%、樹脂・その他が約2%からなっています。
非木材パルプ
ケナフ
非木材パルプとしては、アフリカが原産地とされる一年草のケナフ(Kenaf)が挙げられます。

ケナフ,Dinesh Valke from Thane, India, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons,Link
ケナフ(学名:Hibiscus cannabinus)はアオイ科フヨウ属の植物で、またこれから得られる繊維を指してケナフといいます。

ケナフ畑,Tu7uh, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons,Link
生長は非常に早いのが特徴で、100日から125日で成熟し、高さ 1.5m~3.5m、茎の直径 1~2cmになります。
繊維自体は、洋麻、アンバリ麻、ボンベイ麻などともいいます。

ケナフ繊維,Kenaf,Elke Wetzig (elya), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons,Link
ケナフは繊維を目的として、インド、バングラデシュ、タイ、アフリカの一部、ヨーロッパの東南部など、世界中で古くから栽培され、栽培品種は約200種ほどあるとされています。
木材パルプに比べて一般的に繊維が長く、その特性を生かして和紙や薄手の紙に使用されることが多くあります。
生産効率に関しては、原料の集荷や集積が効率的でなく、大規模の製造もされていないため、木材パルプと比べると、高価です。
バガス
サトウキビの汁を絞ったあとに出る繊維が、バガス(Bagasse)と呼ばれます。
バガスを原料としたバガスパルプは、植物パルプとしてはわらに次ぐ年間約370万トン(約16%)が生産されているようです。

バガス,Bagasse,Anna Frodesiak, CC0, via Wikimedia Commons,Link
木材は運搬コストがかかりますが、バガスの場合、毎年サトウキビを大規模に栽培している場所の近くに工場をつくれば、輸送も楽で効率的に加工することができます。
木材パルプから生まれる繊維
レーヨン
20世紀前半は、「レーヨンの時代」と言ってもいいほど、レーヨンという繊維が台頭していました。
レーヨンはシルクに似せて作った再生繊維なので、昔は人絹とも呼ばれていたのです。
ポリエステル、ナイロン、アクリルの強度と比べてしまうと弱いですが、水分を含みやすく、光沢感があり、染色性が非常に良く、熱に強いなどの特徴があるので、それを生かしてある程度の市場規模をもっています。
人造絹糸というだけあって、染色後の美しさは化学繊維のなかでは抜群にすぐれています。
アセテート繊維
レーヨンを化学的に改良したものに、アセテート繊維があります。
アセテート繊維は、レーヨンの主原料である木材パルプに、合成薬品の酢酸を化学的に作用させてつくった半合成繊維です。
植物繊維と合成繊維の両方の性質を併せ持っているアセテート繊維の特徴は、シルクのような光沢感とやわらかい感触に加えて、染色における発色の良さなどが挙げられます。
熱を加えても燃焼時における嫌な臭いが出にくいという性質があり、タバコのフィルターに活用されています。タバコの味を変えないためには、嫌な臭いが出にくいというのは非常に重要な点です。
引っ張ったり、摩擦などの外力に対しては、比較的弱いという性質もあります。
これまでも日本での生産は少ないですが、アメリカでは衣料品に大量に使われてきました。
トリアセテート繊維
アセテート繊維よりも酢酸が多く反応したものに、トリアセテート繊維があります。
トリアセテート繊維は、アセテート繊維よりも吸湿性が低く、耐熱性に優れています。
高分子という概念が化学繊維を進歩させた
無機繊維と金属繊維以外の化学繊維は、「高分子」と呼ばれる細長い形をした分子でできています。
高分子は、ヒモのように分子が繋がっているため、低分子とは異なる形状を取るので、それによって特異な性質を発揮します。
例えば、デンプンや木材、綿、ゴムなどは非常に有用な天然の高分子です。
人工的に合成される高分子は、モノマー(単量体)がたくさん連結、重合することでポリマー(多量体)になります。モノマーの連結している数を、重合度と言い、2種類以上のモノマーを重合させたコポリマー(共重合体)もたくさんあります。
天然の高分子では、タンパク質がコポリマーの典型的な例となります。
ヒモ状の高分子が、軟らかいのか、それとも硬いのか、分子の間に働く力が強いのか、それとも弱いのか、分子同士がどれほど互いに絡み合いながら規則性をかたち作っているのかなどによって、様々な性質が現れてきます。
繊維を構成する高分子は、軽くて強くて加工性がよく、力学、熱、電気、光などに対する性質、または化学薬品に対する性質など、多彩な性質を持っているのです。
天然の高分子は構造が複雑ですが、一般的な合成された高分子は、簡単な構造から組み立てられており、その合成方法によっていろんな性質を持ったものになります。
【参考文献】