老松文は、松模様(文様)の一つです。
能舞台の鏡板に描かれている老松の図は、典型的な老松文です。
「教訓抄」という鎌倉時代に記された日本国最古の舞楽書によると、松はとくに芸能の神様の依代(神霊が依り憑く対象物のこと)であり、能舞台の鏡板に描かれている松の絵のルーツは、奈良の春日大社の「影向の松(よごうのまつ)」に由来しているとされます。
デザインにおける老松模様(おいまつもよう)・老松文(おいまつもん)
松は古くから、神様が天上界から地上界に降りてくることを「待つ」神聖でめでたい木とされてきました。
室町時代初期の猿楽師であった世阿弥は、父の観阿弥とともに猿楽(能楽のかつての呼び名)を発展させ、今日にまで続く能楽の基礎を作りました。
世阿弥が作る演目のほとんどは、とてもこの世のものとは思えない物語であったため、神霊に降りてきてもらわないことには話が始まらず、神が地上界に降りてくる足がかりとしての老松が必要だったのです。
老松文は、染織品のデザイン(能装束など)にも用いられてきました。
例えば、林原美術館に所蔵されている江戸時代に作られた能装束の「青海波老松文金襴袷狩衣」には、青海波模様とともに老松が描かれています。