木材パルプは、紙の原料として主に使用され、木の幹の樹皮を取り除き、そのままチップ化したものに、機械的、科学的、あるいは複合的な処理をしてつくられます。
原料の木材は、針葉樹と広葉樹共に使われますが、針葉樹のパルプは繊維が長く丈夫であるのに対して、広葉樹は繊維が短くきめ細かいパルプができるという特徴があります。
海外では、えぞ松などロシアのシベリア地方で産出される北洋材の針葉樹が多く使用されていますが、国産材ではブナやナラなどの広葉樹が主体になっています。
木材の組成は、原木の種類によって大きく変わってきますが、おおよそセルロース分が約50%、リグニンが約25%、ヘミセルロース約23%、樹脂・その他が約2%からなっています。
目次
木材パルプから作られる繊維
1892年、イギリス人によって木材パルプを原料にレーヨン(rayon)が発明され、これから人工的な繊維が実用的に使用されるようになりました。
レーヨンは、木材から取れるセルロースや、綿花を採取した後の種子の表面に付いて残っている2mm〜6mmほどの短い繊維で、紡績用には向かないコットンリンター(cotton linter)を溶かしてから固めて繊維状にしたものです。
レーヨン(Rayon)
20世紀前半は、「レーヨンの時代」と言ってもいいほど、レーヨンという繊維が台頭していました。
レーヨンはシルクに似せて作った再生繊維なので、昔は人絹とも呼ばれていたのです。
ポリエステル、ナイロン、アクリルの強度と比べてしまうと弱いですが、水分を含みやすく、光沢感があり、染色性が非常に良く、熱に強いなどの特徴があるので、それを生かしてある程度の市場規模をもっています。
人造絹糸というだけあって、染色後の美しさは化学繊維のなかでは抜群にすぐれています。
アセテート(Acetate)
レーヨンを化学的に改良したものに、アセテート繊維があります。
アセテート繊維は、レーヨンの主原料である木材パルプに、合成薬品の酢酸を化学的に作用させてつくった半合成繊維です。
植物繊維と合成繊維の両方の性質を併せ持っているアセテート繊維の特徴は、シルクのような光沢感とやわらかい感触に加えて、染色における発色の良さなどが挙げられます。
熱を加えても燃焼時における嫌な臭いが出にくいという性質があり、タバコのフィルターに活用されています。タバコの味を変えないためには、嫌な臭いが出にくいというのは非常に重要な点です。
引っ張ったり、摩擦などの外力に対しては、比較的弱いという性質もあります。
これまでも日本での生産は少ないですが、アメリカでは衣料品に大量に使われてきました。
トリアセテート(Triacetate)
アセテート繊維よりも酢酸が多く反応したものに、トリアセテート繊維があります。
トリアセテート繊維は、アセテート繊維よりも吸湿性が低く、耐熱性に優れています。
非木材パルプ
非木材パルプとは「木材を原料にしないパルプ」であり、木材から作られる繊維とは違った特徴があり、様々な分野の紙の原料として使用されています。
非木材繊維は木を伐採する必要がないため、環境面でも優れた原料の一つと言えます。
ケナフ(Kenaf)
非木材パルプとしては、アフリカが原産地とされる一年草のケナフ(Kenaf)が挙げられます。
ケナフ(学名:Hibiscus cannabinus)はアオイ科フヨウ属の植物で、またこれから得られる繊維を指してケナフといいます。
生長は非常に早いのが特徴で、100日から125日で成熟し、高さ 1.5m~3.5m、茎の直径 1~2cmになります。
繊維自体は、洋麻、アンバリ麻、ボンベイ麻などともいいます。
ケナフは繊維を目的として、インド、バングラデシュ、タイ、アフリカの一部、ヨーロッパの東南部など、世界中で古くから栽培され、栽培品種は約200種ほどあるとされています。
木材パルプに比べて一般的に繊維が長く、その特性を生かして和紙や薄手の紙に使用されることが多くあります。
生産効率に関しては、原料の集荷や集積が効率的でなく、大規模の製造もされていないため、木材パルプと比べると、高価です。
バガス(Bagasse)
サトウキビの汁を絞ったあとに出る繊維が、バガス(Bagasse)と呼ばれます。
バガスを原料としたバガスパルプは、植物パルプとしてはわらに次ぐ年間約370万トン(約16%)が生産されているようです。
木材は運搬コストがかかりますが、バガスの場合、毎年サトウキビを大規模に栽培している場所の近くに工場をつくれば、輸送も楽で効率的に加工できます。
アバカ(マニラ麻)Abaca(Manila hemp)
フィリピン原産で、のアバカ(マニラ麻)は、ボルネオ島やスマトラ島にも広く分布し、外見はバナナと非常に似ています。
5m~6mほどに成長するため、木のように見えますが、植物学的には多年草です。
生⾧した個体は根を残して切り倒し、葉鞘(葉柄の基部が発達してさや状となり茎を抱擁または包囲する部分)を引きはがします。
引きはがした葉鞘からペクチン質を主体とする柔らかな部分を取り除き、⾧さが1.5m〜3.5mほどになる繊維だけを取り出します。
残された根からは新しい植物が生⾧します。
この繊維は、植物から取り出されるものの中でも非常に堅牢で耐久性があり、ロープなど実用的なものに使用されてきました。
アバカ繊維をパルプ化したものが、紙の材料としても使用されるのです。
【参考文献】