人類は、紀元前から蚕が吐き出す絹糸(シルク糸)を利用してきました。
中国においては、長きにわたって絹に関する技術は国外秘にされていましたが、絹織物は、古代ギリシャのアレクサンダー大王(紀元前356年〜紀元前323年)の頃から絹の交易の道であったシルクロードを通じて輸出されていました。
シルク(絹)を生み出す蚕(かいこ)の一生
蚕は卵→幼虫→蛹→成虫(蛾)の4時代を経て、一生を終えます。
幼虫時代の終わりに吐糸菅から繊維になる液を出して繭を作り、その中で蛹になります。
卵からかえった幼虫は毛が生えていて黒いため、「毛蚕」と呼びます。
毛蚕は、桑の葉を食べて成長しますが、体がだんだんと黄味を帯びてきて、桑を食べず静止する時期があります。
これを「眠」といい、この間に新しい外皮ができます。
脱皮した蚕は、再び桑の葉を食べて成長します。
普通のものは4回眠ると幼虫として十分に成長し、繭を作ります。
繭の中で脱皮すると蛹となり、その後12〜13日して、さらに蛹の外皮を脱いで蛾となり、繭を破って外に出ます。
蛾は後尾をして卵を産み、やがて死にます。
蚕が繭を作るには、まず吐糸して足場を作り、次に自らの体を囲んで繭を作ります。
蚕は頭部を左右に振りながら吐糸するため、繭の糸は8字形、もしくはS字形に連続します。
糸は2本の絹糸腺から分泌された液が固まったものであるため、2本の繊維が平行に並び、セリシンという膠質で互いに付着し合います。
蚕(かいこ)の種類
蚕は生物分類学上、鱗翅目の蛾類に属していますが、大きく6種類に分類できます。
- カイコガ科・・・カイコ(家蚕)、クワコ(桑蚕)、インドクワコなど
- ヤママユガ科・・・サクサン(柞蚕)、ヤママユガ(天蚕)、クスサン(樟蚕)など
- ギョウレツムシ科・・・アナフェサンなど
- カレハガ科・・・カレハガ、オビカレハなど
- ミノガ科・・・チャミノガなど
- ヤガ科・・・キノカワガ、ハイイロリンガなど
この中で、特に実用的な繭をつくる野蚕がヤママユガ科に属しており、繭をつくる蛾類の多くは熱帯や温帯地域に生息しています。
繭の色や形、大きさもそれぞれ違いがあり、家蚕の繭は人間の都合の良いように淘汰改良されてきたため白色ですが、本来野蚕の繭は、天敵から身を守るために、タンニンによって茶色味ががったものや、フラボン系色素によって黄緑色をしているのが一般的です。
日本におけるシルクは白、というイメージをもつ人が多いと思いますが、インド産のシルクなどは、精錬していないものですと、やはり茶色味がかったものが多いです。
それは、繭そのものの色ということです。
家蚕(かさん)と野蚕(やさん)の分類
蚕は、家蚕と野蚕括りにも大きく分類できます。
野生であったものを人工的に繁殖させたり、品種改良しながら飼育された蛾が「家蚕」と呼ばれます。
また、野生に生息していたり、野生に近い状態のマユをつくる昆虫類を「野生絹糸虫」と総称し、その中で特に実用的なマユをつくる品種を「野蚕」と呼んでいます。
品種によって繭の形や大きさ、色、糸量、糸質などに違いがあり、それぞれ長短があります。
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