インドネシアの織物の中で模様を織り出す技法としては、紋織りとともに、広い地域で行われていたのが絣です。
目次
イカット(ikat)とは?
インドネシアの絣の大半は括り絣であり、絣を表す世界共通語であるイカット(ikat)という言葉はインドネシア語の「括る・結ぶ」という動詞の語幹であり、最初はインドネシアの絣を指して使用されていた言葉です。
インドネシアのイカット(絣)は平織りでおられ、経絣、緯絣、経緯絣があり、柄が上下左右対称に描かれている点が特徴的です。
イカットの染色
イカット(絣)を染める染料には、藍やヤエヤマアオキ(茜)、カカツガユ、ウコン、スオウ、ビンロウジなどの植物が使用され、藍と赤をベースにした絣が多くを占めます。
藍染は、ニラと呼ばれるキアイやナンバンコマツナギが使用され、生育の良い雨季にまとめて保存用の藍(藍泥)が作られます。
藍(藍泥)の染料づくり
甕に刈り取った藍を水に入れ、一晩放置し、翌日葉を絞って捨てます。
石灰、もしくは木灰を加えて、攪拌し、藍の色素が沈殿するのを待ちます。
すぐに使わない場合は、上澄みを捨てて、沈殿した泥藍を乾燥させて保存します。
使う場合は、この藍を灰汁でのばし、糖分を加えて藍を建てます。
糖分は、サトウキビやパームシュガー(ヤシ糖)、バナナやライムの葉など藍を建てる人の好みによってもさまざまです。
茜(あかね)染め
茜染めには、ムンクドゥーと呼ばれるヤエヤマアオキの根がもっとも多く使われていました。
茜は木綿に直接染まりにくいため、クミリと呼ばれるククイノキの実の油脂分を付着させて、油脂分を通して茜を染めつけます。
クリミの実を潰して、灰でのばし、数種類の樹皮や実を加えた液に数日間つけたあと干します。
ヤエヤマアオキの根を潰してそこに水を加え、もみ潰しては絞ることを繰り返したあと、絞りカスを捨てます。
ロバと呼ばれるハイノキ科の木の樹皮と葉の粉末を加え、クミリ染めした糸を入れてもみ込み、浸染と乾燥を繰り返してします。
藍と茜の染め重ねをする民族もあり、その場合は、藍染→クミリ染め→赤染めの順番で行われることが多いです。
黄染め
黄染めには、カユ・クニンと呼ばれるカカツガユが主に使用され、ウコンはすり潰して絞ったカカツガユの煎汁に混ぜたり、単独でも使われます。
黄染めは緑を染めるための下染になり、藍と重ねて表現されました。
茶色と黒染め
茶色と黒染めには、コヒルギやバカウといったタンニンを多く含むマングローブ植物の樹皮が多く使用されます。
スンバ島では、日本における奄美大島の泥染のように、樹皮が染色に使われ、熱い熱煎に糸や布をつけ、冷めないうちに泥の中に移し、水洗いを繰り返しおこなって染めます。
発色と色止めのための後処理としては、粉末トウモロコシやスオウ(蘇芳)の心材、茜の葉、塩などの混合液につける人もいたようです。
イカットの模様(文様)
イカット(絣)で描かれる模様(文様)には、土着宗教からくる祖先神を表す人像、精霊信仰による動物と花、蛇や鰐の鱗を表すS字、鉤、点などの幾何学文様が多く描かれています。
この他にも、ヒンドゥー教の影響による『ラーマーヤナ物語』(古代インドの大長編叙事詩)の主人公、イスラム教の影響によるアラベスク(唐草)風の草花や月や星、雲などの自然を表すもの、広い範囲でパトラ文様(インド更紗に影響を受けた幾何学文様)を模倣したデザインが描かれています。
オランダの植民地支配下におけるインドネシアには、オランダ東インド会社から物々交換の材料が大量に舶来し、各地の王(ラジャ)に渡った結果、パトラを模倣した文様が織られるようになったと考えられます。
イカット(絣)は、糸を括って防染するのに大変時間がかかり、特に具象的な文様を精細に描くためには多くの労力が必要です。
括り糸は、棕梠(ヤシ科の植物)、タラパヤシ、芭蕉の新葉を乾燥させたものが多く用いられ、括る際には、繊維を裂いて湿らせながら使います。
【参考文献】吉本忍(著)『インドネシア染色体系上・下』